社会福祉法人共生会 江戸川つむぎの家、社会福祉法人奉優会 地域包括ケア事業本部
課題解決のための想いを発信!福祉施設によるクラウドファンディング
掲載日:2023年4月7日
2023年4月号 NOW

 

 

  • 商品開発や社会課題の解決など、新たな取組みへのチャレンジをインターネットで広く発信し、想いに共感した人たちから寄附を募るクラウドファンディング。資金調達の側面が注目されがちですが、福祉分野においては通常の取組みでは接点の少ない幅広い層へ向けた情報発信の効果も高いようです。実際に取り組んだ2つの法人の事例を紹介します。

 

法人全体で支援者を増やす取組みを推進―社会福祉法人共生会

葛飾区の児童養護施設「希望の家」を中心に複数の施設を運営する共生会では、これまでに2回、クラウドファンディング(CF)に挑戦しています。一度目は希望の家の卒園児を支援するため、二度目は新たに開設する「江戸川つむぎの家」の家具や生活用品の購入費用に充てるために実施しました。

 

2名のファンドレイザー(資金調達やそのための広報活動等の専門家)と契約し、理事長も関連資格を取得するなど、情報発信を強化して多くの支援者を集める取組みを推進する機運が高まっていた共生会では、課題解決のためにCFに取り組むことは自然な流れだったといいます。ファンドレイザーの助言を受けて希望の家でプロジェクトを開始したところ、4日目で当初の目標金額を達成。早々にネクストゴール(さらに高い目標値)を設定することになりました。担当した施設長の佐藤孝平さんは「目標を達成できたことも良かったが、機会があれば社会的養護の子どもたちに手を差し伸べてくれる人がこんなにたくさんいるんだと実感できたことが嬉しかった」と話します。

 

たくさんの人が関心を持ってくれることがわかった一方で、施設への来訪者や実習生であっても、社会的養護の必要な子どもたちへのイメージには未だに偏りがあることも感じていました。江戸川つむぎの家の施設名を公募するなど、みんなでつくり上げていく施設をめざして取組みをすすめていた統括施設長の齋藤美江子さんは、「新しくできる施設のことやそこで暮らす子どもたちのことも多くの人に知ってもらいたかった」と、CFを通じた情報発信のねらいについて話します。

 

社会全体で子どもを育むために

プロジェクトは2つとも目標達成に至りましたが、CFサイトやSNSの運営は大変だったそうです。希望の家の通常勤務と江戸川つむぎの家の開設準備に加えてCF業務を担当していた小栗山千晶さんは、「目の前の子どもへの対応が最優先なので、それにプラスしてどれだけできるか。またサイトで何を報告すれば良いか悩むこともあったが、子どもたちにとって社会的養護のイメージが悪くならないように、明るいページにしようということは決めていた」と話します。

 

佐藤さんも応援コメントへの返信や近況報告の更新は一人で担っていたため、業務時間内では追いつかないこともあったといいます。「一人きりではリスクもあるので、もっと職員を巻き込んで分担したり、CFチームをつくっても良かったかもしれない」と振り返ります。

 

同じくCF業務を担当していた山﨑明夫さんは「通常業務と並行してすすめるのは大変だったが、自分の視野が広がるとても良い経験だった。何より寄附してくださった方々のメッセージが本当に力になった」と話します。地域支援として行っていたホームスタート(※)を過去に利用した人が寄附をしてくれたり、寄附者がその後マンスリーサポーターになってくれたりするなど、つながりを感じる場面もあったといいます。

 

佐藤さんは「『社会全体で子どもを育む』ことが社会的養護の理念の一つなので、もっと発信をしていかなくては、と常々思っていた。今回のCFによって、多くの人に知ってもらえたり、応援していただけたりすることができ、理念の実践につながっていくと実感した。もっと発信力をつけていきたい」と今後について話します。

 

※研修を受けた子育て経験のあるボランティアが未就学児のいる家庭を訪問する活動

(左から)

