中野区内社会福祉法人等連絡会
地域のニーズにこたえる活動を、試行しながら生み出す
掲載日:2023年7月19日
2023年7月号 連載

           左から

(社福)中野区社会福祉協議会 課長補佐 大友昌一さん

(社福)武蔵野療園 しらさぎ桜苑 地域連携室長 白岩裕子さん

(社福)武蔵野療園 理事長 駒野登志夫さん

(社福)東京コロニー コロニー中野事業所長 近藤章夫さん

(社福)中野区社会福祉協議会 経営管理課長 小山奈美さん

 

あらまし

  • 中野区内社会福祉法人等連絡会では、2020年に相談支援と食支援をセットにした常設のフードパントリーを開設し、連携事業所を少しずつ増やしています。また2022年からは仕事体験の場を提供する就労支援プロジェクトをスタートさせました。地域の課題解決につながるさまざまな取組みを「試行」しながら生み出していく連絡会の動きについて伺いました。

 

中野区社会福祉法人等連絡会の概要

中野区では2015年から「中野区内社会福祉法人情報交換会」をスタートし、地域における公益的な取組みについて意見交換するとともに、福祉施設が提供できる資源をまとめた社会資源情報カードの作成やフードドライブ等に取り組んできました。19年8月に「中野区内社会福祉法人等連絡会」として組織化し、現在は区内30法人の44事業所を会員として、地域課題解決のためのさまざまな取組みを実施しています。

 

連絡会の方針や重点、事業内容については定例の役員会で協議し、具体的な取組みは協働事業プロジェクトとして、より多くの施設に参加を呼びかけながらすすめています。

 

コロナ禍で試行した「相談支援型フードパントリー」

中野区内社会福祉法人等連絡会としての二期目を迎えた20年は、新型コロナの感染拡大の影響で各法人・事業所とも対応に追われ、思うように活動できない状態が続いていました。

 

連絡会事務局の中野区社協では、生活福祉資金の特例貸付等を通じて生活困窮の深刻さと食支援の必要性を痛感し、「中野つながるフードパントリー」を企画。会員事業所をはじめとする関係者の協力を得て、社協の事業として12月に実施しました。しかし、こうした単発ではない常設型のパントリーが必要だとも考えていました。

 

その頃、社協と同じように食支援の必要性を感じていた社会福祉法人武蔵野療園しらさぎ桜苑地域連携室では、事業所独自のパントリーの準備をすすめており、21年2月からの実施を予定していました。新型コロナ以前に地域の人と連携して実施していた子ども食堂を中止せざるを得なくなったことも、パントリー実施を考えたきっかけの一つです。「食べるものにも困る人がいるという現状に、いても立ってもいられなかった」と地域連携室長の白岩裕子さんは振り返ります。この動きを知った社協は、連絡会の協働事業プロジェクトのモデル事業とすることを発案。しらさぎ桜苑の先駆的な実践を通して、相談支援と食支援をセットにしたパントリーの検討を開始しました。

 

役員会の協議を経て翌21年度の事業計画案の中で新規事業として立案するとともに、3月にはNPO法人セカンドハーベスト・ジャパンと社協との間で毎月50世帯分の食料提供を受ける協定を締結。4月からしらさぎ桜苑による「さくらフードパントリー」と、社協による「ハピネスパントリー」の試行がスタートしました。

 

事業の周知は、民生児童委員や町会・自治会のほか、福祉事務所や子ども家庭支援センター等の相談支援窓口に対して行いました。21年4月から9月までの相談実績は2か所合わせて106件で、20代から80代まで幅広い年代の方からの相談を受け、個別に食料を渡しました。白岩さんは印象に残っている事例の一つについて、「持病のあるパントリー利用者で心配な方がいたので連絡を取っていたのだが、無料・低額診療につながった後に生活保護受給となり、手術を受けて元気になられた。私たちは食料をお渡しすることしかできなかったが、ご本人から『ここをきっかけにトントン拍子でつながった』と感謝の言葉をいただいた」と話します。

 

事業所の連携によりパントリーを拡大

相談支援型フードパントリーをさらに広げていくため、食品を詰め合わせた「パントリーバッグ」を区内10か所の事業所で受け取れる拡大版パントリーのしくみを構築し、22年2月から1か月間、試行しました。

 

