(社福)東京都社会福祉協議会 婦人保護部会
女性支援法が成立〜なぜ今、「女性」支援が必要なのか
掲載日:2022年10月27日
2022年10月号 TOPICS

全国に47か所ある婦人保護施設は、経済的困窮、DVや性暴力被害などさまざまな背景や困難な問題を抱える女性に対して、生活支援を含め幅広く支援を行っています。都内には5施設あり、東社協婦人保護部会(以下、部会)として活動しています。

 

1956年に制定された売春防止法を設置根拠に、「売春をした、あるいは売春をするおそれのある女性(要保護女子)の保護更生、収容のための施設」と定められ、66年間改正されることなく今日をむかえていました。支援現場からは、現制度での限界や“人権視点の欠如”等の問題が指摘され、法改正や新法を求める声が早期よりあがっていました。

 

22年5月19日。66年の時を経て、支援現場からのソーシャルアクションが実り、「女性支援新法」が成立しました。人権の尊重や多様な支援の提供等が新たに理念として明示され、婦人保護施設は「女性自立支援施設」と変わります。24年の施行に向け、まさに女性支援は過渡期にあります。

 

女性を取り巻く環境の変化

都内婦人保護施設に残る記録によると、法制定当時の利用者の多くは、戦争で家族や財産を失い困窮から性売(※1)せざるを得ない女性でした。現在も共通し、貧困、困窮による性売、DVや性暴力被害等が施設に至る理由として挙げられます。

 

副部会長の熊田栄一さんは、「70年近く経過しても、利用背景は変わらない。ただ、支援を要する女性を取り巻く環境は大きく変わった」と話します。スマホ一つで他者とのつながりを感じられ、身を寄せることのできる場は増加しています。一見、家庭内の危険からは逃げやすい環境になりましたが、SNSの危険性や女性を利用する存在等、その先でまた傷つきを重ねるリスクは非常に高まっているといえます。

 

「回復」から始まる自立

都内施設では、暴力被害経験者の割合が年々増加し、18年度は80%を超え、30%以上の成年利用者は強制売春等の性暴力を経験しています。近年増加傾向にある18歳以前の利用者の60%が虐待被害者であることも明らかになっています。また、95%の利用者が何らかの疾患を抱えて通院しており、精神疾患が30%を上回っています(※2)。

 

 「利用者はこれまでの経験によりエネルギーを失っている。まずは失われたものの回復支援が重要。自立は『回復』から始まる」と部会長の熊谷真弓さんは、女性支援の最優先に利用者の「回復」を挙げます。今後、困難な問題を抱える女性一人ひとりを受け止め、最適な支援を提供することが、女性自立支援施設として一層求められてきます。そのためには、職員一人ひとりが経験や研修を重ね、力をつけていることが不可欠です。あわせて、利用者にあった専門的・継続的支援には、売春防止法による「保護更生」を目的としていた現在の施設のハード面や職員配置等を見直していくことも必要となります。

 

 

部会を超え、女性支援を考える

「婦人保護施設5施設だから」を部会の合言葉に、法改正や新法制定に向け、提言活動をはじめ書籍やイベントによる外部発信等、全国婦人保護施設連携の中心的な存在として多方面に活動を展開してきました。「これからの女性支援においてまさに求められることは『連携』。広く女性支援の味方が必要」と熊谷さんは、部会単独でなく、周囲を巻き込む必要性を挙げます。

 

そのために、東京都女性相談センターや区市町村の婦人相談員との連携の強化が必要となります。女性相談センターとは意見交換の場を定期的に設けており、最近では新たな施設入所方法(東京方式)実施に向け、検討を重ねています。また、都内婦人相談員を対象に、21年度は意見交換会や事例報告会を開催し、女性支援現場での課題や取組みを共有しています。

 

新法では、「民間支援団体との協働による支援」が言及されています。実際、支援を要する多くの女性は自らSOSを発信できません。社会に埋もれてしまう声を拾いあげるには、公的機関に加え、女性支援やリーチアウトを担う民間団体との協働も不可欠です。

 

また、利用者の多くは児童養護施設や宿所提供施設等の他種施設を経験しており、最適な支援の提供には関係施設とのつながりが重要になります。東社協児童・女性福祉連絡会(※3)の場で、施設種別を超えて女性支援について、ともに考えることも必要になります。

新法施行に向け、今年も区市婦人相談員・女性相談
センターと共に意見交換会を11月に開催

 

これまで冊子やイベントを通じて、女性支援の必要性を発信

 

なぜ今「女性」支援なのか

「売春防止法制定から半世紀以上経過した今、なぜ女性支援に関する新たな法律なのか。『女性』支援が社会に今必要なのか。職員に改めて問いかけている」と熊田さんは話します。

 

ジェンダーギャップ指数はG7で最下位、世界全体で116位と、日本のジェンダー平等への取組みは後れをとっています。とりわけ経済分野は顕著で、同一労働下の賃金格差や収入格差、そして雇用格差があります。それはコロナの影響にも直結し、失職した多くは販売やサービス業等の非正規雇用の女性です。シングルマザーの2人に1人は非正規雇用であり、その影響は子どもの教育機会にまで及びます。厚生労働省によれば、21年の女性の自殺者数は7,068人と20年から高止まり。コロナ禍で、窮状や家庭内暴力などの問題を抱えたままの女性が増加しているといえます。

 

 

24年の施行まであと2年。国が基本方針を定め、都道府県は基本計画を策定することになります。この間婦人保護部会は、施設の支援力向上や関係機関・団体との連携に加え、何より社会に向けて、「なぜ『女性』に向けた支援が今必要なのか」を広く発信していきます。

 

(※1)婦人保護部会では「売春」という言葉は使わず、あえて「性売」という造語で表現している。
(※2)部会調査研究委員会「婦人保護施設実態調査報告書2016・2017・2018年度」
(※3)児童養護施設や母子生活支援施設等の子ども・女性に関連する部会で構成される連絡会

 

 

取材先
名称
(社福)東京都社会福祉協議会 婦人保護部会
概要
(社福)東京都社会福祉協議会 婦人保護部会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/bukai/fujin.html
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