非営利活動団体「A-Step」
中途養育を経験した私が描く”ごちゃごちゃ”な社会
掲載日:2023年3月9日
2023年3月号 明日の福祉を切り拓く

  町田 彰秀 さん  
 
靴づくりをしながら、親族の子どもを育てたことを機に、2009年に非営利活動団体「A-Step」を始める。現在ペアレントメンター(※2)や児童養護施設職員としても働きながら中途養育支援の必要性を発信している。
 

あらまし

  • 町田彰秀さんは、自身の経験から、何かしらの理由で実子以外を養育する「中途養育者(※1)」への支援を中心に、多様な形態の家族が共に暮らせる社会の実現に向け活動しています。

 

中途養育者になって見えてきたもの

幼少期からものづくりが好きで出版や靴の製造に携わり、2000年にベビーシューズの製造や手づくりキットの販売を行う「ファーストステップシューズ」を妻と立ち上げました。靴づくりに面白さを覚え、いつか自分の靴もつくりたいと考えていました。そんな私は03年に妻の親族の子ども2人を引き取ることになります。

 

中途養育者として実子とともに育てるうちに、子どもの言動に「ちょっと変じゃない?」と思うことが増えていきました。教育相談や医療機関へ行ったりもしましたが、当時は発達障害という言葉も今ほど広まってはなく、手探りで動いていました。

 

自分なりに情報を集める中、継母によるブログや掲示板を見つけ、似ている境遇や子どもの悩みに共感を覚えました。しかし、それ以上に、中途養育の実情が知られてなく、偏見による心無い声があること、途中から養育に携わるという特殊な立場にありながら支援が十分でない現実を目の当たりにし、社会課題であると感じました。同じ頃、SAJ(※3)にも参加するようになり、中途養育者をはじめ多様な形態の家族が共に暮らせる地域づくりをめざす団体として、09年に「A-Step」を足立区で設立しました。

 

多様化する家族、変わらない家族観

A-Stepは活動の幅を決めずに中途養育の啓発活動やサロン開催など多様化する家族の課題に応じて支援を展開してきました。サロンなども対象を定めず、さまざまな人が〝ごちゃごちゃ〟に交わることを大切にしています。そのほか、一般社団法人ねっとワーキングの立上げやあだち子ども支援ネットに参加するなど、中途養育に必要な支援を当事者目線で模索してきました。

 

活動を通じて、「定形家族」の意識が根強い社会と他者の目を気にして課題を一人で抱え込まざるを得ない中途養育者の存在を痛感してきました。立場特有の難しさや不安を感じながらも、周囲を頼れない、理解を得られない状況は、子どもの発達に大きく影響するといえます。マイノリティな立場だからこそ、本来周囲の見守りが重要であり、地域の理解を得るために当事者の一人として声をあげ続ける必要があります。

 

多様化する家族にそれぞれの立ち位置から関わっていく

現在はゆる育カフェの開催やペアレントメンターの傍ら、社会的養護を知るために3年前から児童養護施設で働き始めています。地域で養育課題を抱える人や途中から養育を代替した人、そうした養育者側の支援をさまざまな立ち位置の人が補う必要があると考えているからです。今後は、馴染みのあるネットワークを使いながら、それぞれの立ち位置から関われる「ハブ機能」のようなしくみづくりをめざし、その一環として自分の靴をつくる工房も実現したいところです。

 

定形外家族を受け入れる社会には、地域社会の一員として、一人ひとりが社会で生じていることに自ら関わっていく姿勢、つまり個人の視線や器を少しずつ広げていくことが何より大切ではないでしょうか。

 

A-Stepでは、毎月1回「ゆる育カフェ」を開催

11時~20時で開かれており、出入り自由で誰でも参加できる。誰もが気持ちよく参加できるために、「普通はこう~」などの決めつけやアドバイスはいらないなどのちょっとしたルールあり

A-Stepは、A(個々)をStep(継ぐ)という意味

 

(※1)「何かしらの理由で実子ではない子育てに関わる者」を表すものとして使用。子育てを引き継いだ親族やステップファミリーの継親、里親や施設職員等が該当
(※2)発達障害のある子どもの養育経験を生かして、同じような子を持つ親に対して相談相手になったり、情報提供を行う
(※3)Stepfamily Association ofJapanの略

取材先
名称
非営利活動団体「A-Step」
概要
非営利活動団体「A-Step」
https://astep3.org/
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