株式会社R65不動産、社会福祉法人 悠々会
一人ひとりが安心して暮らし続けるために ~住宅確保要配慮者に対する取組みのいま
掲載日:2023年11月22日
2023年11月 NOW

 

あらまし

  • これまで高齢者や障害者、低額所得者や子育て世帯等の住宅の確保に配慮が必要な人(住宅確保要配慮者)に対して、「住宅セーフティネット制度(※1)」をはじめ住まいの確保に向けた取組みがすすめられてきました。一方、さまざまな要因から入居に抵抗のある賃貸人も依然として多く、住まいの確保が困難な状況は続いています。今回は2つの都内居住支援法人(※2)に取材し、その実態と必要な取組みを明らかにしていきます。
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  • ※1…民間の空き家や空き室を活用して住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅の供給を促進することを目的に創設。
  • ※2…2017年の改正住宅セーフティネット法に基づき、住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅の円滑な入居促進を図るために、住まいの情報提供や相談、見守りなどの生活支援等を実施する法人で、都道府県が指定。

 

高齢者が“安心”できる住まいを探し続けて

~株式会社R65不動産

今年で立ち上げから8年目となる株式会社R65不動産は、2022年より居住支援法人に指定されています。65歳以上の高齢者の住まい探しを中心に、対象物件を集めたポータルサイトを運営するなど住まいを探す高齢者だけでなく、賃貸人に対しても取り組み続けてきました。代表取締役の山本遼さんが不動産会社の社員時代に、「年齢」を理由に入居を断られ続けた相談者に対応した経験から“高齢者の住まい”に取り組む必要性を感じたことが始まりです。

 

R65不動産には高齢者本人から住まいの相談があるほか、社会福祉協議会やケアマネジャーから連絡が入ることもあります。相談に来る高齢者は、取り壊しにより立ち退きが数か月後に予定されている人から数日以内に退去が求められるような緊急性の高い人など状況はそれぞれです。そうした高齢者の住まいを一緒に探していく上で、山本さんは「まず断らない。そして、“高齢者”と一括りにせず、当たり前だがその人の希望を聞いていくこと」を大切にしているといいます。設立当初と比べると、R65不動産の認知度の高まりや新型コロナの影響もあり、都内における高齢者を対象とした物件は少しずつ増えていますが、まだまだ賃貸人に対するアプローチが必要な状況であるといいます。

 

◇それぞれの“安心”につながるために

高齢者の入居が断られる背景には、残置物の処理や死後の手続き等が主に挙げられます。山本さんが対象物件を探す際にも、「入居者が孤独死したらどうしたらいいのか」「身寄りのいない高齢者の残置物の処理が不安」との声が貸し手から聞かれるといいます。R65不動産では、住まいを探す段階から、賃貸人が不安に思うことをしっかりとヒアリングしていきます。さらに、電気の使用量を利用した入居後の見守りサービスに加え、残置物の処理に関する契約書を設けるなど、入居者だけでなく賃貸人の安心につながる取組みもすすめています。

 

また、入居後に認知症が進行したケースを挙げ、山本さんは「その人は周囲に家族がいたが、身寄りのない高齢者だったらどんな対応が求められたのか。居住支援法人として身寄りのない高齢者の住まい探しもすることが増えた今、入居後に認知症がすすむ場合等の対応を考えていくことが喫緊の課題」と話します。

 

◇高齢者が安心して暮らし続けていく方法を地域と共に模索していく

現在、民間賃貸住宅で暮らす高齢者は200万世帯に上り、30年には高齢単身者が800万世帯になることが見込まれています。そうした状況下で、高齢者が安心できる住まいを確保し、暮らし続けていくためには、「高齢者本人の状況をしっかりと把握し、段階的なリスクを分解して、対応していくことが重要」と山本さんは考えています。また、事故物件となる懸念から高齢者が立ち退きを求められたりするケースに触れ、山本さんは「高齢者に立ち退きを求めたり、空き室のままにするのではなく、見守りサービス等をつけて住まいを提供し続けることも考えてほしい」と高齢化に対する貸し手の“準備”の大切さを指摘します。

 

8年以上にわたり“高齢者の住まい確保”に取り組み続けてきたR65不動産ですが、多くの人に知ってもらい、地域の支援者と共に“高齢者の住まい”を支えていくことをめざしています。山本さんは「立ち退きの数日前の相談や、別の不動産で断られた後にうちを訪れることがある。早期に連絡をもらえれば状況をふまえて住まいを探すことができる。また、身寄りのない高齢者等への対応は自分たちだけでは限界があるので、地域の福祉関係者と連携しながら生活面の多様なサポートに取り組んでいきたい」と今後について話します。

