(社福)西東京市社会福祉協議会
ほっとネットステーションにおける 地域福祉コーディネーターの取組みを活かした事業実施 ―西東京市社協における重層的支援体制整備事業の取組み
掲載日:2023年3月7日

Ⅱ 重層的支援体制整備事業の実施状況

重層的重層的支援体制整備事業の全体像【西東京市のイメージ】 

 

(1)重層的支援体制整備事業実施にあたっての準備

西東京市では、本事業の具体的な進め方を庁内検討委員会で検討してきました。令和3年8月に、西東京市社協へ庁内検討委員会実務者部会(庁内の係長級が参加する会議)への出席依頼があり、地域福祉コーディネーター事業の担当が2回ほど参加しました。あわせて市の所管課(健康福祉部地域共生課地域共生係)と社協で打合せも行ってきました。庁内の関係部署間で本事業への理解をすすめるため、実務者部会は、お互いの事業を説明して理解し合った上で、「なぜ重層的支援体制の整備が必要となるのか」について共通認識を持つところから始まりました。西東京市社協からは地域福祉コーディネーター事業の取組みを庁内の関係部署に説明しました。重層的支援体制整備事業を進めていくためには、まず各機関がお互いのことを理解する必要があり、その上で、初めて連携が可能になると感じたそうです。

本事業の5つの事業全てが社協に委託されることになり、社協内では、西東京市が作成したマニュアルの読み合わせをし、担当職員間で進め方の確認をしました。特に、多機関協働事業については、支援フローを考えて相談支援機関向けの案内を作成しました。フロー作成を進める中で、利用相談のあったすべてのケースを多機関協働事業で対応することはできないが、対応しないケースについても何もしないのではなく、提案をして戻したほうがよいという話になり、提案用シートも作成しました。

 

(2)多機関協働事業のモデル実施

西東京市では、移行準備期間から多機関協働事業でモデルケースの支援に取り組んでいます。庁内検討委員会実務者部会にケースを持ち寄り、地域包括支援センターや生活サポート相談窓口が関わっていた1ケースを多機関協働事業のモデルケースとして具体的に取り組むことにしました。令和3年度末までに支援会議を2回、重層的支援会議を1回開催しました。

 モデル実施では、社協の地域福祉コーディネーターが日頃から実践している「9マスシート※」とマップを用いてケースの把握を行いました。「9マスシート」とは、シートの真ん中に課題、周囲に本人や家族の持つ力も含めた力や資源を落とし込み、本人や家族のストレングスに目を向けていく方法です。会議で使用してみると、地域の力を使う視点や本人の困っているところ以外に着目するという新たな視点が生まれました。また、マップを用いてケースの生活圏域の確認もしました。マップを使用すると、本人を中心にして地域を見る視点が出てきました。本事業は多機関協働事業に投げればいいという事業ではなく、相談支援や参加支援や寄り添い支援があるのだと意識してもらい、全体に目を向けて欲しいとの思いから、地域福祉コーディネーターが日頃大切にしている視点を共有することが重要だと考えています。「9マスシート」やマップを使用する際は、各機関に対して丁寧な説明が必要であり、全員が簡単に取り組めるものではありませんが、今後も同様のツールを使用していきたいと考えています。

 多機関協働事業は社協が受託していますが、支援会議の通知や開催、支援プランの決定は市が行い、支援会議開催に伴う実務や支援プランの素案作成、重層的支援会議の通知や開催は社協が担います。会議は、市が声かけしたほうがいい場合と、会議に参加する各機関と関係ができており、社協が直接声かけできる場合があると思われますので、今後、どのように会議を開催していくのか市と検討する予定です。

※日本社会事業大学社会福祉学部 准教授 菱沼幹男氏の事例検討で提供

 

(3)西東京市の重層的支援体制整備事業の各事業の特徴

西東京市社協は、重層的支援体制整備事業の5つの事業を受託しており、それぞれ既存の社協事業を発展させて実施しています。前述のモデル事業実施に伴う人員増以降、令和4年度からの事業実施にあたって、特に人員の増配置はありませんでした。

