杉並区保健福祉部
都市部での「在宅避難」を原則とするしくみづくり
掲載日:2017年12月19日
ブックレット番号:6 事例番号:65
東京都杉並区/平成29年3月現在

杉並区は、東京23区の西部に位置し、平成29年1月現在の人口は約55万人です。以前からの住人は高齢になり、ひとり暮らしの方が多くなる一方、都心回帰の流れから20~39歳の若年層に転入が多く、20代の若者が住む街としても発展しています。その杉並区では過去に被災した経験があります。平成17年9月4日の善福寺川の氾濫「杉並豪雨」では、区内で集中豪雨により多くの浸水被害が発生しました。雨水が地下に浸透しにくくなっている構造上、都市型水害対策は課題であり、その対策に取組んでいます。

また、杉並区は、災害時の自治体間の相互援助・協力について、新潟県小千谷市(平成16年5月)、福島県南相馬市(平成19年2月)等と協定を結んでいます。東日本大震災では、区職員を3,511人(のべ人数)派遣し、平成29年現在も友好都市である南相馬市へは年7~8人を派遣しています。また、南相馬市から職員を年1~2人受入れています。

こうした経験もふまえ、現在、杉並区で生活している要配慮者と位置づけている高齢者や障害者、妊産婦等が、自らの生命を守りつつも在宅で避難生活を送ることができるよう住民による地域共助の支援体制づくりが必要であると考えました。そのため、要配慮者への支援対策として以下のような取組みを行っています。

 

■ 地域のたすけあいネットワーク(地域の手)の登録勧奨

■ 個別避難支援プランの作成

■ 震災救援所、第二次救援所、福祉救援所の整備・確保

■ 災害時要配慮者支援システムの活用

 

災害時に杉並区の要配慮者に想定されるリスク

(1)応急期(72時間以内)に想定されるリスク

1日の流動人口は、流出が約16万人(通勤者約14万人、通学者約2万人)、流入が約9万人となっています。このことから、要配慮者となる独居の高齢者等を支援できる人が日中に不在であり、避難への支援が不足すると考えられます。

また、木造密集地域等、震災発生時の建物倒壊危険度や火災危険度が高い地域があります。また、近年はマンション建設により、要配慮者の対象となりえる入居者も増えていることで、避難誘導等が困難になることが想定されます。

 

(2)復旧期(4日目以降)に想定されるリスク

都市部では土地の確保や、近隣との住環境の配慮等から入所できる福祉施設が少なく、杉並区においても入所機能をもつ福祉施設は満床の状態です。そのため、在宅生活が困難になった方を福祉施設に緊急の受入れができる人数は少なく、限界があることが考えられます。

さらに、福祉施設や事業所の職員がその近隣に居住していないことが多く、発災時にすぐに参集できる人材が不足するおそれがあります。

 

「在宅避難」を原則とする

これまでの地域防災計画の考えでは、災害が発生した場合は「まずは避難所へ避難」が中心に考えられてきました。しかし、近年の都市部における災害から学び検討していく中で、杉並区としては、平成26年5月に「災害時要援護者の支援のための行動指針<平常時の備え・安否確認編>」を作成し、指針の内容には「定義」「考え方」として災害時要配慮者支援の基本的な考えを示しています。これは自宅で生活を続けることができる人が在宅にとどまることを中心とする指針であり、震災救援所や民間事業者及び区の避難支援や各機関同士の連携は「在宅避難」を基本に構築することとしています。

 

 

◆災害時要配慮者の役割◆

杉並区では在宅避難を原則として、災害時要配慮者自身にも以下のことに取組んでもらうことをすすめています。

 

◆避難行動要支援者名簿(原簿)◆

平成26年6月の「災害対策基本法」の改正により「避難行動要支援者名簿」の作成が義務づけられると、杉並区としては以前から作成していた名簿を発展させる形で整備し、区が保有する福祉情報から抽出した約26,000人の該当者分を「避難行動要支援者名簿(原簿)」として整備しました。

 

 

この名簿は原則として非公開で、平常時は消防署のみの提供となりますが、発災時においては区長の判断で関係機関に提供され、要配慮者の安否確認等に活用されます。

 

地域のたすけあいネットワーク(地域の手)

近年の大規模災害では、密な地域コミュニティにより住民同士が助け合い、倒壊した家屋からの救出や被災者同士の生活維持等に、そのご近所づきあいや地域の助け合いが大きな役割を果たしたと言われています。

避難が必要な災害が発生した時に、自力で避難することが困難な高齢者、障害者、妊産婦等の方は、周りの状況把握や避難行動に対する負担が大きいので、地域の支援が必要となります。杉並区では、円滑な避難のためにも、平常時から要配慮者の情報・状況を把握し、発災時の安否確認等に役立つ「地域のたすけあいネットワーク(地域の手)」(以下、たすけあいネットワーク)の制度を推進しています。当制度は「避難行動要支援者名簿(原簿)」に登載されている方が、たすけあいネットワーク制度の趣旨に同意した上で登録するものです。

平成12年度より手上げ方式で当制度を開始しましたが、登録者が要配慮者全体の数%にとどまっていました。そこで、平成18年度に区保有の福祉情報から災害時要配慮者を抽出し避難行動要支援者名簿(原簿)の原形を作成する等、制度を大幅に見直すとともに、名簿に登載されている方を対象に「登録勧奨通知」を送付することにしました。現在も、このような勧奨や区の広報誌での周知など、区民に対して啓発を行っています。

また、担当の区職員が敬老関係の地域の交流イベントや防災訓練等へ定期的に出向き、たすけあいネットワークへの登録を促したり、制度についての説明を行うことで、平成28年度では約9,400人と登録者が増えていきました。

取材先
名称
杉並区保健福祉部
概要
杉並区
http://www.city.suginami.tokyo.jp
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