特別養護老人ホームつきみの園、特別養護老人ホーム栄光の杜
次世代リーダーを育てる③~福祉人材の確保・育成・定着に向けた取組み
掲載日:2024年3月8日
2024年3月号 連載

あらまし

  • 2022年度に東社協が実施した福祉人材の確保・育成・定着に関する調査では、多くの福祉職場で、主任やリーダー層の人材育成に問題意識を持っている現状が明らかになりました。この結果から、東社協では、主任やリーダー層の育成に取り組んでいる施設・事業所へのヒアリングを行い、冊子としてまとめ、取組み事例を広く発信することを予定しています。本連載では、冊子の内容の一部を先行してご紹介します。

 

事例1 密なコミュニケーションを大切に、広い視野で施設全体を考えられる職員を育てる
~特別養護老人ホームつきみの園

◆さまざまな工夫でコミュニケーションの時間を確保

つきみの園は、(社福)東京聖労院が運営する特別養護老人ホームで、2000年に小金井市に設立されました。居宅介護サービス事業所を併設し、小金井市より地域包括支援センターを受託しています。日々利用者へのケアにあたっている現場職員を一般職、係長や主任など、各現場の業務調整を担う職層を指導職、指導職を取りまとめる職層を管理職(課長・部長・施設長)としています。

 

さらに職員数の多い特養では、一般職の中に「リーダー」をつくり、指導職と一般職をつなぐ役割を担っています。以前は、指導職が中心となって施設全体や日々の業務のことを考える体制だったのが、リーダーという役割をつくったことで一般職中心に業務を考えていく体制に変化していきました。10年以上前からこの形を取り入れ、フロアミーティングなどをリーダーが行い、一般職からの意見をすくい上げるしくみができています。生活課課長の三浦成雄さんは「リーダーを経験することで、フロア全体を見られるようになり、現在は管理職についていたり、主任の立場で頑張っている職員もいる。一方で、さまざまな視点から物事を考え、判断しなければならない時もあるため、負担感もある。希望者や担い手が少なくなっているのが現状」と課題にも触れます。

 

フロアミーティング以外にも、さまざまなミーティングがあります。毎日行う短時間のものから、主任以上の介護職員による主任係長会議や多職種連携のためのチームケア会議など、コミュニケーションの場を多く設け、情報共有や業務改善の検討をしています。そのほか、人事考課制度による面談の時間も大切にしています。施設長の榎本光宏さんは「日々の仕事の中で一人ひとりとじっくり話をするのはどうしても難しい。そのため、必ず直近の上長と面談する時間を意識して設定している」と話します。

 

ミーティングや面談でのコミュニケーションを大切にするつきみの園。シフト勤務体制でもその時間を確保していくために、三浦さんは業務のスリム化の必要性を挙げ、「より効率的な業務のすすめ方を日々検討している。ただ、感染症対策や社会の状況の変化によって継続が難しいこともあるので、一度改善したら終わりではなく、取り組み続けなければならない」と話します。ICTの導入もその一環であり、榎本さんは「ICTを取り入れると人員削減の話になりがちだが、本来は職員間や利用者との時間をつくるためのものではないか」と言います。

 

◆職員一人ひとりが主体的に動き、チームワークの質を向上

日頃からコミュニケーションをとれていることが、チームワークの発揮にも影響してきます。主任の野口泰男さんは「チームで仕事をするので、業務について伝えるべきことははっきりと伝えられ、分からないことを聞きやすい関係性が大切。主任として的確な判断をすることで、利用者も職員も安心して負担のない1日が過ごせればと思っている」と話します。

 

そして、看護師や栄養士など多職種間の連携も必要不可欠です。「お互いの専門性を理解し、認め合い尊重し合う。広い視点で全体のことを考えられる職員が増えれば、施設全体のチームワークの質も高まると考えている」と、榎本さんは言います。

 

職員それぞれにケアに対する考えがあるように、利用者にも一人ひとり思いがあり、誰一人同じ人はいません。榎本さんは「職員一人ひとりが考えを巡らせ、行動できるような職場をこれからもめざしていきたい」と話します。事業の継続を見据えた時に、若い職員が活躍でき、その若手を引っ張る指導職の育成が大切だと考えるつきみの園は、これからもリーダー層を育成する取組みをすすめていきます。

