社会福祉法人小平市社会福祉協議会こだいら生活相談支援センター、HighBridge株式会社、川里園、株式会社明誠、国立精神・神経医療研究センター病院、医療法人徳寿会介護老人保健施設プラチナ・ヴィラ小平
生きづらさを抱えている人に寄り添い、応援する~社会参加型の就労体験を通して
掲載日:2022年12月28日
2022年12月号 NOW

 

 

左から 小平市社会福祉協議会 こだいら生活相談支援センター 末長千晴さん、HighBridge株式会社 取締役 中村麻紀子さん、川里園 川里雅法さん、株式会社明誠 代表取締役 本間幸紘さん、国立精神・神経医療研究センター病院 間所博子さん、医療法人徳寿会 介護老人保健施設プラチナ・ヴィラ小平 事務長 鯨井進さん、小平市社会福祉協議会 こだいら生活相談支援センター 係長 上原哲子さん

 

あらまし

  1. 日本全国のひきこもり状態にある方は、満15~39歳で54.1万人、満40~64歳で61.3万人(※)と推計されています。ひきこもり状態にある方を含め、地域にはさまざまな生きづらさを抱えている人が多くいます。
    今号では、社会参加型の就労体験を通して、ひきこもり状態にある方や障害のある方を応援する取組みを小平市内で展開する「JOY!JOB KODAIRA」を紹介します。
  2. (※)内閣府は、平成27年度に満15~39歳を対象に、平成30年度には満40~64歳までを対象に調査を実施。

 

さまざまな人の思いが重なり合って始動したプロジェクト

JOY!JOB KODAIRAは、「社会に一歩踏み出したい」という思いを持っているひきこもり状態にある方や障害のある方を応援するプロジェクトです。小平市内の福祉施設や企業、農家、飲食店などが社会参加や就労体験の機会を提供しています。体験を通して、参加者は決められた時間に合わせて行動することや作業時間中のコミュニケーションをイメージすることができます。新たな自分の発見や、自信を持つきっかけとなることをめざしています。

 

この活動は、外壁修繕工事を行う施行会社の株式会社明誠代表取締役の本間幸紘さんの思いから始まりました。本間さんは、身近にひきこもり状態の方がいた時期があり、当時は「このまま解決しないのではないか。自分たちだけでの解決は難しい」と感じていました。そして「同じように悩みを抱えている人たちの力になりたいと考えるようになった」と言います。

 

つながりのあったHighBridge株式会社取締役の中村麻紀子さんと共に、2021年度から就労準備支援事業を受託している小平市社会福祉協議会こだいら生活相談支援センター(以下、センター)地域福祉コーディネーター(CSW)の上原哲子さんに相談をしました。中村さんは長年福祉業界で働いてきた経験もあり、「本間さんの気持ちに共感できた。全国的にも課題だと思うし、小平の地域から取り組めたら良いと思った」と話します。

 

同じ頃、上原さんの元には国立精神・神経医療研究センター病院(以下、NCNP)で医療ソーシャルワーカーとして働く間所博子さんからも相談がありました。間所さんは精神疾患を抱える方々へのアウトリーチを担当し、本人の希望を受け止め、さまざまな方向から地域生活を支えるNCNP訪問看護ステーションで訪問活動をしています。「患者の中には就労を希望する方も多いが、それを実現できる場が少ない。患者の思いや希望を受け止め、どうしたらそれらを実現できるのかを模索する中、センターへの相談に至った」と、間所さんは振り返ります。

 

上原さんは21年春頃に、センターと本間さんら3人との話し合いの場を設けました。思いや今後の方向性を共有した上で、それぞれのつながりから受入れ先を増やし、この活動が始動しました。受入れ先の一つの介護老人保健施設のプラチナ・ヴィラ小平事務長の鯨井進さんは「地域に貢献する活動としてさまざまな受入れをしてきた。ほかにも協力できるものがあれば参加したいと思っていた」と言います。

 

センターでも、ひきこもり状態にある方や精神疾患のある方から社会と関わる活動がしたいという相談が増えており、上原さんは「それぞれが取り組んでいたことや持っていた思いが重なり合い、1つになっていったと感じた」と話します。話し合いは定例会として続け、21年度は月に1回、22年度は2~3か月に1回程度、負担のない受入れなどについて確認しています。

 