 

<包括的相談支援事業>

社協事業含む各分野別の相談支援機関の連携により、相談を受け止める。「どこに相談したらよいかわからない」相談は、ほっとネットステーションで地域福祉コーディネーターが対応し、専門の窓口につなげたり、解決に向けて一緒に考え、解決のためのしくみをつくる。

・属性や世代を問わず包括的に相談を受けとめる。

・受けとめる相談のうち、単独の相談支援事業者での解決が難しい事例は、適切な相談支援事業者や各種支援機関と支援機関のネットワークで連携を図りながら支援を行う。

・複雑化・複合化した課題については適切に多機関協働事業につなぐ。

 

<多機関協働事業>

社協が受託している「地域福祉コーディネーター事業」を活用して、新たな会議体やしくみを設けて実施する。支援プランの決定は市が行う。

・複合的な課題を抱えており、課題の解きほぐしが求められる事例等に対して支援を行う。

・相談支援機関の抱える課題をアセスメントし、各々の役割分担や支援の方向性を整理する役割を担う。

・収集した情報は、原則として多機関協働事業がインテーク・アセスメントシートにまとめるほか、必要に応じて重層的支援会議に提示する。アセスメントの結果を踏まえプランを作成する。

 

<複雑化・複合化した課題(多機関協働事業)【イメージ】>

<アウトリーチ等を通じた継続的支援事業>

社協が受託している「地域福祉コーディネーター事業」により実施する。

・支援が届いていない人に支援を届ける。

・各種会議、関係機関とのネットワークや地域住民とのつながりの中から潜在的な相談者を見つける。

・本人との信頼関係の構築に向けた支援に力点を置く

 

<参加支援事業>

社協が受託している「地域福祉コーディネーター事業」により実施する。

・社会とのつながりを作るための支援を行う。

・利用者のニーズを踏まえた丁寧なマッチングメニューをつくる。

・本人への定着支援と受け入れ先の支援を行う。

 

<地域づくりに向けた支援事業>

社協事業含む既存の各所管の事業等により実施する。生活困窮者支援等のための地域づくり事業については、地域福祉コーディネーター事業における地域づくりの取組みや、その他の地域づくりに関する取組みを整理し、位置付ける。

・世代や属性を超えて交流できる場や居場所を整備する。

・交流・参加・学びの機会を生み出すために個別の活動や人をコーディネートする。

・地域のプラットフォームの促進を通じて、地域における活動の活性化を促す。

 

(4)今後の展望

西東京市社協では、地域福祉コーディネーター事業を中心に本事業を受託していますが、実施にあたって前述のとおり増員はなく、受託前と同じ体制で事業を実施しています。これまで地域福祉コーディネーターとして取り組んできた事業がベースにはなっていますが、多機関協働事業には新規事業もあり、職員の業務量は増えています。また、現在、圏域を担当している地域福祉コーディネーターが多機関協働事業も担っているため、圏域のコーディネーター業務とのすみ分けにも難しさを感じています。今後の体制強化が望まれるところです。

また、以前から取り組んできたことを本事業として実施することもあり、実績のカウントの仕方もわかりにくさがあります。現在、アウトリーチ等を通じた継続的支援事業と参加支援は、これまでも市へ提出していたデータベースの数字からカウントしていますが、どれを本事業の実績としてカウントするのか曖昧だと感じています。今後、コーディネーター事業全般について、市と課題を共有し、整理していく必要があります。

一方で、本事業を受託することは、社協の取組みを他の関係機関との協働に発展させていく機会でもあります。地域福祉コーディネーター事業のほか、ふれあいのまちづくり住民懇談会(小地域福祉活動)、生活支援体制整備事業、生活サポート相談窓口(生活困窮者自立相談支援事業)、社会福祉法人の連絡会による取組みを多くの関係者や関係機関に知ってもらうことが期待できます。

取材先
名称
(社福)西東京市社会福祉協議会
概要
(社福)西東京市社会福祉協議会
https://www.n-csw.or.jp/
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