左が 荒木朋依さん。学生と一緒に
あらまし
- 障害者差別解消法の施行により、各大学では学生に対する合理的配慮の提供がすすめられています。障がいのある学生からの相談やサポートに日々奮闘する目白大学障がい等学生支援室の荒木朋依さんにお話を伺いました。
障がいのある方との暮らしが日常としてあった
私は広島県出身で、幼い頃から被爆者や被爆したことで障がいのある方を街中で見て育ったので、障がいのある方と一緒に生活することは日常でした。なので、大学は自然と社会福祉学部にすすみました。大学では、福祉教育や地域での福祉と平和のつながりに興味をもちました。卒業後は、施設への就職と迷いながらも教育関係にすすみたいと思い、専門学校で社会福祉士の実習支援の仕事に就きました。
現在勤めている目白大学は、身体障害、聴覚障害など障がいのある学生が元々多く在籍する学校です。2016年の障害者差別解消法の施行にあたり、大学に障がい等学生支援室をつくることになりました。以前こちらに勤めていたこともあり、声をかけてもらって準備期間の15年から今の仕事に就いています。現在、国公立大学は合理的配慮を行うことは義務となっているため、いろいろと整備されていますが、支援室として早くから取り組んでいる私立大学は当時からすると珍しかったのではないかと思います。
障害者差別解消法施行後は、受験時から配慮を希望して入学する学生や、発達障害や精神障害のある学生も増えていて、21年では障がいのある学生は91名在籍しています。
障がい等学生支援室だけでなく大学全体での支援へつながるように
学生課の中に位置づけられている障がい等学生支援室は、学生や先生からの相談受付をはじめ、音声文字化ソフト内蔵のパソコン・タブレットの貸出や履修登録の補助等、幅広く対応しています。聴覚障害や視覚障害のある学生が毎年入学するので、特に情報保障に重きを置き、ノートテイカーの養成、彼らのシフトの調整も行っています。ノートテイカーは学生の中からサポートスタッフを募集し、空き時間を使って活動してもらっています。聴覚障害、発達障害等のある学生のノートとりや、車いすの学生の移動の手伝いを行っています。
また、体調が悪い学生は保健室、精神障害のある学生は学生相談室に行ったりするなど、皆いろいろなところに駆け込むので、どの部署とも常に情報共有しています。最近では、大学の単位取得と就職活動を並行して行うことが難しい学生や、発達障害や精神障害のある学生の中には、卒業することが第一目標の学生もいます。就職を障害者雇用枠で希望する学生や、卒業後、就労移行支援事業所を利用してスキルアップしてから障害者雇用枠での採用をめざす学生も増えてきました。そのため、キャリアセンターや学外の就労移行支援事業所とも連携しています。
大学内での環境づくりも行っています。外部のヘルパーを利用している学生が何人かいて「待機部屋があるといいな」という声があり、空き部屋を改修してサポートルームをつくりました。大学内にたまり場はいくつかありますが、サポートルームでは対人恐怖や精神障害のある学生も人目を気にせず、ゆっくり休むことができます。
障がい等学生支援室は、日々いろいろな相談や対応があり、窓口に私がいない時もあります。その時は、学生課の他の職員が窓口での機器の貸出を行ってくれたり、学生が倒れた時にはさっと車椅子を持って駆けつけたりする等、職員の皆さんも理解し、協力してくれています。また、相談の数が増え、一人ひとりにかけられる時間が減っているので、他の部署に対応をお願いすることもあります。そうすることで、目白大学全体で障がい学生支援が広まっていくことにつながると思っています。
お互いが納得することが合理的配慮につながると思う
障害者差別解消法が施行された直後は大変でした。先生たちからも「何をすればよいのか」、「合理的配慮とはどこまでなのか」、「他の学生とバランスがとれない配慮はできないので不安だ」という声が上がりました。しかし、現在では配慮が必要な学生はどの学科にもいるため、実際に授業を担当する中で、先生たちの理解がすすんだように思います。また、メディア学科や社会情報学科の先生方は、情報機器類について助けてくれました。
受験時には、一人ひとりに必要な配慮を伺っています。具体的な配慮としては、麻痺があるため時間を延長して試験を受ける、解答用紙を拡大して書くスペースを広くするなどです。ゆくゆくは、受験の時の配慮が入学してからの配慮につながっていきます。私はそのような必要な配慮を伺う面談の時に入りますが、社会福祉士や介護等体験の実習先の配属等の際も、タイミングに合わせて色々な部署と協力しています。