 

 

(左から)生活課主任 野口泰男さん
施設長   榎本光宏さん
生活課課長 三浦成雄さん

 

事例2 リーダー層の育成を通して、職場全体でステップアップをしていく
~特別養護老人ホーム栄光の杜

◆職員育成の取組みを通して全員が成長する

(社福)ほうえい会が運営する栄光の杜は、1996年に設立された特別養護老人ホームです。数年ほど前に、介護現場の要を担う主任層の職員の離職が相次ぎ、新たな職員が入職しても、日常業務に関する最低限の指導しか行うことのできない状況でした。その当時に入職した職員も数年間経験を積んできて、後輩職員の育成も担ってほしいという介護係長の三瓶歩さんの思いから、23年度より「育成担当者」という役割を各フロアに2名ずつ設けました。2か月に1回、育成担当者が集まる「育成担当者会議」を実施しています。三瓶さんは「教えることでの学びもたくさんある。育成を任せっきりにするのではなく、育成の過程で悩んだことやぶつかった壁を共有し、成長していけるような勉強会の場をつくった」と話します。

 

こうした会議の場は、これまで育成の方法にばらつきがあったことや、共通認識を持って育成に取り組むことの必要性を再確認する機会となっています。三瓶さんは「育成担当者としての役割をつくり、これまで任せてこなかった育成の部分を任せたことで、仕事に対する意識や視点が変わってきた職員もいる。少しずつ変化が出てきている」と感じています。

 

始めたばかりの取組みで課題も多い中、施設長の三鴨香奈さんは「試行錯誤しながら取り組んでいる様子が伺える。今の私たちに必要な取組みだと職員から発案があったものは大切にし、支えていきたい」と語ります。会議の積み重ねによって、職員一人ひとりが自ら考えて行動できるようになっていったら良いと期待する三瓶さん。「フロアで起こった問題に気づき、解決に向かって何をすべきかを主体的に考えられる職員が多い組織になったら嬉しい」と話します。

 

◆ケアへの思いをつなぎ、自ら考えて動ける職員を育成する

「育成担当者会議」とは別に、「ケア検討委員会」にも取り組んでいます。目の前の業務を優先せざるを得なかった数年を経て、改めて入居者の生活に目を向け、どのように関わっていったら良いかを考えられる職員の育成を目的に設置した、ケース検討や話し合いができる場です。さまざまな年数の職員が集まるので、先輩の経験談やケアへの思いなどを伝えられる機会にもなっています。また、フロアや係で生じた問題に対して、どのように解決に向かって取り組んでいけば良いかなど、業務改善のノウハウなどを先輩職員から教えられる時間にもなっているといいます。三瓶さんは「こうしたら上手くいくということはなく、Aの方法が合わないならBにしてみようと考え続けるのが介護の仕事ではないか。職員が持つ〝引き出し〟を共有し、各職員が使える数を増やしていきたい」と言います。三鴨さんは「入居者は身体の状態や症状も違うし、生活歴も楽しいと感じるポイントもさまざま。一人ひとりをきちんと考えたケアができると、入居者も『栄光の杜』で良かったと感じられるし、職員も楽しく毎日の仕事に取り組めるのでは」と話します。

 

最後に、三瓶さんは、係長や統括といった現場に入る機会が徐々に少なくなる指導的立場を担う職員が入居者へのケアについて後輩に思いを伝えることの大切さについて触れました。「年数を重ねるにつれ、日々仕事で接する相手が対入居者ではなく対職員になっていく。高齢者への支援がしたいという気持ちで施設に就職する人が多い中、このような変化はジレンマを抱える部分ではないか。『栄光の杜でこんなケアがしたい』といった思いを伝えられ、安心して任せられる後輩を育成することが必要だと感じている」と話します。

 

栄光の杜は、入居者と職員一人ひとりの思いを大切に、これからも職場全体でステップアップしていきます。

 

(左から) 介護係長 三瓶歩さん
施設長  三鴨香奈さん

 

取材先
名称
特別養護老人ホームつきみの園、特別養護老人ホーム栄光の杜
概要
特別養護老人ホームつきみの園
https://www.seirouin.or.jp/tsukimi/

特別養護老人ホーム栄光の杜
https://www.eikounomori.or.jp/eikonomori/
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