(社福)いいたて福祉会
全村避難の中、事業継続の決断をした特養は~この場所にとどまることで利用者の命と笑顔を守りたい~
掲載日:2018年6月1日
ブックレット番号:7 事例番号:72
福島県/平成30年3月現在

  いいたてホームの選択は「ここに残る」。

全村計画的避難区域への指定により、いいたてホームも国から利用者・職員を合わせて252名の避難勧告を受けました。

「利用者の生命に関わる決断をしなければならない。でも、避難と言ってもどこに、どのように避難すればいいのか。利用者にとって避難することのリスクはないのか…。職員はどうするのか…。」

三瓶さんは、いいたてホームの今後について3つの選択肢から検討を行いました。3つの選択肢は以下のとおりです。

 

まず、一つめは、避難指示に従い、「仮設・同等の施設への避難」です。県外の旅館・保養所・体育館など、同規模の施設を改造し、施設全体で避難するというものでした。8月からは仮設特養が認められるようになりましたが(平成23年8月11日厚生労働省通知:「東日本大震災に係る社会福祉施設等災害復旧費の国庫補助について」)における厚生労働大臣が認める応急仮設施設整備の対象について)、この時点では認められていませんでした。また、旅館や保養所などでは国や県が認める施設の基準を満たすことは難しいことに加え、提案を受けた場所は静岡県伊東市であり、移動距離は約500kmにもなります。遠方への避難では同行できる職員数がかなり限られることが懸念されました。他に宮城県の保養施設が候補にあがりましたが、バリアフリーではありませんでした。

 

二つめは、避難指示に従い、「県内外の施設への分散避難」です。県の高齢福祉課との話し合いでは、2~10名程度に分かれ、埼玉県29か所の施設に避難するという計画でした。利用者は確実に施設へ避難することができますが、利用者がいなくなることで法人運営は不可能となり、職員の雇用継続はできなくなってしまいます。

 

三つめは、「避難をしない」という選択肢でした。利用者は避難せず、職員は避難先から通勤するというものです。利用者や職員の被ばく量を推計しても年間20m㏜を超える可能性は低く、利用者は長距離移動や環境の変化によるリスクを避けて、よく知っている職員から継続してケアを受けることができます。物流停滞や救急対応などの不安はありながらも、三瓶さんと職員は「避難しない」という選択肢を選び、何とか残れる対応ができればと、国へ村・議会とともに柔軟な対応をお願いしました。三瓶さんは、「利用者の命に関わる決断だった。これは利用者のことを第一に考えたとき、避難するリスクと避難しないリスクのそれぞれをふまえて出した答えだった」と話します。

 

5月17日、村内の9事業所は国から線量管理と健康管理等の義務づけのもと、継続操業が認められることになり、いいたてホームも安全管理のもと村内にとどまって事業を継続することが認められました。その後6月1日に施設、在宅介護支援事業所、保育所を残した在宅事業はすべて休止となりました。

職員へは「承諾書」をもって勤務継続の意思確認を行いました。職員は避難先から長距離を移動して通勤しなければなりません。冬には雪道の通勤も避けられません。家族との話し合いの中で、同意を得られずに去って行った職員もいました。

 

三瓶さんは、「3月31日に20名の職員が退職し、さらに6月に15名退職した。2年が経過した平成25年には、140名いた職員は約半分の71名に減った。本当にあっという間だった。職員は、利用者の支援か家族の生活かという判断をしなければならず、一人ひとりさまざまな葛藤や家族との話し合いがあっただろう。若い職員、子どもが幼い職員、妊娠中の職員などが退職していった。また、職員本人はここに残りたくても、家族から反対されたり、家族で遠方に避難することが決まって残ることができなかった職員もいた」と言います。

 

 

 

 

 

 

 

取材先
名称
(社福)いいたて福祉会
概要
(社福)いいたて福祉会
http://www.iitate-home.jp/
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