わくわくシニアシングルス、立教大学コミュニティ福祉学部
生活が困窮する中高年シングル女性の支援に向けて
掲載日:2023年1月23日
2023年1月号 NOW

 

あらまし

  1. コロナ禍で非正規雇用で就労していた女性は一気に生活が厳しくなり、内閣府によると、単身女性(25〜54歳)の失業率は、2020年7〜9月期に急速に上昇しました(※1)。中でも、中高年シングル女性は、雇用面に加え病気や介護、年金問題などさまざまな問題が懸念されています。22年12月、任意の自助グループ「わくわくシニアシングルズ」は、「第二回中高年シングル女性の生活状況実態調査(以下、本調査)(※2)」を実施しました。調査結果から見えた中高年シングル女性の生活の現状と課題について、お話を伺いました。
  2.  
  3. (※1)2021年4月 内閣府男女共同参画局「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会報告書」
  4. (※2)「第二回中高年シングル女性の生活状況実態調査」概要
  5.  実施期間:2022年8月4日~9月20日
  6.  実施方法:インターネットによる調査(一部郵送により実施)
  7.  対象:40歳以上の単身で暮らす女性(事実婚やパートナーと暮らす人は対象外)
  8.  回答者:2390人(うち有効回答は2345人)

 

中高年シングル女性の支援を実現するために~わくわくシニアシングルズ

本調査を実施した「わくわくシニアシングルズ」は、2015年に設立され、都内を中心に活動を行っています。メーリングリストでの意見交換をはじめ、SNSでの情報発信、社会保障制度や年金制度に関するセミナーの開催、また今回のような実態調査や調査結果に基づいた政策提言活動なども行っています。

 

16年、50歳以上の単身女性を対象に「第一回中高年シングル女性の生活状況実態調査」を行いました。21年には、中高年単身女性の貧困問題解決のための要望書を政党や国会議員へ提出しました。複数の政党や議員から回答があり、ヒアリングを経て党の広報誌やホームページで活動概要や調査結果の発信へとつながりました。わくわくシニアシングルズ代表の大矢さよ子さんは「中高年シングル女性の貧困は社会課題として取り上げられず、問題が渦の中。実情を社会に広めたいと思い報告書を作成した。調査結果を国や政治に届けて『支援の方向性を定めてほしい』ということを伝えたかった」と当時を振り返ります。22年8月には「第二回中高年シングル女性の生活状況実態調査」を行いました。

 

表1 調査結果から見えた中高年シングル女性の7つの課題

 

この報告書では、表1の「調査結果から見えた7つの課題」の通り、中高年シングル女性の雇用や収入面の厳しさをはじめ、コロナ禍・物価高騰での生活困窮度の高まり、重い住居費負担、就労支援のサポートの低さ、病気や介護問題、65歳以上の高齢者への支援、そして、母子世帯や就職氷河期世代のシングル女性の実態を項目ごとにまとめています。

 

調査では、就労率は84・6%と高いものの、正規雇用は44・8%にとどまっており、パートや派遣などの非正規雇用と自営業・フリーランスは合わせて52・8%でした。また、21年の年収(税込み)については「200万円未満」が33・3%、「200万円以上、300万円未満」が23・6%という結果になり、中高年シングル女性の厳しい生活の状況が明らかになりました。

 

また、50歳以上65歳未満の方に、ねんきん定期便による年金予想額を聞いた設問では、69・9%が10万円未満と回答しました。現在、年金を受給している人を見ると、今の年金額では「生活が苦しい人」が8割おり、70歳以上でも45・9%の人が働いているのが現状です。

 

 表2「50歳以上65歳未満」回答者の年金定期便による年金予想額

 

調査に関わった立教大学コミュニティ福祉学部教授の湯澤直美さんは「この調査では『死ぬまで働かなければならない』と回答した人も多く、今後、働き続けてもなお貧困な高齢シングル女性が急増することを、社会全体で考えていかなければならないと思う」と説明します。

 

社会全体の賃金が上がっていない中、コロナ禍と円安による物価高騰で、収入の少ない非正規職員の生活はより困窮しています。わくわくシニアシングルズ代表の大矢さよ子さんは「自由記述では『その日の生活をつなぐことで精一杯』、『未来への希望がない』、『新型コロナの影響で解雇になった』という声も多くあがった。働くことが経済的にも精神的にも安定につながらず、悩みを抱えこみ、体調を崩す人が多いのが現状。改めて、現在起こっている切実な状況が明らかとなった」と話します。

 

また悩みを相談する先は、表3の通り、友人や、親や子どもが半数以上で、自治体の相談窓口は10・9%、男女共同参画センターの女性相談は2・6%と、公的機関への相談につながっていません。

