東京都災害福祉広域支援ネットワーク、東京都社会福祉協議会
災害時要配慮者支援の取組みをさらに充実させるために―福祉施設・福祉避難所等への専門職派遣―
掲載日:2023年12月11日
2023年12月号 NOW

あらまし

  • 東社協では、大規模災害発生時の災害時要配慮者支援体制を構築するため、行政や福祉施設、職能団体と協働し「東京都災害福祉広域支援ネットワーク」の活動を推進しています。今号では、2023年から新たに取り組んでいる東京都災害派遣福祉チーム(東京DWAT)の育成についてお伝えします。

 

東京における災害時要配慮者支援

東社協では、2016年度から東京都の委託事業として「東京都災害福祉広域支援ネットワーク(以下、ネットワーク)」の構築・活動推進に取り組んできました。このネットワークは、大規模災害時に要配慮者の福祉ニーズに的確に対応するため、平時から東京都福祉局や区市町村、東社協、区市町村社協、東社協施設部会、福祉専門職の職能団体が連携して、災害時の活動体制構築に向けた取組みを推進し、災害対策の強化を図ることをめざしています。

 

16年に東社協が区市町村を対象に実施した調査から、大都市東京の特性として、施設に入所せず、在宅サービスを利用しながら地域で生活する要配慮者が多い一方で、福祉施設では入所施設の災害時の受け皿に限りがあり、職員参集や人的体制の確保にも課題があることが分かりました。こうした課題に対応するため、ネットワークでは都との協定に基づき、発災後に福祉専門職の応援派遣を行うほか、「東京都災害福祉広域調整センター」を設置し広域調整を実施することとしています。特に応援派遣については、福祉施設や福祉避難所への派遣を想定し、セミナーや訓練等を行ってきました。

 

 

 

 

全国ですすむDWATの組織化

一方、国においても災害時要配慮者支援について検討が重ねられていました。18年5月には、災害関連死等の二次被害を防止する観点から、厚生労働省が「災害時の福祉支援体制の整備に向けたガイドライン」を公表し、官民協働ネットワークの構築と災害派遣福祉チーム(DWAT(※))立ち上げの考え方が示されました。

 

DWATは都道府県単位で組織される公的なチームで、所定の研修を修了した福祉施設職員や福祉専門職等で構成されます。避難所や社会福祉施設に派遣され、災害時要配慮者への福祉支援を行うとともに、医師や保健師等と連携し要配慮者へ切れ目のない支援を行います。16年の熊本地震の際には、すでに他県のDWATが支援活動を行っていました。

 

このような国や他自治体の動向等をふまえ、東京都においても全国的なスキームに乗ることで大規模災害時の受援体制(他地域からの支援を受け入れる体制)整備につながることから、22年度に東京都災害派遣福祉チーム(東京DWAT)立ち上げに向けた動きが始まりました。そして、全国的な動きに合わせて、これまでの派遣先の福祉避難所・福祉施設に一般避難所を加える形で、災害時の応援職員の登録制度と研修制度を構築し、23年度から登録研修を開始しています。

 

東京DWATチーム員登録研修会

23年10月に開催された「令和5年度東京都災害派遣福祉チーム員登録研修会」には、職能団体の構成員を含む約70名が参加。講義や事例報告、グループディスカッションを通して、災害時の福祉支援に必要な基本的な知識を学びました。講義を担当したオフィス園崎代表の園崎秀治さんからは、「被災地における福祉支援の必要性と支援するにあたっての基本」として、被災地外からの支援の必要性や、コロナ禍における被災者支援の変化等について解説がありました。特に、被災者支援にあたって支援者が欠くことのできない三原則「被災者中心・地元主体・協働」について、被災地の担当者が置かれた状況や現場で発生した事例等を交えて、丁寧に伝えられました。

 

事例報告では、被災地の福祉施設への派遣経験のある職員から当時の状況や支援者のメンタルケアの重要性について発表されたほか、21年の熱海市土砂災害時に活動した静岡DWAT事務局から、支援の実際の様子や平時の取組みについて報告があり、具体的な活動内容の把握につながりました。

 

グループワークでは施設種別を超えた意見交換が活発に行われ、「相談員は派遣先で何ができるのか分からなかったが、他の参加者からニーズを形にすることができると言われ、自分の中であいまいだった考えが明確になった」などの気づきが共有されました。

 

東京DWATチーム員登録研修会の様子

 

さらなる周知と取組みの推進を

研修を終えて園崎さんは、「東京にDWATができたことは被災者支援に関わる専門職が増える歓迎すべきこと。しくみは最初から完璧をめざす必要はなく、チーム員の力を合わせて1つでも2つでも派遣できるところから取り組むことに意義がある」と強調します。

 

今回の研修プログラムは、ネットワークの推進委員会内に設けた研修委員会が企画しました。事務局主導ですすめる地域もありますが、東京では先行地域のヒアリング等をふまえ、施設職員や職能団体を主要メンバーとして研修企画や研修体系等の構築を行っていきます。また、発災時を想定したシミュレーション訓練を通じて、DWAT派遣の流れを確認し、結果を今後のDWATの運営に反映させていくことを構想しています。

 

ネットワークでは年2回の登録研修を行い、チーム員を増やしていきます。また、24年度からはフォローアップ研修を予定しており、チーム員の資質向上や連携強化をめざします。

 

これまで被災地で活動する専門職チームは、医療・保健分野を中心にすすめられてきました。その中でDWATは最後発であるため、すでに取組みを始めている他県でさえ知名度が低いのが現状だといいます。ネットワークでは他分野の専門職はもちろん、職員の登録・派遣を行う福祉施設に対しても、意義や役割を継続して周知していくことを検討しています。

 

過去に実施された福祉職による被災地支援活動やDWAT先行地域のヒアリングから、被災地支援に携わった職員は、さまざまな経験を得て大きく成長して帰ってくるといいます。また他分野・他職種の職員と被災地支援をテーマに共に学ぶことも、職員の資質向上につながると考えられます。研修の受講や登録制度への参加、また平時の活動について、福祉分野の従事者が連携・協働し、大規模災害への備えを着実にすすめていくことが求められています。

(※)災害派遣福祉チーム…DWAT(ディーワット):Disaster Welfare Assistance Teamの略。大規模災害時に、要配慮者の福祉ニーズに的確に対応し、必要な福祉的支援を行う、福祉専門職(社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士、看護師、理学療法士等)で構成されるチーム

 

取材先
名称
東京都災害福祉広域支援ネットワーク、東京都社会福祉協議会
住所
東京都災害福祉広域支援ネットワーク
https://www.tcsw.tvac.or.jp/activity/saigaifukushinetwork.html

東京都社会福祉協議会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/index.html
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