(社福)八王子市社会福祉協議会、八王子市福祉部福祉政策課
市と社協の関係性を生かして市民を守る ―平時の気づきやつながりを起点に(八王子市)
掲載日:2023年1月17日
2023年1月号 連載

(左から)八王子市福祉部福祉政策課主任 星野 貴洋さん

主査 深澤 淳一さん

八王子市社会福祉協議会市民力支援課課

主任 繁野 遥香さん

課長 井出 勲さん

 

あらまし

  • 今回は「課題解決」という視点から、八王子市と八王子市社会福祉協議会が2022年4月よりすすめる個別避難計画作成に向けた取組みについて紹介します。

 

◇一人ひとりを災害から守るために

東日本大震災、そして平成30年7月豪雨や令和元年東日本台風(台風19号。以下、東日本台風)などの犠牲者の多くは、自力での避難が難しい高齢者や障害者等(以下、避難行動要支援者)であったことがこれまで明らかになっています。避難行動要支援者を守るべく、災害対策基本法(※1)が改正され、2013年には避難行動要支援者の名簿作成が自治体義務になりました。そして21年には、避難行動要支援者一人ひとりに対して「個別避難計画」の作成を行うことが自治体の努力義務となっています。しかし、総務省調査(※2)によれば、22年1月時点で1,741区市町村のうち策定済は7.9%にとどまっており、「支援者の確保」や「個人情報の取り扱い」など計画作成をすすめる上での課題が明らかになっています。

 

各自治体が作成に向けて取り組む中、八王子市では22年4月より八王子市社会福祉協議会(以下、八王子市社協)に事業を委託するかたちで、協働して個別避難計画作成を含めた避難行動要支援者の避難支援のしくみづくりへと動き始めています。(今回は、八王子市社協市民力支援課長の井出勲さん、主任の繁野遥香さんと八王子市福祉部福祉政策課主査の深澤淳一さん、主任の星野貴洋さんに八王子独自の取組みついてお聞きしました。)

 

◇新たにつくるのではなく、社協が積み上げてきたリソースを活用して

八王子市社協が市とともに個別避難計画作成に取組む背景には、社協の自主事業として1969年より継続してきた「在宅ひとりぐらし高齢者実態調査」(以下、調査)があります。3年に一度の改選時期とあわせて民生委員が戸別訪問を通じて高齢者の実態を聞き取るもので、地域との関係性づくりも担ってきました。各地で大きな被害が生じた令和元年東日本台風の際には調査に基づいてひとり暮らしの高齢者の安否確認が行われています。

 

法改正を受け個別避難計画作成の検討をすすめる八王子市より話があった際、八王子市社協として調査を拡充して作成に取り組むことを提案しています。「東日本台風の経験から、日常からのつきあいが一番重要で、その延長線上に災害があると実感していた。“災害”だけ切り取ってもうまくいかず、地域との関係性を崩さないで計画作成をすすめてほしいとお願いした」と井出さんは振り返ります。

 

八王子市で見直した避難行動要支援者の新要件のうち、年齢要件である「75歳以上のひとりぐらしおよび老老世帯」は世帯ごとに実態が異なり、対象者抽出に課題がありました。本要件と調査は親和性が高く、深澤さんは「普段からできていることを災害に取り込む必要があり、民生委員さんは戸別訪問を通じて顔の見える関係を築いている。市としても、調査の延長で個別避難計画作成をすすめられないかと思った」と現在の経緯を話します。八王子市社協職員2名が他業務と兼務であたり、新たな取組みを始めるのではなく、これまで社協が取り組んできたことをベースに八王子市と個別避難計画作成のしくみづくりに向けて打合せを重ねている最中にあります。本事業について、「命、そして地域づくりに繋がる大事な事業。専任職員を配置してしっかりと取り組んでいく」と井出さんは強調します。

 

◇実効性の高い個別避難計画作成に向けて

今年度はケアマネジャーとともに在宅要介護3以上等を要件に作成をすすめています。ケアマネジャーに作成を依頼するため、八王子市介護支援専門員連絡協議会へ社協を通じて業務を一部委託し、八王子市・八王子市社協・同協議会の三者で作成の支援をしています。23年度からは調査を拡充して、民生委員の協力下で75歳以上の独居世帯および老老世帯を対象としています。具体的には、調査を通じて実態の聞き取りを行うとともに個別避難計画の同意を取り、そして個別避難計画の作成を行う予定です。実施に向け調査設計を含めたしくみづくりをすすめる一方、八王子市民生委員児童委員協議会でも個別避難計画作成や災害時のマニュアル等を検討する会を設け、準備をすすめています。