 

 表3 困った時の相談先

 

「『困った時に公的な場所が思い浮かばない』 といった声もあり、自治体や行政に中高年の相談窓口があることをもっと周知してもらい『単身の中高年層も相談ができる』と伝える必要がある。そうすれば、単身者が孤立せず生きていく地域社会につながる」と大矢さんは語ります。

 

中高年シングル女性の存在にもっと関心を

このような状況について、湯澤さんは「中高年シングル女性の貧困が、見えないように埋め込まれている社会的背景がある」と指摘します。

 

女性には雇用の問題をはじめ、そのほかにもさまざまな格差や困難があります。たとえば教育面に関しては、大学進学率は徐々に縮小されているとはいえ、男女間において未だに格差があります。このことは、生涯にわたって受け取る賃金額(生涯賃金)のジェンダー差につながります。正規雇用として働き始めた女性も、育児や介護などのケア役割により離職することも未だ多く、再就職先はパートやアルバイト、派遣、契約社員など選択肢も限定的です。それゆえ、年齢が上がるごとに非正規雇用は増加する傾向が見られます。加えて日本では男女の賃金格差は未だ大きく(※3)、非正規雇用の大半は〝女性〟というのが現状です。

 

また、年金や福祉などの行政の制度は、世帯単位の設計や運用であることが多いのが現状です。世帯の生計中心者としての夫の扶養に入ると、妻側が働き方を調整することになります。一方で、単身で生きる女性たちは、政策的にも「自分たちはいないことにされている」と感じさせられているのです。

 

今後の世帯構成の変化をみると、2040年には単独世帯は4割(※4)になると予想されています。夫婦と未婚の子世帯は、もう標準世帯ではないという現実を社会全体で認識していくことが必要です。そして、世帯単位から個人単位の生活保障のシステムへと転換していくことが求められています。

 

 

現状の理解と認識を深められる社会に

女性への支援に関する社会の動きは徐々に見られ、性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性などから、さまざまな困難を抱える女性を対象にする「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」も制定されました。湯澤さんは「若年女性への支援に加え、この法律に40歳代以上の中高年シングル女性の視点も取り入れていくことが必要。そのようなライフコース全体を視野に入れた継続的な支援体制を実現できれば、現在の若年女性の将来的な安定につながることにもなる」と言います。

 

大矢さんは「今後シングル女性はますます増えていく。生活が苦しい状況にある女性がこの社会に存在することを広く伝え、ソーシャルアクションにつなげ、現状を少しずつでも変えていきたい。行政の方には、国民の多様な声にも耳を傾け、世の中から弾かれてしまう人がいないしくみをつくっていってほしい」と思いを訴えます。

 

湯澤さんは、就労支援を受けたことがない人が6割いることについて「『働き口を増やしてほしい』、『70歳まで雇用が継続できるように年齢制限を延ばしてほしい』というさまざまな声があがった。年齢制限せずに中高年層の資格取得などの就労支援を行うとともに、高齢期を安心して暮らせる年金制度と介護保険制度を実現してほしい」と話します。

 

今回の調査を通して、明らかになったことをふまえて、中高年シングル女性の安心した生活や医療につなげるため「男女間及び正規・非正規間の格差是正や高齢者の入居支援、身元保証人のいない人の医療機関への入院などのサポート体制の確立」などをめざしています。

 

また、貧困に陥らないような支援体制の整備に向けて「相談支援機関の充実・強化や中高年層の資格取得等の就労支援、『教育訓練支援給付金』制度の年齢制限の撤廃」などを求める要望書を国会議員に届ける予定です。

 

わくわくシニアシングルズは「中高年シングル女性」の当事者団体として設立しましたが、主なメンバーが70代と高齢になり課題もあります。今後、さまざまな地域から中高年シングル女性の当事者団体が設立され、活動を通して国会に多くの声を届けてもらえることを願っているといいます。中高年女性が〝思い〟を発信することで、お互いに情報共有ができる居場所づくりをめざしています。

 

わくわくシニアシングルズ

代表 大矢 さよ子 さん

立教大学 コミュニティ福祉学部

教授 湯澤 直美 さん

 

(※3)厚生労働省 令和4年2月4日訂正「賃金構造基本統計調査の概況」

(※4)国立社会保障・人口問題研究所2018年「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」

 

 

 

取材先
名称
わくわくシニアシングルス、立教大学コミュニティ福祉学部
概要
わくわくシニアシングルス
https://www.facebook.com/wakuwakuseniorsingles/

立教大学コミュニティ福祉学部
http://cchs.rikkyo.ac.jp/
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