社会福祉法人村山苑理事 品川卓正
社会福祉法人に携わる人は、社会福祉法人の使命と責務を忘れないでほしい
掲載日:2023年9月25日
2023年9月号 福祉職が語る

社会福祉法人村山苑理事 品川卓正 (Takamasa Shinagawa)

(元東社協救護部会部会長、前社会福祉法人経営者協議会会長、前東京都地域公益活動推進協議会会長)

 

 

10代の頃の私は、関西の民間企業で働いていました。なんとなくその日を暮らしている自分に「これでいいのかなあ」と思う日々でした。そんな時、知人である若き日の高山照英氏(当時の村山苑理事長)と連絡を取り合う機会があり、自分のもやもやした思いを伝えると、「それなら東京に来て福祉の仕事をしてみないか」と声をかけてもらいました。福祉の仕事と言われても何も分からない私に「いろいろと困っている人たちの生活を支える仕事だよ」と教えてくれて、私は「人の役に立てるのであれば」と東京に行くことを決めました。福祉のことを全く知らなかったので、何の不安もなく気軽に決断したのだと思います。

 

◆救護施設「村山荘」の職員として

東京に来て、高山氏の紹介で救護施設村山荘の職員になりました。救護施設は、生活保護法にもとづく保護施設で、身体・精神の障害や、経済的な問題も含めた課題等、多様で複合的な理由により日常生活を営むことが困難な人が利用している入所施設です。1960年代後半の「村山荘」には100名近い利用者がいました。お世辞にもきれいとは言えない建物で、居室もお風呂も食堂もボロボロです。初めて見る福祉の現場の様子に、自分がこういう場所でこの人たちのために役に立てるのか不安になりました。

 

村山荘での私は、日中は畑に出て利用者の方々と一緒に野菜づくりをして、夜は収穫した食材を鍋にして一緒に食べる、そんな経験をしながら利用者一人ひとりが抱える課題に向き合っていました。先輩職員にも支えられ、さまざまな支援やコミュニケーションを重ねていく中で、徐々に私の中にあった利用者との距離感が縮まっていきました。さらに、自分が周囲に受け入れられ、信頼されてきていることを実感するようになると、仕事にやりがいと魅力を感じるようになっていきました。そして、自分の仕事をもっと知りたい、学びたいと、社会福祉の制度や役割を勉強するようになりました。

 

◆「村山荘」の施設長として

5年間、村山荘で勤務をした後に、一度、法人内の保育園に転勤となり、その後、再び村山荘に戻り、施設長として勤務することになりました。

 

施設長になり、利用者支援だけでなく職員育成の視点もあわせて施設運営に関わっていくことになります。

 

「利用者の笑顔と満足」を実現することが「職員の笑顔と満足」となり、職員の成長にもつながっていきます。そういう場面を経験することで職員の仕事に対する意欲を高めて、施設全体で質の高いサービスを心掛けました。会議や委員会を行うときは、ここでの意見交換や議論が自分たちの業務にどう役立っていくのかを具体的に思い描けるようすすめました。

 

東社協の救護部会の活動に参画する機会も増えました。1990年代後半の施設部会には、公私格差是正事業(※1)の見直しにどのように対応していくか等の難しい課題がありました。一つひとつの課題に対し、東京全体の救護施設の意見をまとめていかなくてはなりません。救護部会の活動を通して、特に当時部会長であった田中亮治先生(東京光の家)とは、多くの場面で同席させていただき、東京の福祉はもとより全国の福祉をけん引するリーダーの姿勢や考え方を間近で学ばせていただきました。

 

私がリーダーとして大切にしていることは、相手の気持ちを尊重する、ぶれない姿勢を示す、本質をしっかりとらえる、を実践することです。田中先生はじめ諸先輩方からの多くの学びに感謝しています。

 

◆社会福祉法人村山苑の理事長として

1997年から社会福祉法人村山苑の常務理事、2010年からは理事長として法人の経営に携わるようになりました。村山苑は救護施設・保育園だけではなく、高齢者・障害者のための事業も行っています。これらの事業は、それぞれで課題を抱えています。制度改正に伴う報酬改定や利用者確保の問題、老朽化した施設の建て替え問題、人材の確保・定着・育成は、常に大きな課題として目の前にあります。

