あらまし
- 地域には国籍を問わずさまざまな住民が暮らしており、また、多様な団体や個人が活動をしています。“外国籍住民の暮らしの中での困りごと”をきっかけに、地域住民と団体や保育園、学校など多岐にわたる機関がつながり、地域での生活を支え合う場「TOMONI」の発足に至った北区桐ケ丘地区を取材しました。
北区桐ケ丘地区の地域課題の把握と共有
「TOMONI」は、2023年5月に北区桐ケ丘地区で発足した地域での暮らしを支え合い、交流する場です。ここでは、学校や自治体から届く日本語で書かれた手紙の内容が分からない時に気軽に聞くこともできます。北区社会福祉協議会のコミュニティソーシャルワーカー(CSW)で桐ケ丘地区を担当している野呂尚暉さんは、立ち上げの段階から関わっているメンバーの一人です。
野呂さんと、桐ケ丘地区を一緒に担当している地域活動推進員(※1)の板谷奈緒美さんは、外国人が地域の公園で集まっている様子を見かけたり、地域に住む外国籍の人に個別に関わる機会がありました。そこでは「学校がハラル食(※2)に対応しておらず、毎日のお弁当づくりが大変」といった困りごとを聞きました。また、児童館館長からは「お母さん同士のコミュニティはあるが地域とはつながっていないようだ」という話を、都営桐ケ丘団地の自治会長からは「バングラデシュの人が団地で号棟長をしている」といった話を聞くことがありました。
そこで、地域の状況をより詳しく把握するため、22年9月に、児童館館長と団地の号棟長を務めているというカシェムアブルさんのほか、地域で子ども食堂を開いている人に、普段の生活の中で感じていることなどをヒアリングすることにしました(図参照)。
さらに情報収集を続ける中で、社会福祉法人つぼみ会が運営する認可保育園「LIFESCHOOL桐ケ丘こどものもり」がハラル食に対応していることを知り、野呂さんは園長の赤倉健さんとつながることができました。
LIFESCHOOL桐ケ丘こどものもりでは外国籍、特にムスリムの園児が増えてきていました。そのような状況の中で、「子どもたち一人ひとりを大切にする」という法人理念に基づき、イスラム文化やハラル食への理解を深めるとともに、安心して給食が提供できるよう、ハラル認証の取得に至りました。
また、園児やその家族に向けた支援だけでなく、国籍問わず誰もが暮らしやすい地域づくりに貢献したいという思いもあり、この思いが後の「TOMONI」につながりました。赤倉さんは「北区社協の野呂さんと出会って、地域のさまざまな団体や人とつながることができ、日々感じている課題を共有できるようになった」と話します。つぼみ会理事長の中嶋雄一郎さんは、「地域の社会福祉法人として、困りごとを抱えている目の前の一人ひとりに寄り添い、解決していくことを大切にしている。このことは私たち職員自身の成長にもつながっていると感じている」と言います。
立ち上げから実際の活動が始まるまで
22年12月ごろから、これまでのヒアリングで把握した地域課題を共有することを目的に、つぼみ会を交え、共有の場が開催されるようになりました。野呂さんは「CSWは、個別に把握した困りごとを地域のニーズとして捉え、地域課題を住民自身が解決できるようにするための新たなしくみやサービス、ネットワークなどの社会資源開発の援助をする。そのため、この地域課題も地域住民の方々と共有し、みんなで考えることができればと思った」と話します。この場が「TOMONI」立ち上げのきっかけです。開催にあたっては、ヒアリングで話を聞いたカシェムさんをはじめ、民生委員や地域で活動する団体、同じ北区にある東洋大学の先生や学生、日本語学校の教師、弁護士など、多岐にわたる分野の人からの参加がありました。地域課題についてはもちろん、それぞれが普段どのような活動をしているのかお互いのことを知り、生活の中での困りごとや思いを共有できる場となりました。共有の機会や立ち上げの段階での関わり方について、野呂さんは「関わっている人同士がコミュニケーションをとり、お互いを知ることができるように意識した。その上で、桐ケ丘地区にはどんな地域課題があるのか、この活動では何をめざすのか、みんなで共通認識を持つことを大切にしていた」と振り返ります。
地域課題の共有の場を重ね、「TOMONI」を立ち上げることが決まりました。名称には「〝暮らしやすさ〟や〝共生〟をめざす」という思いが込められています。23年5月に1回目を実施し、以降は毎月第4日曜日に活動しています。1回目は参加者同士の交流の時間を中心に、2回目以降は手紙の内容を相談するブースや日本語が学べるブースなどに分けたり、ハラル食を体験できるBBQを行ったりと、参加者からの声を反映し、毎回工夫をしながら交流を深めています。立ち上げから関わっているカシェムさんは「イスラム文化や食事などをみんなに知ってもらいたい。私たちも同じ地域の住民としてコミュニケーションをとりたいと心から思っていて、今みんなで頑張っている。TOMONIのような活動が桐ケ丘から広がってくれたら嬉しい」と、思いを話します。
1回目の「TOMONI」の様子。交流を楽しんだり、少し離れた
ところでは学生ボランティアと子どもたちが遊ぶ様子も
地域に溶け込めるような場所をめざして
毎月「TOMONI」を開催することで、同じ地域に暮らしていても関わる機会が少なかった外国籍の人の顔が見えてきたり、活動団体同士の新しいつながりができたりと、広がりが生まれてきました。赤倉さんも「この活動を通じて、多くの人や団体と知り合えた。TOMONIがハブとなり、施設や団体同士のつながりができ、地域に溶け込んでいけたら良い。制度や社会全体が変わっていくには時間がかかるが、地域のつながりの中で必要な人に必要な支援が行き届くようになると良い」と言います。
その一方で、多岐にわたる分野の人が関わってすすめているので、振り返りや意見交換の機会を頻繁に設けることの難しさもあります。野呂さんは「交流や手紙支援を通じて『ハラル食のことや文化について学校に理解してほしい』といった要望も聞かれている。今後、このようなことについても関係者みんなで考える時間があっても良いかもしれない」と感じています。そして「新しい活動を増やしたいというよりは、今ある活動の幅が半歩でも広がったら良いと思っている。例えば、編み物サロンの活動をしている人たちがTOMONIを知り、『新しいことは始められないけど編み物なら一緒にできるよ』などと声をかけてくれたら嬉しい」と、地域に対しての思いを語ります。
桐ケ丘地区では、住民をはじめ地域のさまざまな団体と地域課題を共有したことで「みんなで暮らしやすい地域をつくる」という思いやつながりが生まれました。地域共生社会の実現に向けた取組みの広がりが今後も期待されます。
(※1)地域活動推進員:北区社協において、CSWと一緒に地区を担当する職員。社会福祉士などの資格は持たず、より住民に近い目線で地域に関わっている
(※2)ハラル食:「ハラル」はイスラム教の教えにおいて「許されている」という意味のアラビア語。例えば、魚介類や野菜・果物などはハラル食にあたる。適切な処理が施されている肉類(牛肉や鶏肉等)も食べられるが、豚肉は禁じられている
https://kitashakyo.or.jp/
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社会福祉法人つぼみ会
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