- 福祉人材の確保は依然として厳しい状況が続いています。近年は、外国人介護人材や他業種からの未経験者の参入が増えていたり、新型コロナの影響で職場体験や現場実習の機会が大幅に減少したりするなど、福祉人材を取り巻く環境は常に変化しています。
こうした中、東社協では、2022年9月~10月に、現況を具体的に把握し、今後の福祉人材対策の強化につなげるため、「質と量の好循環をめざした福祉人材の確保・育成・定着に関する調査2022」を実施しました。
今号では、その中から「外国人材の受入れ状況」に関する結果をお伝えします。
実施のあらまし
本調査は、2022年9月22日~10月28日の期間、本会施設部会会員施設・事業所3556か所を対象に実施しました。調査票は施設長向け、指導的職員向け、初任者職員向け、実習生向けの4票で構成しています。調査のあらましは表1の通りです。
表1 調査のあらまし
施設長向け |
指導的職員向け |
初任者職員向け |
実習生向け |
|
調査票の配布方法 |
Excelデータまたは紙にて配布 |
Googleformにて作成。フォームのURLを記載した文書の配付を施設に依頼 |
||
回収数 |
634 |
602 |
556 |
127※調査期間中に実習生の受け入れがない施設もあった |
本調査の基本的な視点は次の3点です。
(1)福祉人材の確保・育成・定着をめぐる、業種を横断した具体的な状況を把握し、東京固有の課題もふまえながらデータとして発信する。
(2)質の高い福祉サービスを提供できることが確保と定着に結びつくこと(=質と量の好循環)を前提にした福祉人材対策をめざす。
(3)今後の人材確保を想定し、外国人材や福祉を学んだ経験の有無に限らず、安心して成長して働き続けられる環境のあり方を明らかにする。
なお、16年に実施した「質と量の好循環をめざした福祉人材の確保・育成・定着に関する調査」の結果と比較するため、設問や選択肢の多くを前回同様に設定しました。
前回調査と比較した結果、指導的職員の「現況(業務や受ける相談の内容等)」、初任者職員の「福祉の仕事を就職先として選んだ理由」、実習生の「就職にあたって大切にしたいこと」等の主だった調査項目については、大きな差はほとんどありませんでした。
また、今回の調査では、外国人材(※)の受入れ状況や指導的職員が長く勤めている決め手、福祉人材の確保・育成・定着への新型コロナの影響等、新たな視点の設問を追加しました。
(※)本調査において「外国人材」とは、短期間日本で働く外国人、日本に長く住んでいる外国人を指します。例えば、EPA、定住者、永住者、日本人の配偶者等、介護、特定技能等。
外国人材の受入れ状況
〔外国人材の雇用の有無〕
外国人材の活用状況を明らかにするため、施設長に受入れ状況を尋ねました。
外国人材を雇用している施設は、回答施設全体の20・2%でした(図1)。「高齢(特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム)」、「障害」、「保育」の分野別にみると、高齢分野では61・4%と、半数強の施設で外国人材を雇用しています。一方、障害分野は14・7%、保育分野は10・3%と、それぞれ1割強の施設が雇用していることが分かります(図2)。
図1 外国人の雇用の有無 (単数回答) |
図2 外国人の雇用の有無(分野別) (単数回答) |
〔雇用人数〕
「1~3人」が最も多く、57・8%でした(図3)。分野別にみても「1~3人」の回答が最も多くなっていますが、高齢分野では「4~6人」が34・3%と、「1~3人」(38・6%)と同様の割合となっています(図4)。
図3 外国人の雇用人数 (単数回答、単位%) |
図4 外国人の雇用人数(分野別) (単数回答、単位%) |
〔外国人材を受け入れて良かったこと〕
半数弱の施設・事業所が「異文化への理解が深まった」(45・3%)としています。次いで「指導体制の見直しができた」(30・5%)、「職場の雰囲気が良くなった」(28・9%)と続きます(図5)。
図5 外国人材を雇用して良かったこと (単数回答、単位%) |
自由回答からは、「利用者に対するコミュニケーションや介助がとても丁寧で評判が良い」(特別養護老人ホーム)など、福祉人材としての質の良さをあげる回答や、「外国人職員の母国料理を子どもたちと一緒につくり、異文化理解がすすんだ」(児童養護施設)等、利用者への好影響をあげる回答がありました。他にも、「新規採用職員に対する指導も丁寧になった」(特別養護老人ホーム)、「外国人にも分かりやすいマニュアルを作成することで、日本人への指導にも活かされている」(心身障害者施設)等、外国人職員を受け入れることを通して、業務内容や日本人職員の指導体制の見直しにつながった施設もあることがうかがえます。
〔外国人材の受入れにあたり、工夫したこと〕
「外国人職員への説明を丁寧に行った」(62・5%)ほか、「業務に関する指導の時間を確保した」(35・9%)という回答が多くあがりました。また、「住居などの生活に必要な物品の提供」、「日本人職員への説明」、「業務マニュアルの整備」について、それぞれ約3割の施設が取り組み、外国人職員が働く環境を整えていることも明らかになりました(図6)。
図6 外国人材を受け入れるにあたって工夫したこと (単数回答、単位%) |
具体的な取組みとして、「名札や記録用紙にローマ字表記を加えた。口頭での説明が難しい場合は、動画を活用している」(特別養護老人ホーム)、「毎月ミーティングを行い、不安なこと等を聞いている」(特別養護老人ホーム)、「衣類や住居を提供した。地域のコミュニティへの参加を促し、定期的に参加してもらっている」「日本人職員と先輩外国人職員を必ずつけてOJTを実施している」(知的障害者施設)等があげられました。職場の環境整備だけでなく、外国人職員が日本で働きながら生活することができるように、住居などのサポートをしている施設・事業所もありました。
〔外国人材の受入れにあたり、整備が必要だと思うこと〕
約6割の施設が「指導できる人員」(59・0%)と回答しています。次いで「日本語の指導」(44・3%)が続き、「利用者の理解を深めるための取組み」(31・9%)、「日本人職員の理解を深めるための取組み」(30・8%)となっています(図7)。
図7 外国人材を受け入れるにあたり、整備が必要だと思うこと (単数回答、単位%) |
自由回答からは「言葉の壁(日本人独特の言い回し)があるので、ある程度の語学力は必要と思われる」(児童養護施設)など、保育、児童分野では、日本語能力や子どもたちに伝えるべき日本文化の理解が必要となるとの回答が見られました。
施設長向けのその他の調査結果のほか、指導的職員向け、初任者職員向け、実習生向けの調査結果については、23年3月頃、概要版を本会ホームページに掲載し、また、各調査票を設問ごとにまとめた報告書を出版する予定です。そして、本調査から得られた結果をもとに、来年度、東社協では外国人材や新任職員など特定の層の人材育成に関する工夫した取組みや、指導体制の見直しにつながった事例をヒアリングし、とりまとめる予定です。
https://www.tcsw.tvac.or.jp/