(社福)いいたて福祉会
全村避難の中、事業継続の決断をした特養は~この場所にとどまることで利用者の命と笑顔を守りたい~
掲載日:2018年6月1日
ブックレット番号:7 事例番号:72
福島県/平成30年3月現在

事業継続のための課題

 

 

帰村が可能になった今、いいたてホームや地域の高齢者福祉を取り巻く課題として大きく2点があります。

 

(1)人材確保に係る課題

まず、介護人材の不足があげられます。いいたてホームでは、職員の確保が難しいことから、130名の定員を70名に絞って運営しています。要介護者を受入れるには少なくともあと10名、そして職員の負担を軽減するためにはさらに多くの職員が必要です。三瓶さんは「帰村者も高齢者が多く、介護を担う人材としての期待はできない。ここ3年で5名が退職し、受入れ人数を増やす見通しも立てられない状況。また、震災前は30代だった職員の平均年齢は今50代になっており、今後さらに退職者が増えるだろう」と言います。

 

震災後に採用した職員はすでに8~9割が退職しました。現在も残っているのは8名です。「早い人は一週間で辞めてしまう」と三瓶さんは言います。応募してきた人には、面接時に三瓶さんが通勤の厳しさや大変さを正直に伝えるようにしています。

雪道の運転や住居のことを話すと、「考えさせてください」と辞退されてしまうこともあります。

 

求人や情報の提供を幅広く行うようにし、ハローワーク、新聞への折り込み、ホームページや就職フェアへの参加など、できることには手を尽くしてきました。しかしなかなか人が集まりません。また、新しく入職する若い職員が少なくなっていることは、他の職員にとっても「職員を育てる」というやりがいが失われてモチベーションの低下につながってきています。

 

ここまで頑張ってきたものの、長距離・長時間の通勤を続けてきた職員に疲れがみえてきていることは確かです。職員の退職があるたびに、「いつまで施設が運営できるのだろうか」「法人の方針は分かるが、現実的に法人の継続は困難になるのではないか」と職員の間にも不安感が出てきています。避難先で生活圏が固まりつつあり、あとはいつ避難先に定着するかのタイミングに悩んでいるという人もいます。また、子どもがいる職員をはじめ、飯舘村出身であることを隠したり、他所で肩身の狭い思いをしていたりと、風評被害にあっている人がいます。家族に「勤め先はどこにでもあるので早く辞めてほしい」と言われ悩んでいる人もいるといいます。

 

 

原発事故の補償として東京電力(株)から避難先で再就職した者に補償金が支払われましたが、いいたてホームの職員は、再就職ではなく勤務の継続になるため、その対象にはなれませんでした。それについて三瓶さんは、「退職し再就職した者に特別な努力があったと認められ、家族を犠牲にしながらもここに残り勤務を継続している者に対し補償がないことは、まじめに働いてきた者が報われていない感が強く不満に思っている職員も少なくない」と指摘します。

 

 

(2)財政面の課題

いいたてホームでは、平成25年12月にショートステイ10床分を特養に転換し(短期事業を廃止)、翌平成26年2月には通所介護、訪問介護、訪問入浴介護について事業休止届を出し、介護報酬改定と人員不足に伴って、併設の従来型60床を休止、ユニット型70床のみ認可を受けました。利用者には、費用がかさむものの施設の運営継続のために多床室からユニットに移ってもらうようにしました。

また、法人の財政面をみると、人件費の支出が最も多くなっている一方で、それを支える収入は東京電力(株)から支払われる賠償金に頼らざるを得ない状況です。

しかし原発の損害賠償は平成27年2月に切れ、平成30年度以降に補償が続かない場合は、それ以降約2億円の赤字となり、運営も困難な状況になることが考えられます。

 

取材先
名称
(社福)いいたて福祉会
概要
(社福)いいたて福祉会
http://www.iitate-home.jp/
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