御谷湯
人と環境にやさしい「福祉型家族風呂」 誰でも安心して利用できる銭湯をめざす ~御谷湯(みこくゆ)
掲載日:2024年3月12日
2024年3月号 み~つけた

片岡信さん

 

御谷湯は、1946年創業の墨田区にある銭湯です。黒みを帯びたお湯が特徴の、源泉かけ流しの黒湯温泉が楽しめます。創業者である初代は福島県から上京し、終戦直後で荒れ地だった墨田に銭湯を開業しました。創業から墨田区を代表する老舗の銭湯として地域に愛され続け、2015年にリニューアルオープンしました。リニューアルに至るまでの背景について、3代目の片岡信さんは「御谷湯を引き継いだ頃、建築法や消費税の税率が変わるタイミングでもあり、リニューアルを決めた。その時に、先代と大事にした想いが、『地域の人を助け、愛される浴場』だった。浴場として地域への貢献を考えた時、高齢者や障害を持つ方でも、いつでも安心して浴場を使ってほしいと思った」と話します。

 

もともと、先代は地域の障害者就労支援事業所と連携して浴場の清掃を依頼したり、各種ボランティアに参加したりと、福祉活動に熱心だったといいます。浴場の清掃は、今でも障害者就労支援事業所のスタッフが担当しています。また片岡さん自身も、かつて放課後等デイサービスの代表を務めていたこともあり、福祉への関心は大いにありました。高齢者や障害を持つ方でも気軽に利用できる銭湯として、墨田区内初の「福祉型家族風呂」を新設し、オールバリアフリーの銭湯としてリニューアルしました。

 

障害者も高齢者も気軽に楽しめる

今までの平屋造りから、5階建てのビルに建て替えをし、1階は入口と休憩場、3階は機械室、4~5階が浴室になっています。

 

リニューアルにあたり新設された「福祉型家族風呂」は、要支援または障害者手帳を持った方が対象で、介助する家族と合わせて4名まで入浴できる完全個室の貸し切り浴場です。総ひのきづくりの浴槽は2つあり、お湯はかけ流しの黒湯温泉を使用しています。洗い場には特注の回転イスを置き、介助しやすいつくりになっていて、浴槽には高さが調節できる板を施すなど、介助する方もされる方も人目を気にせず、ゆっくりと温泉が楽しめるようになっています。個室内にトイレも完備しています。

 

片岡さんは「放デイで勤務していた頃、子どもたちは介助されるところを見られたくない、人目を気にしてしまうこともあるんじゃないかと感じていて、そういう意味でも完全個室は有用だと感じる。『福祉型家族風呂』は、高校生から高齢者まで幅広い年代にご利用いただいている。都内だけでなく日本全国から、観光がてらフランスから来ていただいた方も。こういった福祉型の銭湯は、まさに求められているんだと実感している」と語ります。利用者から浴場で使える車いすの寄附や、要望や提案ももらうなど反響も大きく、利用者からの提案で、家族風呂で直接座って洗えるように特注で畳型のマットレスを作るなど、可能な限り意見や要望を取り入れて、少しずつマイナーチェンジをしています。

 

福祉型家族風呂は回転イスや高さを調整する板を完備

 

地域に愛され続ける銭湯をめざす

「福祉型家庭風呂」以外の浴場も、バリアフリー対応としてリニューアルしました。浴槽の縁を低くして入りやすくしたり、段差をなくし脱衣場や洗い場には手すりを付けたりと工夫がされています。片岡さんは、「特別なことは何もしていなくて、ちょっとした工夫やアイデアで、実は多くの方が使いやすくなったりすることがある。大きく構えずに、誰でも安心して利用できる銭湯とは何かを考えて続けていきたい」と言います。

 

また、雨水を屋上で貯め、トイレ洗浄や入口付近の植物に利用するなど、先代から福祉だけでなく環境にも配慮した銭湯経営にも力を入れてきました。これも先代の“地域に何が恩返しできるか”という思いを具現化したものだといいます。

 

片岡さんは「障害を持つ方たちは、遠方にはなかなか行けない。だからこそ、うちと同じような銭湯が地域の中にもっと増えたら嬉しい。人にも、環境にもやさしい、誰でも楽しめる銭湯として、これからも地域の皆さんに愛され続ける存在になっていきたい」と話します。

 

大浴場の浴槽は、縁を低く設計し入りやすくなっている

 

御谷湯 福祉型家族風呂(要予約制)

  • 営業:平日・土曜日、祝日 15:30-26:00(最終入場25:30)
  •    日曜日 15:00-24:00(最終入場23:30)
  • 利用料:90分1500円(1人あたり) 1日3組限定
  • 場所:墨田区石原3-30-10
  • 問合せ先:TEL 03-3623-1695
取材先
名称
御谷湯
概要
御谷湯
http://mikokuyu.com/
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