社会福祉法人共生会 希望の家 施設長 佐藤孝平さん

希望の家 江戸川つむぎの家 統括施設長 齋藤美江子さん

江戸川つむぎの家 主任・里親支援専門相談員 山﨑明夫さん

統括養育リーダー 小栗山千晶さん

 

リターン(返礼品)として寄附者に送った卒園児制作の切り絵

 

現場の気づきを社会的な発信につなげる―社会福祉法人奉優会

都内を中心に100を超える高齢分野の事業所を運営している奉優会では、居宅介護支援事業所で働くケアマネジャーたちの思いがCFに取り組むきっかけになりました。介護者として利用者宅に伺う中で、気になる子どもの存在を見かけることがあったといいます。プロジェクトを担当した川口有美子さんは「支援が終了すると関わりがなくなるため、後になって『あの子はどうしているんだろう』と思うことがあった」と言います。「ヤングケアラー=かわいそうな子」というイメージが広がっていることも気になっていて、「家族としてできることをやっている子どもたちがどんな思いでいるかが心配で、子どもの状況を知るためのツールをつくろうということになった」と話します。

 

その後、より多くの人にヤングケアラーのことを知ってもらうため、ツールだけでなくヤングケアラーの概要や支援事例、現場発の政策提言も加えた自費出版としてまとめることを決定。出版社との打合せの中で「広く発信したいならCFを活用しては」という提案があり、詳しい人を紹介してもらいました。川口さんは「CFサイト利用者は20代~30代がメインとのことで、これから親になる世代にもヤングケアラーの存在を知ってもらえると考えた」と話します。

 

CFに取り組むにあたり、「とにかくスタートダッシュが大事」と助言されていたため、法人ウェブサイトの各事業所ページで周知したり、チラシを作成して来所者や関係者に配布したり、ケアマネの口コミで広げたりするなど、CFサイトを見てもらうための周知にも力を入れました。幸い、スタートから数日で目標額の3分の1に達することができました。さらに、その後はテレビなどのマスメディアに取り上げられる機会もあり、幅広い発信につながりました。

社会福祉法人奉優会 地域包括ケア事業本部長 川口有美子さん

 

CFをきっかけに新たなつながりへ

出版物の制作と同時並行で取り組んだプロジェクトは、居宅介護支援事業所のケアマネ約20人が役割分担をしてすすめました。絵が描ける人はイラストやマンガを、パソコンができる人は動画を、調べてまとめることが好きな人は本の原稿を書くなど、それぞれが得意なことを担ってもらったそうです。川口さんは「CFも出版も初めてのことで大変だったが、同じ目標に向かって取り組むことができ、チームワークの向上につながった」と職員への効果について話します。

 

CFに取り組む以前からヤングケアラーについて発信していた奉優会ですが、今回のプロジェクトを経て、新たな展開もありました。その一つが、学校や公立図書館向けに発行されるヤングケアラーに関する出版物への取材協力です。テレビ取材に協力したことがきっかけで、監修を務める学識経験者から声がかかったそうです。「ヤングケアラーの当事者にも届けたいという思いがあったので、子どもが相談できる機関の一つとして協力することができて嬉しかった」と川口さんは話します。

 

また、2022年12月には、世田谷区主催の「ヤングケアラー・若者ケアラー支援シンポジウム」にもパネリストとして参加しました。そのほか、ケアマネの勉強会・学習会などでもヤングケアラーについて伝える機会が増えたといいます。川口さんは「ガイドブックは完成したが、子どもの想いを地域で支えるために、いかに普及していくかが大切」と今後の取組みを見据えています。

(左)ヤングケアラー支援ガイドブック (中)リターンとして作成したトートバッグ (右)取材協力した図書館向け図書

取材先
名称
社会福祉法人共生会 江戸川つむぎの家、社会福祉法人奉優会 地域包括ケア事業本部
概要
社会福祉法人共生会
http://kyousei-tokushima.org/
江戸川つむぎの家
https://www.kyousei-kai.com/tsumugi/index.html
社会福祉法人奉優会
https://www.foryou.or.jp/
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