(社福)国立市社会福祉協議会地域生活支援課、地域福祉係、国立市ボランティアセンター
身近な視点で防災市民講座を実施し、災害を自分事として考える ―社会福祉法人国立市社会福祉協議会の取組み
掲載日:2022年10月7日
2022年9月号 連載

(左から)地域生活支援課課長 小山茂孝さん
国立市ボランティアセンター
清水咲也子さん、伊藤真理子さん
地域福祉係 飯田公也さん

 

あらまし

  • 本連載では、発災前の取組みや平時からのつながりづくりによって災害に備える団体を取材し、多様な団体による協働のすすめ方や取組みの工夫を伺います。
    今号では「地域を知る、災害を知る」という視点から、国立市社協国立市ボランティアセンターの防災市民講座の活動を伝えます。

 

 

防災に関心の薄い人にも届けたい

多摩地域中部に位置する国立市は、都内で2番目に小さい市です。国立市社会福祉協議会地域生活支援課課長の小山茂孝さんは「国立市はこれまで大きな災害に見舞われたことがなく、まち全体で防災意識を高めることが課題となっている。市の南側を流れる多摩川周辺の地域と整備された国立駅周辺では、住民の防災への関心度も違う」と、市内の防災への意識について話します。

 

2021年頃まで、国立市社会福祉協議会国立市ボランティアセンター(以下、センター)では、ボランティアスキルアップ講座として、災害ボランティアなどをテーマに年1回防災講座を実施していました。しかし、思うように参加者が集まらず、センターの伊藤真理子さんは「どうしたら防災に関心の薄い人にも興味を持ってもらえるかを考えた」と振り返ります。続けて、「市防災安全課、東京ボランティア・市民活動センターと企画する中で、『災害ボランティアと言っても、一般の方には想像しづらいのではないか』という意見が出た。そこから専門的な言葉を使わずに自分事として考えてもらえるよう身近なテーマを設定しようと考えた」と企画の経緯を話します。

 

 

自分事として想像できるように

伊藤さんは「国立市で災害が起きたらどうなるのだろう、とまずは自分の立場に引き寄せて考えてもらう。『同じ市内でも、被災する人と助ける側に回る人がいるかもしれない』『災害が起きたら地域がどうなるか』『自分は何ができるか』と想像してもらいながら、そのためには平時に何ができるかを考えることにつなげたかった」と講座の狙いを話します。

 

22年3月に行った防災市民講座では、まず「自分のまちが災害にあったらどうなるか知る」を目的に、市内を歩きながら、地域の資源や避難について考える「防災まちあるき」を行いました。その後、災害に備えて自分でできることを考えるワークショップを実施しました。

 

市や国立市社協のコミュニティソーシャルワーカーの協力のもと周知を行い、定員を上回る参加者が集まりました。防災に関心はあったものの、機会がなかったという方や、体験型であることに興味を持ち、初めて参加した方もいたといいます。

 

今回初めて参加した市民に、継続して関心を持ってもらうため、22年6月には、全3回の防災市民講座を行いました。1回目は、ハザードマップを用いて、市内の被害状況や地域の資源を地図に書き込むワークショップ、2回目は、被災地支援にあたる団体から被災地の状況を学び、3回目は、国立市内で防災の活動をしている企業や自主防災組織など複数の団体を招き、地域でどのような防災の活動が行われているかを知る機会を設けました。

 

 

講座から生まれた気づきと動き

参加者からは、ハザードマップの内水被害(※)の想定を見て「大丈夫と思っていた場所でもそうではない」と驚く声や、「実際に自分の目で見て、歩いて、話を聞くことで気づくことが多かった」という声があったといいます。また、各回の講座にはグループワークを設けるように工夫しました。参加者が災害への不安を話したり、他地区の防災の取組みを聞いたりすることで、地域の防災について考えたり行動したりするきっかけになったといいます。

 

講座が終わると早速、参加者から市防災安全課が実施する防災出前講座に申込みがあったほか、発災時のトイレ設置訓練の実施の相談も同課にあり、講座をきっかけに地域の活動につながる動きもありました。

 

小山さんは「災害はいつ起こるか分からない。もちろん、平時から地域全体で密につながれたら良いが、まずは多くの人と緩やかにつながり、もしもの時に集まれることが大切」と話します。参加者からも「市民も縦割りだったことに気づいた」という声があり、一連の講座を通じて、参加者にもつながりの大切さが伝わっている手応えがあるといいます。

 

 

緩やかなつながりを広げていきたい

今後は、防災の話を聞いたり話したりできる場として防災カフェを定期的に開く予定です。今回の防災市民講座でできた関係を絶やさないためにも、年1回の講座だけでなく、定期的に講師から防災について教えてもらい、参加者が話し合う場を計画しているといいます。伊藤さんは「緩やかにつながり、『ここに来たら、防災について聞いたり話したりすることができる』という場所にしたい。参加者と社協がつながったり、参加者同士で新たな活動に発展したり、と広がりができたら良い」と思いを話します。

 

国立市社協コミュニティソーシャルワーカーの飯田公也さんは「万が一災害が起きた時、徐々に日常に戻っていく復興期の段階で、先行きへの不安を持つ方は多い。その時に困りごとを聞いたり、団体間で情報共有したりすることが社協の役割だが、それは日頃からのつながりがあってこそ機能する」と話します。センターでは、防災の取組みをすすめる行政や公民館との連携だけでなく、地域の青少年地区育成会からの声掛けで防災訓練に参加したり、子ども食堂との防災の講座を計画するなど、積極的に地域に赴いています。

 

伊藤さんは「災害時には災害ボランティアセンターを立ち上げ、相談の窓口にもなるボランティアセンターの存在を、より多くの方に知ってもらい、人や団体をつなぐ役割を担いたい」と話します。

 

 

 

(※)急激な豪雨が発生し、雨量が下水道等の排水能力を超えたときに発生する。

 

 

ハザードマップを用いたワークの様子

 

自主防災組織「中一番自主防災」の活動紹介

 

取材先
名称
(社福)国立市社会福祉協議会地域生活支援課、地域福祉係、国立市ボランティアセンター
概要
(社福)国立市社会福祉協議会
地域生活支援課
地域福祉係
国立市ボランティアセンター
https://www.kunitachi-csw.tokyo/
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