 

理事長としての判断を求められる場面も多々ありました。私は、法人経営は大切だと理解していますが、そのために福祉サービスの質の向上の努力が阻害されてはいけないと思っています。私が理事長として判断・決断する際の基準は「サービスよりも経営ではなく、サービスのための経営」であることです。結果として、このことが村山苑の経営と信頼に好循環をもたらしたと思っています。

 

◆地域公益活動推進協議会の設立

村山苑の理事長になったことで、東社協の社会福祉法人協議会(以下、法人協/現:社会福祉法人経営者協議会)の活動にも関わるようになりました。

 

2011年の「黒字ため込む社会福祉法人」という新聞記事をきっかけに、社会福祉法人に対する厳しい内容の報道が続きました。その対応に苦慮したことは忘れられません。

 

社会福祉基礎構造改革の「多様な事業主体の参入促進」により、株式会社や非営利活動法人等による福祉サービスの提供が広がりました。そして、同じ福祉サービスを提供していても社会福祉法人にだけ優遇措置があるのは不公平であるという、いわゆる「イコールフッティング論」が出てきました。この中で、社会福祉法人への課税についても検討の項目になったことは大きな衝撃でした。課税問題は、特に大都市の社会福祉法人にとっては、法人存亡の大きな分かれ目ともいえる問題です。

 

国はこのことを重視して、社会福祉法人のあり方について、社会保障審議会福祉部会等の場で検討し、2016年に改正社会福祉法を成立させ、その中で、社会福祉法人の「地域における公益的な取組を実施する責務」等が明記されました。

 

2015年からは法人協の会長としてこの課題に取り組みました。東京の社会福祉法人にふさわしい「責務」について、東社協内に協議の場を設けて関係者とともに検討を重ねました。その結果、東社協に新たに「地域公益活動推進協議会」(以下、推進協)を設立し、私は推進協の初代会長として、東京ならではの「3つの層による地域公益活動の推進(※2)」と、地域公益活動の「活性化」と「見せる化」に取り組んでいくことになりました。社会福祉法人は、その使命と責務を果たすために、それぞれの福祉サービスの専門家であるだけではなく、地域のさまざまな福祉ニーズを受け止める専門職集団であることが求められています。推進協は、各法人が得意分野を持ち寄って地域のネットワークをつくり、その上で地域の福祉力を「見せる化」して、地域住民に知ってもらうための情報発信力強化に協働で取り組むことをめざします。

 

◆社会福祉法人の「責務」の重さ

推進協の設立は、社会福祉法人の存在意義が問われている状況に対する東京の社会福祉法人の大きな覚悟と決断だと思っています。

 

しかし、2016年の推進協設立から7年が経過して、昨今はこのことに関する社会福祉法人や福祉関係者の問題意識が薄らいできているように思えてなりません。

 

われわれは、社会福祉法人の存在意義が常に問われていることを理解して、社会福祉法人の使命と責務の重さを認識し、誠実に取り組む姿勢を忘れてはいけないと思います。

 

 

(※1)「公私格差是正事業」

民間社会福祉施設職員給与公私格差是正事業。公立福祉施設等で働く東京都職員と民間福祉施設で働く職員の給与格差を是正するため、東京都の加算等により民間福祉施設職員の処遇改善を図った制度。1971年度開始。1999年に事業見直しとなり、その後「民間社会福祉施設サービス推進費補助事業」がスタートした(2002年本則実施)。

 

(※2)「3つの層による地域公益活動の推進」

推進協による東京都内における地域公益活動推進のための活動方針

(1)各社会福祉法人による取組み

(2)地域(区市町村域)の連携による取組み

(3)広域(東京都全域)の連携による取組み

の3つの層による取組みを推進するための活動を行う。活動の推進にあたっては、区市町村域における社会福祉法人のネットワーク組織と緊密に連携する。

取材先
名称
社会福祉法人村山苑理事 品川卓正
概要
社会福祉法人村山苑
https://www.murayamaen.or.jp/
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