新宿区の人口は、2023年1月1日時点で、34万6,279人、そのうち外国籍住民の人口は4万279人で、約11%を占めています。特に、新宿区立大久保図書館がある大久保二丁目は、人口の31.7%、隣接する大久保一丁目は38.5%が外国籍住民と、非常に高い割合になっています。コロナ禍前は、その割合が40%を超えていた時期もありました。国籍別に見ると、中国人と韓国人が約6割ですが、ネパール人やベトナム人など、さまざまな国籍の人が生活しています。
館長の米田雅朗さんは「図書館の利用状況を数年前に集計してみたところ、外国籍の人の利用が全体の約3割だった。利用者カードをつくらずに図書館を利用している人もいる。日本に来たばかりの人が来館することもあり、図書館の情報が口コミで広がっているのではないか」と言います。近隣の日本語学校からは図書館の見学ツアーを受け入れており、伝えたい情報を簡潔にまとめて、ふりがなをつけた利用案内も作成しています(写真1)。
(写真1) 伝えたい情報を簡潔にまとめ、ふりがなをつけた利用案内
本を通じてさまざまな活動を展開
このような地域の特性に対応するため、韓国語や中国語を話すことができる職員が勤務しているほか、「多文化サービス」を多岐にわたって推進しています。その一つは、外国語資料の収集です。30言語以上の一般書籍や絵本を約2,800冊取り揃えています。購入することが多いですが、中には寄贈されたものもあります(写真2・3)。
(写真2) 多文化図書コーナー
(写真3) 多言語の絵本
図書館に置いてほしい本をリクエストできる「多文化コーナー図書推薦カード」も多言語で用意しています(写真4)。
(写真4) 多言語で用意している図書推薦カード
もう一つは、一冊の絵本を外国語と日本語で交互に読み上げる形で読み聞かせを行う「おはなし会」です。英語や韓国語で開催することが多いですが、随時ネパール語やベトナム語、アラビア語などさまざまな言語で読み聞かせをしています当初は毎週土曜日に行っていましたが、コロナ禍で中断となり、21年秋頃から月1回のペースで再開しました。読み手は、フリーランスの通訳者や地域の子育て支援団体とつながっている外国籍のお母さんたちなどです。米田さんは「ボランティアでお願いすることも考えたが、きちんと謝礼をお支払いしている。読み聞かせをしてくれたお母さんたちからは『母語を話せて良かった』といった反応をもらう。こちらとしても嬉しい」と話します。
以前は日本語学校の学生が話し手となるおはなし会も行っていて、参加者のほとんどは日本人のこどもたちでした。「小さな集いかもしれないが、幼い頃から外国籍の人と接する経験をした世代が大人になっていくことで、自然な多文化共生社会がつくられると思う」と、米田さんは言います。
ほかにも、日本語を使う機会として「ビブリオバトル」も開催しています。好きな本について、日本語でプレゼンをし合い、どの本が一番読みたくなったかを決める、本を使ったコミュニケーションゲームです。年一回の実施で、10年ほど続いています。米田さんは「当初は集客が大変だった。SNSやホームページにも載せているが、近隣の日本語学校を回ったり、図書館に来た人にチラシを渡したりして、直接声をかけることが最も効果的だった」と振り返ります。
団体同士の輪も広がる
「ゼロから始める楽しい日本語多読」と題した日本語支援も行っていました。現在はコロナ禍で中断していますが、23年度から再開できるよう調整をすすめています。外国語習得を支援する団体の協力で実施に至り、多くの外国籍住民の参加があったため、イベントではなく、図書館の日本語支援として定着していきました。米田さんは「これはデンマークの図書館が、移民を対象に行っているデンマーク語で交流するトーククラブの取組みを参考にした。移民にとって図書館がホッとする場所になっていることを知り、大久保図書館もそうでありたいと思った」と言います。
多文化共生のイベントは、さまざまな団体と連携・協力してできるもので、図書館単独ではできません。「館長になった頃は、人脈がなくて大変だったが、地道にいろいろな人と会っていくことから、だんだんと『面白いことをやっている図書館があるらしい』と広まっていった」と、米田さんは振り返ります。続けて「協力してイベントができれば図書館に多くの人が訪れ、それぞれの団体も新しい人とのつながりができる」と、連携の意義を話します。
人と人とがつながる図書館に
大久保図書館の理念は「国境を超え、人種を超え、差異を認め合い、尊重する」ことです。その一歩として、図書館の職員は来館した人に必ず「こんにちは」と笑顔で声をかけています。あいさつをすることで「ここにいていい」というメッセージや安心できる場所であることを伝えるためです。「日本人や外国人といった○○人という概念を超えて、人と人とがつながり合っていく場所であることが私たちの役割」と、米田さんは図書館がめざす形を話します。
ただ、「こうした取組みについて、来館するすべての人の理解が得られているわけではないことも事実としてある」と感じています。米田さんは「私たちや協力してくれる団体は、楽しんで活動をしている。その雰囲気がだんだんと伝わって、『楽しそうなことをしているな』と思ってもらえたらいい」と言います。そして「『何かしてあげる』という姿勢ではなく、自然な交流で、みんなが笑顔で関わることが、多文化共生への一番の近道。目の前の人を大切にすることをこれからも忘れずにいたい」と、館長としての思いを話します。
https://www.library.shinjuku.tokyo.jp/facility/okubo.html