(2)福祉包括化推進員と福祉包括化推進部会
豊島区は、令和2年度から実施している「福祉包括化推進事業」で、庁内関係部課の部課長で構成される「福祉包括化推進会議」と庁内関係部課の係長級で構成される「福祉包括化推進部会」を設置しました。福祉包括化推進部会の構成員は、「福祉包括化推進員」として関係部署に配置されています。福祉の相談窓口の庁内連携の必要性から設置され、「福祉包括化推進部会」はケース会議を行う場となっています。毎月1回開催されており、複数の機関が関係しているケースを共有して、お互いにアドバイスをし合います。各構成員に対して、区の自立促進担当(福祉包括化推進員)の兼務発令を出すことで、個人情報の取り扱いを担保しています。事例を共有するシートのフォーマットもあります。毎月提出するケースの数は決まっておらず、ケースがないときもあれば、複数提出されることもあります。
豊島区民社協からは、共生社会課長が「福祉包括化推進会議」の構成メンバーに、コミュニティソーシャルワーク担当チーフが「福祉包括化推進部会」の構成メンバーになっており、CSWの関わっているケースを出すことがあります。
《福祉包括化推進会議》
庁内関係部課の部課長で構成。支援体制のあり方、人材育成、社会資源の把握と充足、庁内連携の課題の整理について検討する会議。
《福祉包括化推進部会》
庁内関係部課の係長級で構成。支援プランの適切性の協議、支援提供者へのプランの共有、プラン終結時の評価を行う会議。必要に応じて支援会議も開催する。
令和2年度から庁内の関係部署と豊島区民社協に配置している「福祉包括化推進員」によって構成されており、それぞれが業務の中で抱えているケースを出し合って、支援の方向性やそれぞれの役割を相談する場となっている。
(3)豊島区の重層的支援体制整備事業の各事業の特徴
豊島区民社協は、重層的支援体制整備事業の5つの事業のうち、包括的相談支援事業、アウトリーチ等を通じた継続的支援事業、参加支援事業、地域づくりに向けた支援事業の4事業の受託、および多機関協働事業の一部受託をしています。それぞれ既存の事業を発展させて実施しているため、令和5年度の本格事業実施にあたっては、社協内の人員の増配置はありませんでした。
<包括的相談支援事業>
豊島区重層的支援体制整備事業実施計画では、高齢者総合相談センター(社会福祉法人等)、心身障害者福祉センター(区)、利用者支援事業(子育てインフォメーション、保育課、池袋保健所、長崎健康相談所)(区)、くらし・しごと相談支援センター(社協・NPO法人)を例示し、「断らない相談支援」の窓口として位置付けています。
豊島区では、平成27年度に本庁舎4階に福祉総合フロアを設置し、関係各課で相互に連携して対応していく体制を構築しました。令和2年度には、このフロアの関係各課職員と社協職員を福祉包括化推進員とし、包括的相談支援を行う分野横断的な体制をつくっています。
「断らない相談支援」の窓口の例示にCSWの事業は入っていませんが、分野横断的な体制をつくっても把握しきれない困りごとについては、日頃からCSWが対応しています。CSWは区民ひろばで「暮らしのなんでも相談会」を実施していますが、それ以外にも団地の集会所や商店街でも開催するなど、できるだけ多くの方を対象にした相談の場を提供しています。また、相談会ではなく、区民ひろばでのかかわりの中から相談につながることのほうが多く、CSWの日頃の取組みが包括的相談支援の一画を担っています。
<地域づくり事業(地域づくりに向けた支援事業)>
豊島区重層的支援体制整備事業実施計画では、地域づくり事業として、地域介護予防活動支援事業(区、社会福祉法人等)、生活支援体制整備事業(社会福祉法人等)、地域活動支援センター事業(区、社会福祉法人等)、地域子育て支援拠点事業(区、NPO法人)、生活困窮者支援等のための地域づくり事業(社協)を例示しています。豊島区民社協が関わる事業では、生活支援体制整備事業の生活支援コーディネーター、生活困窮者支援等のための地域づくり事業でCSWが配置されている「区民ひろば」が位置づけられています。