合理的配慮は、お互いが納得することが大事だと思います。すべての配慮に対応できるわけではないので、入学して「こんなはずじゃなかった」とならないように、受験の段階から気をつけています。
コロナ禍の大学の授業の工夫と学生への思い
コロナ禍で、授業がオンデマンドやリアルタイムにZoomで行う形式が主となり、聴覚障害のある学生への支援をどうしようかと、本当に戸惑いました。その時、先生方がいろいろな情報をパッと探し出してくれて、結果、学生は滞りなく授業を受けることができました。
また、大学内にノートテイカー用の部屋を設けました。先生に許可を得て授業の動画をダウンロードして、それを学生サポートスタッフがその部屋のパソコンで受け取り、字幕ソフトで動画に字幕を入れたり、先生の講義をまとめたものを限定したサイトにアップロードするなど、オンライン上での工夫を2年くらいしていました。
オンラインを活用することで、顔をあわせなくても便利になりましたが、やっぱり細かなところは顔を合わせて話さないと分からないこともあります。窓口に来てポロっと話してくれていたことがなくなったので、コロナ禍で卒業した学生に対しては心残りがあります。
今年度に入り、対面授業が再開し、サポートスタッフの学生を再度募集しました。「隣の席に座ってテイクするのは感染が心配」、「わざわざ出てくるのは怖い」と学生が思って応募が減るんじゃないかと思っていましたが、逆にとても増えてびっくりしました。それと同時に嬉しくも思いました。新型コロナ前は「アルバイトのため」や、「障がいのある人と関わりたい」という希望で登録する学生が多かったのですが、コロナ禍で「人と関わりたい」、「社会で活動したい」という若い人たちの思いがあるんだと思います。サポートスタッフの中には手話を覚えた学生もいて、活動が広がってきています。現在、学生サポートスタッフで主に活動しているのは48人、登録者は60人ほどで、学部に偏りなく登録してくれています。
社会に出てサービスを自分で選ぶことができることを意識して
日々仕事をする上で「学生が自分で選ぶ」ということを大切にしています。ノートテイカーを一人にするか二人にするか、手書きにするかパソコンが良いか、といったことを毎回確認し、本人の想いを大切にしないといけないと思っています。というのも、将来社会に出た時に、自分のサービスは自分で決めていかなければならないと思うからです。小さい選択でも今から少しずつ経験できるようになれば良いな、と思います。ついつい「こういう支援がいいんじゃないか」と提案したくなったり、「このほうが本人には楽なのでは」と思ったりもしますが、時間を取って話をするようにしています。私自身はつい親目線で手を出しすぎてしまう時もあるので、過保護になりすぎないように意識しています。
限られた財源、マンパワーの中でサポートするのは大変ですが、精神的に波のある学生や体調の安定しない学生が大学に安定して通学し、学期が無事に終わって単位がとれたり、ノートテイカーをしてくれていた子が卒業後、学園祭に来てくれたりすることが、ささいなことですが嬉しいです。そのような積み重ねがあって配慮が必要な学生の卒業が少しずつ見えてくると、一安心します。
学生の想いや考えを必ず聞いています
人と接する仕事の醍醐味と大変さを味わいながら
大学時代、「勉強したことは現場に出てみないと分からない。人として経験できることはたくさん経験したり見たりして価値観を広げてほしい」と先生がよく言っていましたが、今それが本当に実感できています。いろいろな学生や親御さんと関わってきて、やっとそういうことかと分かってきました。人と接することの醍醐味と大変さと両方感じながら仕事できているのが幸せだと思っています。
障がい等学生支援室が開設してからもう少しで10年。21年の障害者差別解消法の改正により、私立大学も合理的配慮への対応が義務になります。これからも障がいのある学生への支援がずっと続けられるような大学での体制づくりをやっていきたいです。また、あくまで私の夢ですが、障がいのある学生が支えられるだけでなく、学生自身が誰かを支えることができる場が将来的にあると良いなと思います。日頃から地域や外部の方と交流し、学生もお世話になっているので、ボランティアも含め大学を社会資源として活用してもらいながら、一緒に地域をつくっていければと思います。
https://www.mejiro.ac.jp/
目白大学・目白大学短期大学部障がい等学生支援室
https://www.mejiro.ac.jp/univ/campuslife/shinjuku/support/challenged/