人見玲奈さん
自立援助ホームで前向きに生きる 子どもたちをもっと知ってほしい
掲載日:2024年3月15日
2024年3月号 くらし今ひと

 

人見玲奈さん

 

あらまし

  • クラウドファンディングで資金を募り、自立援助ホームを題材にした絵本制作を行う大学3年生の人見玲奈さんに、絵本づくりを目指したきっかけや想いを伺いました。

 

◆子どもの福祉に対して偏見や認知度の低さに葛藤する日々

大学進学を機に上京し、都内の私立大学で学んでいます。東京生活もようやく慣れてきて、趣味の料理や友達とのカフェ巡りを楽しんでいます。福祉に関心があり、現在は福祉社会研究ゼミで学んでいますが、入学当初から「たくさん勉強していい大学に入ればいい会社に入れる」といった能力主義や自己責任論を周囲から感じるようになりました。同時に、勉強なんてしている暇がない、生きるために働かなくてはいけない子どもたちへの偏見や理解がすすまない状況に、だんだんと「もやもや」がたまっていきました。

 

私自身、複雑な家庭環境で育ったので、親の後ろ盾がない状態で大学へ行き、入学当初からバイトをかけもちする日々が続きました。次第に学ぶことがおろそかになってしまい「生まれ育った環境が違っていたらこんな苦労はしなかったんじゃないか」と思うようになったのです。そこから「生まれ育った環境」に振り回される子どもに対してや、その子どもたちを支援する自立援助ホームに関心を向けるようになりました。そして、実際に現場で働くことで何かできるのではないかと思い、大学に在籍しながら千葉県にある自立援助ホームで働くことに決めました。

 

◆絵本づくりのきっかけとなる一人の男の子との出会い

働き始めた当初は、スタッフの中で自分が最年少だったのもあり、子どもたちとすぐに打ち解けたのですが、そこから信頼関係を築くまでに時間がかかりました。子どもたちへの自立援助は、友達関係ではなく信頼関係があって初めてスタートラインに立てます。もどかしい日々が続きましたが、子どもたちと接する機会を多くしたり、根気よく寄り添ったりしていくうち、子どもたちから自分の境遇や本当の気持ちを話してくれるようになったのです。

 

ある時、一人の男の子が自分の話をしてくれました。壮絶な生い立ちを経てホームに入居したのですが、「家族への想い」や「生きている意味」について悩んでいるようでした。同時に、自分の過去と向き合いながら、これからの人生を前向きに生きていこうとする姿に、「生きる強さ」や「たくましさ」を感じ、心を打たれました。ただ一方で、自立援助ホームで働いていることを周囲に話すと、どこか腫れ物に触る雰囲気があったり、「施設出身の子どもってかわいそう」といった偏見を感じたりすることもあり、それにも歯がゆさを感じていました。

 

この男の子がきっかけで、親からの支援もなく、自分の力で生きていこうとする子どもたちの姿をたくさんの人に知ってほしいと思うようになり、自立援助ホームをテーマにした絵本づくりを決意しました。「絵本」にした理由は、事前に知識がないどんな年齢層でも、絵があるので分かりやすいと思ったからです。勤務先の自立援助ホームのスタッフや周囲に相談しながら、約1年かけて構想を練り、制作費はクラウドファンディングで資金を募ることにしました。絵本のイラストをどんな方にお願いしようか悩んでいましたが、友達と偶然入ったカフェで自分のイメージにぴったりのイラストを描いている方を見つけたのです。さっそくお店の方に問い合わせ、イラストレーターの方と連絡を取り、イラストをお願いすることになりました。

 

◆誰もが自分で選択した道を生きられる世の中であってほしい

クラウドファンディングでは、開始から1週間ほどでファーストゴールの100万円を達成することができました。予想以上の早さで目標額に達することができて、驚きと同時にご支援くださった方々に感謝の気持ちでいっぱいです。始めは友人や恩師の方が支援してくれることが多かったのですが、直接関わりのない方から支援をいただいたり、クラウドファンディングを通じて偶然、人と人とがつながったり。本当に不思議なご縁がたくさんあり、クラウドファンディングの影響力を実感しているところです。

 

絵本制作を始めてから、全く違う境遇や立場の方たちが同じ方向を向いて一つのものをつくり上げることの面白さをひしひしと感じています。これから、絵本が色々な人の手に渡り、少しでも自立援助ホームのことを知ってもらえる機会が増えることに、ワクワクで胸がいっぱいです。

 

今はまだ、クラウドファンディングという形でしか想いを届ける手段がありません。子どもの福祉に関心がない人にも広く絵本を届けるためには、一般の流通経路に乗せ、書店に並ぶことを今後の目標にしていきたいです。

 

絵本制作活動を通じて改めて思うことは、厳しい境遇の中でも必要な支援を受けながらたくましく生きていこうとする子どもたちに、もっと目を向けてほしい。生まれた環境に制限されず、自分が選択した生き方を、誇りをもって誰もが生きられる、そんな社会になったらいいなと思っています。

 

絵本の内容の一部

 

 

 

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