豊島区民社協では、ここに位置づけられている事業のほかにも、区民ミーティングや区民が地域で住民の異変等に気が付いて声をかけ、見守り活動を行う「地域福祉サポーター」の育成、圏域ごとのCSW通信をはじめとした地域活動の情報発信など、さまざまな地域づくり事業を実施してきました。地域福祉サポーター活動は、障害や難病の当事者でも登録できるので、お互いの理解にもつながります。地域活動の情報発信としては、活動の内容だけではなく、地域活動をしている人や団体の思いも取材した「ストーリー&マップ」も作りました。区民ミーティングでは、在住外国人支援の必要性について意見が出され、他団体と協力して始まった外国人支援「としまる(TOSHIMA Multicultural Support)」によるフードパントリーも行っています。豊島区民社協がこれまで実施してきた多くの事業が、重層的支援体制整備事業の地域づくり事業につながっています。
<参加支援事業>
豊島区重層的支援体制整備事業実施計画では、参加支援事業として、くらし・しごと相談支援センター(社協・NPO法人)、ひきこもり相談窓口(NPO法人)、コミュニティソーシャルワーク事業(社協)を例示しています。豊島区民社協は、生活困窮者自立相談支援事業やCSWの取組みを通して参加支援事業を行います。
社協にはボランティアセンターもあります。CSWが把握している圏域ごとの資源やつながりとは異なる、広い範囲での資源やつながりを持っており、福祉教育も実施しているので、連携することで参加支援事業の幅が広がることが期待できます。さらに、社協が事務局を担っている社会福祉法人のネットワークに働きかけ、社会福祉法人の力を活用することもできます。
<アウトリーチ等を通じた継続的支援事業>
社協のコミュニティソーシャルワーク事業を通して実施します。CSWは日頃から地域を拠点にしてアウトリーチをしていますので、豊島区民社協のCSWが取り組んでいることそのものと言えます。
<多機関協働事業>
区が直営と豊島区民社協の一部委託により実施しています。「福祉包括化推進会議」とその下部組織の「福祉包括化推進部会」が重層的支援会議の役割を果たします。重層的支援会議は、作成したプランの適切性やプラン終結時の評価、社会資源の把握と充足に向けた検討を行う会議として位置づけられています。
これまで「福祉包括化推進部会」は、毎月1回、情報交換をしながら進めてきました。今後は、重層的支援体制整備事業の会議に位置づけていくにあたり、重層的支援会議や支援会議のフローを作成し、出されたケースのプランを作成する流れをつくっていきます。
(4)今後の課題と感じていること
豊島区民社協では、コミュニティソーシャルワーク事業を中心に、くらし・しごと相談支援センター事業や生活支援体制整備事業において本事業を受託していますが、実施にあたって職員の増員はなく、受託前と同じ体制で事業を実施しています。既に、CSWを各エリアに複数配置できており、これまで社協が取り組んできた事業がベースになっていることから、CSWの事業を実施していく上ではすぐに増員が必要な状態ではありませんが、今後、本事業を実施することで業務量が増えることも考えられますので、適切な職員配置を維持することが求められます。
特に多機関協働事業については、これまで区が開催してきた「福祉包括化推進部会」を本事業の会議と位置付ける中で、社協に委託される可能性も出てきました。しかし、区内の各部署で開かれているさまざまなケース会議との整合性を図る必要があり、多機関協働事業における区と社協の役割の整理が求められています。今後、どのケースも多機関協働事業でCSWが対応することにならないように、それぞれの相談機関の役割を明確にする必要があります。そして、多機関協働事業につなぐケースの種類を決めておくとともに、厳格に決めすぎることで、現在、自由な形で開催されている「福祉包括化推進部会」にケースが出てこなくなることがないように、会議の進め方を工夫することも必要です。
また、以前から社協が取り組んできたことを発展させて実施するため、どこを本事業の実績としてカウントするのか調整が不十分な状態です。CSW事業で関わったケースが重層の各事業と一致するわけではないため、区と課題を共有し、実績の考え方を整理していく必要があります。
豊島区民社協内での職員の理解の促進もこれからです。共生社会課内では話をしていますが、権利擁護など他課との連携も必要な事業ですので、今後、社協内で本事業に対する共通認識を持てるようにしていくことが必要です。
https://toshima-shakyo.or.jp/index.html