府中市地域包括支援センター安立園
身寄りがあってもなくても、誰もが安心して暮らすことのできる地域社会に
掲載日:2023年7月7日
2023年7月号 NOW

 

あらまし

  • 東京都の高齢化率は、2023年1月時点で22.67%。高齢者の単身世帯の割合も増加傾向にあり、日常のコミュニケーション機会の減少、病気や認知症の進行など、生活上のリスクが高まります。
  • 今号では、地域で暮らす高齢者を介護・医療・保健・福祉などの側面から支える地域包括支援センターへの取材を通して、身寄りのない高齢者の支援に大切なことを考えます。

 

地域包括支援センター(以下、包括)は、地域で暮らす高齢者を支える総合的な相談窓口で、介護保険法に定められています。生活上の困りごと全てを受け止めて適切な機関等につなぐ「総合相談支援業務」、消費者被害の防止や相談など、高齢者の権利を守る「権利擁護業務」を行っています。さらに、地域のケアマネジャーの支援や他機関とのネットワークをつくる「包括的・継続的ケアマネジメント支援業務」、高齢者が要介護状態になることを予防するために必要な支援などを行う「介護予防ケアマネジメント業務」を担っています。

 

(取材をもとに作成)

 

近年の単身高齢者の増加に伴い、特に、身寄りがないことで、医療決定や金銭管理のほか、連帯保証などのさまざまな契約等の場面で、課題が現れることが多くなっています。府中市晴見町にある「府中市地域包括支援センター安立園(以下、安立園)」にもさまざまな相談が寄せられています。

 

例えば、認知症が進行している状況で成年後見制度の利用手続きが必要になったケースや、見守りが必要な世帯がオートロックマンションに住んでいるために関わりが難しかったケースなどです。

今回は、安立園のセンター長で社会福祉士の河野知子さん、保健師の江村わくりさん、主任介護支援専門員の大橋雅子さんに、80代男性の実際の事例について、お話を伺いました。

 

80代男性の事例 

  • ヘルパーを利用して一人暮らしをしている。遠方に親戚はいるが現在は疎遠状態。携帯電話を所持していない。今春にがんを発症。

 

男性は、がんの疑いがあることが分かり、早急に総合病院に診察に行く必要が生じました。以前からケアマネジャーとして関わっていた大橋さんが付き添うことになったのをきっかけに支援が始まりました。

 

何度も通院し、男性はがんと診断されましたが、ご本人の希望で大橋さんは告知時と手術をするかどうか決定する場に同席しました。大橋さんは、当時について「ご本人もショックを受けていたが、一緒に受け止め、寄り添うことを意識した。手術のリスクは大きかったが、迷いなく『まだ生きたい』とご自身で決められ、それは我々にとっても力になった」と話します。

 

ただ、入院中の連絡先がなかったことで、病院から安立園に電話がかかってきていたことや、退院後の生活を病院と連携してどう支援していくかなど、多くの課題がありました。また、広く地域を担当する包括として、一つのケースの中でどこまでが自分たちの役割なのかという悩みもあり、常にチームで確認をしていました。河野さんは「包括の職員が直接誰かの支援に入れば、ほかの誰かに入れなくなる。だから、ご本人の周りのつながりや、実際に動ける人を掘り起こすことや、その中で役割分担や連携を構築していくことが求められる。特に身寄りのない方を支える上では重要なことだと思う」と言います。そのためにも、日ごろからの顔の見える関係づくりが大切と強調します。

 

単身高齢者本人や周りとのつながりを引き立てる支援を行う

今回の事例にはあてはまりませんが、身寄りのない方であっても、本人の周りには、包括や他機関だけではなく、近隣住民や学生時代からの友人、会社の元同僚といったインフォーマルなつながりもあります。「このようなインフォーマルなつながりは、不安定かもしれないが融通もきくし、スピード感もある。さらに、誰かをサポートした経験は本人の周りにいる人にとっても『この時はこう対応した』という自信にもなり、地域に受け継がれていくと思う。そういった人たちの存在に我々が気づき、光を当てることができると良い」と、河野さんは話します。江村さんは「ご本人のネットワークがどうつくられてきたかを知ることが大切。その上で、大小のネットワークを重層的に支えたり、広げたりする役目が包括にはあると考えている」と言います。

その一方で、ご本人の意思を一番に尊重し、支えることも包括には求められます。大橋さんは「この事例の男性は、現在は周りとの関わりを持っていなかった。このことは事実として受け止め、その状況の中でどういったものを活用できるかなどを我々が把握し、彼を支える体制を整える。これまで生きてきた彼の人生に焦点を当てて支援をしていくことが大切だと思う」と話します。

 

事例から見えてくる課題と今後について

今回の事例のように、総合病院はさまざまな科で診察を受けられる反面、予約や案内などが煩雑で、一人ひとりのサポートまでを求めることは難しく、単身高齢者が一人で受診することが困難な状況があります。河野さんは「病院側が単身高齢者の生活状況や背景も含めた配慮をもう少しすることができれば、本人も安心できると思う。病院も、身寄りがない人を引き受けた後、退院後のつなぎ先がないなど課題を抱えている。そのほかにも、身寄りのない方への支援ニーズの増加に対して、関わる支援機関や人員体制の整備等が追い付いていないと感じている」と言います。

 

また、包括として、単身や二人暮らしの高齢者世帯と早期に関わりを持てていたとしても、いざという時のための準備を早い時期からすすめておくことの難しさもあるといいます。江村さんは「我々は専門職として先の見立てや可能性を考え、準備をしておいた方が良いと考えるが、それとご本人の思いが違うこともある。ご本人にとっては日常生活なので、『まだ大丈夫、なんとかなる』と思ってしまう。このギャップを少しでも小さくしていくことが必要」と話します。

 

安立園では、担当する地域の自治会や老人会、民生児童委員、ケアマネジャーなどに向けて、高齢者地域支援連絡会を開催しています。23年度は「身寄りのない方への支援」をテーマに、事例を用いてグループワークを行うことを予定しています。このような連絡会で支援に関連する情報提供をしていくほか、日々の活動の中でも、早めに準備をして周囲とつながることの大切さの発信・周知を続けていきます。

 

社会福祉法人安立園の外観

取材先
名称
府中市地域包括支援センター安立園
概要
府中市地域包括支援センター安立園
https://anryuen.jp/hokatsu-site/
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