丁寧なサポートによる体験を通して、自信と新たな発見を得る

センターの相談者やNCNPの訪問看護を利用する患者のうち、障害者雇用等での就労が難しいなど、制度の「狭間」にいる方で、「就労や社会参加がしたい」という希望者に体験の説明をし、受入れ先の企業などとつなぎます。その方のできることや興味関心などをヒアリングし、受入れ先での作業との調整を行い、実際に体験が始まります。

 

受け入れの流れ(小平市社会福祉協議会の資料をもとに作成)

 

現在の受入れ先は小平市内の福祉施設や飲食店など6か所です。農業を営んでいる川里園では野菜の苗植えや収穫を、プラチナ・ヴィラ小平では外構の草むしりなどの体験ができます。21年12月に初回体験が行われ、22年10月末までの体験回数は延べ30回にのぼります。

 

体験時には、センターやNCNPの訪問看護職員が同行します。上原さんは「サポートがあれば体験ができる方の機会を奪いたくない。丁寧に応援をしたい」と話します。週に何時間以上などの体験の条件や受入れ回数の決まりは設けていません。間所さんは「相談者や患者の状況はそれぞれ異なるため、受入れ先がバラエティに富んでいることはありがたい」と言います。

 

体験後は、体験者の感想や受入れ先のメッセージを双方に必ず伝え、体験にどのような意味があったのかを確認できるようにしています。
体験をしたことで企業での就労につながった方もいます。22年9月頃から事務職として1人を雇用している中村さんは「コミュニケーションに苦手意識のある方の中には察することなどが難しい方が多いと思う。しかし、その方が職場にいてくれることで、周りの職員がコミュケーションにより気を付けるようになり、チームワークが良くなったと感じている」と話します。

 

センターの末長千晴さんもこの活動の意義を感じています。「川里園で体験をした方のいきいきとしていた姿が印象的だった。仕事に対する本人のイメージも変化した」と語ります。

 

プラチナ・ヴィラ小平の外構の草むしり

丁寧に黙々と作業をされている様子

 

少しずつでも生きづらさが解消されるように

川里園の川里雅法さんは「障害のある方の受入れは、正直最初は不安だったが、受け答えもしっかりされていて、作業も丁寧にやってくれた。接してみないと分からないことばかりで、自分が勝手に抱いていたイメージが変わった」と言います。間所さんは「企業や団体の方々へ、患者それぞれの得意なことや苦手なこと、必要なサポートや希望を丁寧に伝えていくことが私の役割だと考えている。今後地域の方々にも理解が広がり、その人らしさを活かしながら生活ができる社会になってほしい」と話します。

 

地域への広がりについては、中村さんも「障害の特性に配慮したコミュニケーションができる会社が増えたら、それが地域での生活のしやすさにつながる。少しずつでも働きづらさや生きづらさが解消されると良い」と強調します。末長さんは「すぐには体験に踏み出せない方も多くいる。相談者にとって、この活動があることが安心になったら嬉しい」と言います。

 

鯨井さんは「今後、職員にも受入れを担当してもらうことでコミュニケーションの場が広がったり、他施設でも受入れが増え、さまざまな体験ができ、つながりや自信を持てる場が増えたりすると良い」と期待しています。

 

活動について、上原さんは「相談者と向き合いながらも、活動に関わる方々の思いを丁寧に聞き、それぞれに応じた受入れの形やつながり方を意識する必要がある。地域での生活の中にあるのは福祉関係の団体だけではなく、企業や農家、飲食店などさまざま。日々の暮らしの中でつながる先を増やすことが大切」と話します。

 

本間さんは「小平市内でのこの活動が少しずつでも広がり、さまざまな場所で『助けて・助けられて』の関係が生まれていくことをめざしている」と、今後の希望について語ります。

 

川里園の様子

体験者と一緒に植えた枝豆が立派に成長

 

取材先
名称
社会福祉法人小平市社会福祉協議会こだいら生活相談支援センター、HighBridge株式会社、川里園、株式会社明誠、国立精神・神経医療研究センター病院、医療法人徳寿会介護老人保健施設プラチナ・ヴィラ小平
概要
社会福祉法人小平市社会福祉協議会こだいら生活相談支援センター
https://www.syakaifukushi.kodaira.tokyo.jp/modules/facilities/index.php?id=8
HighBridge株式会社
https://www.highbiridgeinc.biz/
川里園
https://www.hp.emutoesu.jp/
株式会社明誠
https://meiseitosou.com/
国立精神・神経医療研究センター病院
https://www.ncnp.go.jp/hospital/
医療法人徳寿会介護老人保健施設プラチナ・ヴィラ小平
https://www.platinum-villa.jp/kodaira.html
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