 

個別避難計画作成においては避難誘導の担い手確保が難しく、八王子市としてはまず「安否確認」がとれるしくみをめざしています。作成担当者の星野さんは、「計画作成の同意をとるなかで行政がすべて助けてくれる認識の人もいるが、防災はまず自助である。作成するプロセスが何より大事。シミュレーションをして、自分ができる範囲と助けが必要な範囲はどこか。作成を通じて整理してもらうことに本事業の価値がある」と作成をすすめる意義を話します。

 

 

◇災害時につながる、平時からの気づきや関係性

東日本台風から2年経過し災害への緊張感が全体として薄れる中、個別避難計画作成も含めた平時から災害に「関心」を持てるような働きかけが大切だといいます。深澤さんは、「計画を作成する過程が大切。運用することももちろん大切だが、自分がどこに避難するのか、地域にどのようなリスクがあるのかを考えることがまず大切。子どもや女性、そして外国籍の方も任意で計画を作成することもできる。計画を作成し準備しておくことが安心につながるということも事業を通じて広めることができれば」と話します。

 

災害ボランティアセンターの運営訓練等も担う繁野さんは「平常時にできていないことは非常時にもできない。訓練もそうであるが、個別避難計画作成をきっかけに担当ケアマネジャーも新たに気づくことがある。調査も、対象者の災害リスクを民生委員が平時から把握する機会になれば。平時からの意識が大切」と経験から話します。去年より災害ボランティアセンター運営訓練には民生委員や町会・自治会等の地域関係者も参加し、平時からのつながりづくりのきっかけとなっています。

 

 

◇それぞれの強み、そして関係性を生かした地域づくり

市内で初めて「大雨特別警報」が出され、浅川、恩方地区を中心に浸水被害、そして各地に多くの避難者が生じた東日本台風。全国からボランティアを受け入れた3年前の経験を機に、八王子市は地域として『平時から取り組むこと』を強く意識しています。繁野さんは、「東日本台風の被害も地域で大きな差があり、町会や自治会の災害意識もそれぞれ。勉強会や訓練等を機会に、災害・防災について種まきをしておくこと。そして、芽吹いたときに地域に入っていける関係性を築いておくことが重要」と強調します。

 

今回の個別避難計画の取組みと同様、重層的支援体制整備事業をはじめ社協の取組みを生かした地域づくりが八王子市ではすすめられてきました。こうした取組みについて、「186㎢に58万人が暮らし、町会数が570にも及ぶ八王子市において、地域に11拠点ある『はちまるさぽーと』(※3)のコミュニティソーシャルワーカーが地域から情報をとることが大切になる。新たに社協に何かお願いするのではなく、今までやってきた取組みを生かしてもらう。個人情報の取扱い等の骨格の部分を市が担う」と深澤さんは話します。井出さんも「市と社協とでそれぞれの強みをこれまでうまく生かしてきた。その関係の延長で取り組むと地域が混乱しない。新たに一からしくみをつくると、これまでのメリット・デメリットがなくなる。今回のように関係性をベースに独自の取組みを始めたことはよかった」と続けます。

 

災害対策基本法改正から5年後の26年に向け、市と社協がそれぞれの強みを生かしながら、ケアマネジャーや民生委員等の地域関係者とともに個別避難計画作成をすすめています。

 

(※1)1961年制定。国、都道府県、市町村、市民等のそれぞれの立場での防災への取組みを義務化

(※2)避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成等に係る取組状況の調査結果(令和4年6月28日)

(※3)21年より重層的支援体制整備事業の一環として包括的な相談窓口として地域に分散して設置されている

 

取材先
名称
(社福)八王子市社会福祉協議会、八王子市福祉部福祉政策課
概要
(社福)八王子市社会福祉協議会
https://www.8-shakyo.or.jp/
八王子市福祉部福祉政策課
https://www.city.hachioji.tokyo.jp/tantoumadoguchi/012/001/index.html
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