連絡会では設立当初から身近な事業所で住民の相談を受けられるしくみづくりを構想していましたが、会員からは「分野以外の相談は難しい」「交代勤務の中で担当不在の際はどうしたらよいのか」といった意見も出ていました。中野区社協経営管理課長の小山さんは「どんな人が来るか分からないというのが最大の懸念。相談と掲げると深刻なものしか来ないのではという印象も強かった。食をツールにして試行的にでも相談の場面をつくれたら、利用者がどんな話をするのかも分かると思った」と話します。課長補佐の大友昌一さんは「ベースにしらさぎ桜苑の実践があったことと、やってみてから考えようというイメージが連絡会で共有できていたこと、そして新型コロナ以前から協働事業プロジェクトを行ってきた経験もプラスに作用した」と、事業所が連携して取り組むことができたポイントについて話します。

 

拡大版パントリーでは、受付と相談は社協が一括し、受け取り場所と日時を調整して事業所で手渡すという形を取りましたが、障害の多機能型事業所のコロニー中野のように、パントリーバッグを取りに来ることが難しいという相談者に対して自宅まで届けるなど、柔軟に対応したケースもありました。連携事業所では受け取り報告とともに相談者から聞き取った内容を社協に共有しています。連絡会副会長でコロニー中野事業所長の近藤章夫さんは、「『困ったらまた相談したい』といった声や、『ここで食品がもらえると聞いたんだけど…』といった問い合わせも入るようになった」と話します。22年度は連携事業所が18か所に増え、地域の人の安心感につながる取組みとして少しずつ浸透しています。

 

施設職員が協力してパントリーバッグの   仕分け作業を行う

 

仕事体験ができる就労支援プロジェクト

22年度は新たな試行的取組みとして、就労支援プロジェクトにチャレンジしました。それまでも「中野つながるフードパントリー」で福祉の仕事相談や情報提供を行っていましたが、資格要件などもありなかなか就労にはつながらない状況がありました。また、社協が実施する「福祉なんでも相談」や「ひきこもり相談」を通じて、就労前のワンステップが必要な方がいることを実感し、中間的就労などの場が作れないかと考えていました。そこで、事業所で仕事体験ができる場をつくる就労支援プロジェクトを連絡会に提案しました。体験とはいえ、あくまでも仕事なので少しでも報酬を出せる形にして、東京都地域公益活動推進協議会の助成金を活用し、事業費として予算計上を行い、了承されました。

 

会員事業所を対象に勉強会を開き、資格がなくてもできる簡易的なプログラムを考えてほしいと社協から伝えたところ、4事業所から手が上がりました。社協が用意したフードパントリーの仕分けに加え、清掃、調理補助、午睡時の布団干し、砂場の整備等、1回2時間の活動が揃いました。3回体験をして両者が合意すれば採用面接ができるようにしたところ、これまで20代~70代の4名が参加し、現在2名が就労しています。

 

小山さんは「参加しやすいプログラムを切り出してくれたことがありがたかった。短時間の作業はパート募集をしてもなかなか集まらないそうで、その点で事業所にもメリットがあった。課題としては、体験希望者の状態をどこまで受け入れ先に伝えるか。先入観があっても難しいし、一方で状態を知った上で受け入れたほうがいいという意見もある」と話します。実際に取り組んでみての成果や課題をいかに連絡会で共有していくかも課題といいます。

 

地域のニーズに基づいた活動を

近藤さんは社会福祉法人の地域ネットワークについて、「障害分野にとっては、保育や高齢など種別を超えたつながりが地域でできることがありがたい。困ったことがあったら聞いてみようと思えるので本業にとってもいい影響があるし、ひいては利用者のためにもなる。一人でも多くの職員に参加してほしい」と話します。

 

連絡会の会長で武蔵野療園理事長の駒野登志夫さんはコロナ禍での取組みについて、「実際に顔が見える形での交流が大切。オンラインは便利だがどうしても固くなってしまう」と振り返ります。そして「個人的には、これからは買い物や通いの場への行き帰りなど日常的な移動支援が大事になると思っている。こうした課題に連絡会で一緒に動き出していけたら」と、今後も地域のニーズに基づいた活動を社会福祉法人の連携によって生み出していくことを考えています。

取材先
名称
中野区内社会福祉法人等連絡会
概要
中野区内社会福祉法人等連絡会の取組みを随時掲載中
(東京都地域公益活動推進協議会のウェブサイト)
https://www.tcsw.tvac.or.jp/koueki/kushichoson/nakano/index.html
タグ
関連特設ページ