 

株式会社R65代表取締役 山本 遼さん

 

 

一人ひとりの“あんしん”に寄り添う

~社会福祉法人悠々会

町田市で高齢者福祉事業を展開している社会福祉法人悠々会は、住宅確保要配慮者への取組みとして2016年から「あんしん住宅事業」を運営しています。受託している地域包括支援センターとして、地域住民とトラブルになって引っ越しや立ち退き等を求められる相談に対応する中で、悩みや課題を早期に把握していればトラブルに至らなかった事例が重なり、法人として取り組む必要性を感じたといいます。理事長の陶山慎治さんは「こうしたトラブルに発展しないためには、病院からの退院や転入といった引っ越しのタイミングで、その人の状況把握や地域との関係づくりをしていく必要があると思った。法人として住まいを探すことに取り組めば、予防につながると考えた」と事業に至った思いを話します。東京都のモデル事業から始まった「あんしん住宅事業」は、住宅の確保が難しい人から相談を受けて一緒に住まいを探し、悠々会が部屋を借り上げて低価格な家賃で貸し出す“サブリース”の方式をとっています。入居後も必要な支援を行い、安心できる住まい、そして暮らしを支える取組みを7年間続けてきました。

 

 

◇専門領域を持たずに、目の前の人に必要なことに取り組む

住まいに不安や悩みを抱える本人だけでなく、民生委員や自治体等の地域の関係機関や支援者からも相談が悠々会に寄せられます。職員2名が“居住支援コーディネーター”としてまずは話を聞き、住まい探しから入居後の対応まで行っていきます。“住まい探し”という共通の入り口でも、相談者一人ひとりの状況は異なり、立ち退く部屋の大掃除や家具の購入をはじめ、公的支援や必要な関係機関につなぐなどその対応は多岐にわたります。現在90名近くが本事業を利用していて、年齢層は20代~90代と幅広く、それぞれが抱える課題も複合的であるといいます。こうした年齢や世帯構成、状況が異なる人の安心できる住まいを考える上で、悠々会の皆さんは「専門領域を持たないプライド」を大切にしていると繰り返します。

 

安心できる住まいを共に探すことに加え、「あんしん住宅事業」を通じて、相談者や入居者間のつながり、それから地域との接点が生まれることもめざしています。例えば、事業を利用している若者が高齢者にスマホの使い方を教える場を設けたり、子育て世帯や高齢者を子ども食堂に案内したりなどです。また、入居後は職員だけで対応するのではなく、「移動支援」や「フードバンク」などのボランティアグループを地域に形成し、入居者の安心した暮らしを協力して支えていきます。居住支援コーディネーターとして事業当初より関わる共生社会推進室室長の鯨井孝行さんは「自分たちがハブ機能としてどれだけ地域の支援者を募っていけるか、資源とつなげていけるかが求められる。日頃から地域にネットワークをつくっていくことが大切になる」と話します。

 

◇地域の住まいの支え手として

悠々会は「あんしん住宅事業」を運営するほか、町田市の「住まいの電話相談窓口」も担っています。緊急性の高い相談から、ちょっとした住まいの不安や悩みなど相談内容はさまざま。平均1日1件相談があり、全体の3割が事業につながり、そのほかは継続して話を聞くことや適切な機関を案内するなどの対応をしています。理事長の陶山慎治さんが「住まいの確保につなげることも重要だが、地域住民のさまざまな住まいに関する相談を日ごろから聞くことが大切」と強調するように、悠々会は入居者だけでなく、相談を通じて広く地域の住まいの“安心”を支えています。

 

カテゴリー化ができない、複合的な課題を抱える住宅確保要配慮者が地域で安心した住まいを確保し、暮らし続けていくために、居住支援法人であり社会福祉法人の立場として陶山さんは「住まいがあってはじめて、どう生きようかを考えられると思う。認知症になりつつある人が賃貸契約をすることも増えている。成年後見制度をはじめ、種別を超えて社会福祉法人が居住支援に対して共に取り組んでいくことが必要」と話します。悠々会は一人ひとりが“あんしん”できる住まいに向け、専門領域を決めずに多様な取り組みを考え続けています。

 

左から

(社福)悠々会共生社会推進室室長 鯨井 孝行さん

             理事長 陶山 慎治さん

    居住支援コーディネーター 西島 麻里さん

取材先
名称
株式会社R65不動産、社会福祉法人 悠々会
概要
株式会社R65
https://r65.info/

社会福祉法人悠々会
http://www.yuyuen.com/
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