NPO法人 マザーハウス
目の前にいる元受刑者を孤独にしない共生社会をつくる
掲載日:2022年11月28日
2022年11月号 明日の福祉を切り拓く

 

NPO法人マザーハウス理事長

五十嵐 弘志さん

 

あらまし

  • 五十嵐弘志さんは、全国の受刑者と刑を終えた人の孤立防止、住まい・就労等の社会復帰を支援する活動をしています。
    さまざまな専門家と協働し、各種研究活動や啓発・アウトリーチ活動にも力を入れています。

 

自分を認めてくれる人との出会い

幼少期の家庭環境が引き金となり罪を犯してきた私ですが、3度目の服役前に留置場で知り合った日系ブラジル人との会話がきっかけでキリスト教に出会い、服役中に聖書やマザー・テレサの本を読み、自分の罪深さに気づきました。

 

また、どんなに刑務作業がきつくても、時には励まし、時には叱ってくれる文通ボランティアや身元引受人となるキリスト教徒の弁護士、神父との面会や手紙のやり取りを通じて、被害者について、償いについて真剣に考えることで改心することができました。また、文通をする中で、自分が愛され、大切にされていることを感じることができました。今でも当時、文通をしていた方々とは交流があります。

 

刑務所での体験から団体を設立

3度目の服役で養護工場(※1)に行くことになり、高齢者や障害のある受刑者の介護をしました。私は刑務官に推薦され、要介護者15名の責任者となりました。入浴介助や食事補助など高齢受刑者等の身の回りのお世話を出所満期まで4年間続けました。

 

高齢者や障害のある人は服役を終えて出所しても生活に適応することが難しいこともあり、再犯確率が高まります。行き場をなくし孤独になり、自分と向き合うことができず、自暴自棄になって社会復帰できないケースが多いのです。

 

自らの体験を活かし、当事者をサポートし、それを社会が支援する組織をつくりたいと思い、NPO法人マザーハウスを立ち上げました。

 

「本当の更生」につながる支援を

全国の刑務所の受刑者の中には、マザーハウスの会員が多くいます。マザーハウスの支援として、逮捕・勾留・拘置時には、当事者や家族との面会や相談ができます。また、裁判では情状承認(※2)も行うことができます。

 

受刑中には、仮釈放時の身元引受や更生の支援として「ラブレタープログラム」を行っています。全国の文通ボランティア約350人が約800人の受刑者と手紙を通じて交流を深めています。ボランティアはペンネームを使用し、事務局が仲介の上、刑務所に手紙を届けています。服役中にもらう手紙は受刑者に大きな力を与えます。「手紙をもらい慰められた」と涙でにじんだ手紙が届くこともあります。

 

また、会員向けに毎月1回発行される情報誌「たより」に住民票の取り方を載せたり、「受刑者のための年金ガイド」を作成して、出所後の手続きを事前に伝えたり、聖書の本を毎月刑務所に送ったり等の活動も行っています。

 

出所した人には、行先がなければ住まいを探し、就労支援、生活相談、カウンセリング等、社会復帰を支援する活動を行っています。

 

例えば、出所後「行き場がない」と尋ねてくるケースもあります。その際は、区役所で生活保護の申請を行い、住居を見つけます。その後、マザーハウスの事業所でジョブトレーニングとして、「マリアコーヒー」のパック詰めや本の注文、刑務所に送る作業をしてもらいます。支援者と触れ合い、人のために何かをする経験が本当の更生につながると考えているからです。

 

社会復帰前のトレーニングが必要

刑務所と社会の中間的な処遇の場所がもっと必要なのではないかと考えています。刑を終えた人をいきなり社会に送り出すのではなく、更生保護施設のようにある程度訓練を受けて、地域社会の一員としての常識や社会性を学んで最終的に社会復帰につながる場所がもっと増えれば出所者の更生につながり、社会から犯罪が減るのではないかと期待しています。

 

2021年12月、被害者・加害者を超えて、犯罪で傷ついたすべての人々の尊厳の回復をめざし、「Inter7(インターセブン)」を被害者・加害者双方の立場の活動家7人で立ち上げました。ここでは、被害者支援と加害者支援双方のアプローチの必要性を伝えています。

 

頑張っている姿を受け入れてほしい

民法の改正による成年年齢の引き下げに伴い、2023年1月以降、18歳から裁判員制度の対象となります。大学で講義する機会をいただくと、学生に「共生」について話をしていますが、都内の中高生にもっと刑務所や受刑者について知ってほしいと思っています。刑を終えて出所した人を恐れるのではなく、今その人がそこで生きて、頑張っている姿を見てあげることが大切だと思います。

 

共生社会をめざすためには私の姿を見せることが近道だと思っています。批判の声もたくさんありますが、目の前の人を大切にして、これからも活動を続けていきたいです。

 

(※1) 高齢者や障害のある受刑者が集められ、軽作業などに従事する場所。

(※2) 刑事事件の裁判で、少しでも刑が軽くなるよう被告人の人となりや、今後の更生に向けてどう支援するか等を語る証人。

 

 

笠松刑務所へ出張

 

プロフィール

  • 五十嵐 弘志さん(Hiroshi Igarashi)
  • 自身も20年近く服役した経験を持ち、自らの体験に基づく社会復帰支援を行う。2012年、刑務所で得た気づきから、全国の出所後の受刑者と刑余者支援活動を始め、2014年5月に法人化。
  • 著書に『人生を変える出会いの力 闇から光へ』(ドン・ボスコ社)
取材先
名称
NPO法人 マザーハウス
概要
NPO法人 マザーハウス
https://motherhouse-jp.org/
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