東京都社会福祉協議会
新型コロナ特例貸付~貸付の記録と今後~
掲載日:2024年5月1日
2024年4月号 NOW

あらまし

  • 新型コロナ感染症が5類感染症になり、2024年5月で1年になります。コロナ禍の出来事が過去のものになり、人々の記憶から薄れつつある中で、東京都社会福祉協議会では、2年半にわたり実施した「新型コロナ特例貸付」に関する調査を実施しました。

 

2020年3月、新型コロナの感染拡大に伴い、「生活福祉資金貸付制度」の特例貸付が実施されることになりました。

 

生活福祉資金の歴史は古く、平常時の生活支援のほか、地震や豪雨による災害が発生した際に、特例貸付として被災者(世帯)に対する支援を実施してきました。現在も、2024年1月1日に発生した能登半島地震の被災者を対象に、特例貸付が行われています。

 

しかし、新型コロナによる特例貸付は、これまでの特例貸付とは異なっていました。全国の都道府県で一斉に実施されたこと。住民税非課税世帯は償還免除になり得ることが制度開始から広報されたこと。加えてコロナ禍が長く続いた結果、60万を超える申請を受け、貸付決定することになりました。

 

東社協では、この過去に類を見ない制度がどのように実施されたのか、 東社協および区市町村社協がどうやってこれを乗り切ったのか、どのような借受人、世帯が利用したのかなど、記録に残す必要があると考え、調査を行い、報告書にまとめることにしました。

申請数の推移

 

膨大な申請への対応

2020年3月25日の受付開始後、申請の第1ピークとなったのは4月~6月の3か月でした。この間、 東社協では局内応援を実施したほか、4月末からは東京都からの応援職員、派遣職員、アルバイトなどにより増員を図り、週7日体制を組んで対応しました。また、膨大な事務処理のための場所や機材の確保など、貸付をすすめるためのハード面を整える必要もあり、担当職員は制度運用や相談対応のほかにも、さまざまな事務に当たる必要がありました。

 

区市町村社協の当時の状況については、アンケート調査と、一部ヒアリングを実施して情報を収集しました。

 

その結果、多くの地区がピーク時には、応援職員や派遣職員の雇用などにより増員して対応していました。しかし、担当職員は窓口対応に加え、業務の指揮・切り出しなどの必要もあり、負担は少なくありませんでした。また、徐々に社協業務が平常に戻る中で迎えた、再貸付開始の第2ピークでは、応援が望めず、少ない担当職員で対応せざるを得なかった地区もありました。また、相談や業務スペース、書類保管場所の確保も、制度が長期化することで困難になるなど、内部調整が必要な場面が多くありました。

 

いずれの社協もさまざまな工夫をし、未曽有の事態に当たっていましたが、結果的に、職員はオーバーワークせざるを得ない状況だったことが分かりました。さらに、クレームなどの対応で疲弊し、体調を崩す職員も少なくありませんでした。

 

今後起こり得る首都直下地震などの災害は、長期間続いたコロナ禍とは異なると予想されますが、共通する状況も多いと考えられます。そのため、特例貸付の対応を、災害時に向けた事前調整や準備などに生かす必要があると認識しています。

 

借受人の実態と課題

区市町村窓口からの相談や申請書類により、特例貸付の借受人は、従来の生活福祉資金とは層が違うという印象がありました。それらのことが、貸付データやアンケート調査によって、明確になりました。

 

貸付データで目を引くのは、外国籍の借受人の存在です。外国籍の借受人は全体の約2割を占め、地区によっては4割に及んでいます。従来の資金に比べ、若年層(20代)の借受人が多いことも特徴的ですが、外国籍の借受人が割合を押し上げていたことも分かりました。この中には貸付をきっかけに、区市町村社協で関わりが持てるようになった世帯もありますが、在留資格の期限が短く、移動を繰り返す借受人も多く、償還期間中の支援の課題となっています。

 

アンケート調査で印象的だったことの一つは、コロナ前後の仕事の状況です。コロナ前後で雇用形態が変わった、と回答した借受人は、2023年7月現在で約3割が無職、約2割がパート・アルバイトと回答していました。

 

次に、特例貸付以外の借金を尋ねた項目です。アンケートでは、「月収20万円未満」「特例貸付を除く借金が100万円以上」「月の返済額が5万~10万円」と答える借受人が一定数見られました。貸付データからまとめた債務整理関連の結果でも、借り入れ前から多重債務状態であった借受人が多く存在したことが分かりました。

 

特例貸付は、要件に該当すれば償還免除になる可能性がありますが、特例貸付が、就労の不安定な人や多くの借金を抱える人にさらに最大で200万円、合計12年間の償還期間を課したということは事実です。

コロナ前後で雇用形態の変化「あり」と回答した人の現在の雇用形態

 

新型コロナ特例貸付が残したもの

新型コロナ特例貸付は前述のとおり、従来の制度だけでなく、これまでの特例貸付とも全く異なる制度でした。特に、コロナ禍に対応するために原則郵送で、迅速に貸付決定することを求められた結果、ほとんどの借受人に、個人として関わることができませんでした。「生活福祉資金貸付制度は相談支援前提の貸付である」という前提が崩れたことで、多くの職員が特例貸付を社協が担う意味を疑問に思いながら、粛々と遂行してきました。一人ひとり相談支援をしながら貸付することは事実上不可能でしたが、区市町村社協アンケートから、償還期間に入った現在、その影響を強く感じます。

 

しかし、特例貸付によって、社協の認知度が上がったことも、多くの職員が感じています。特例貸付をきっかけに、初めに相談する先として社協を頼るようになった人もいます。また、今までの社協活動では見えていなかった、外国人や若年者、生活困窮者の課題が顕在化したことも、制度を実施したことで得たものといえます。

 

特例貸付の申請期間が終了してから1年以上が経ち、今やコロナ禍についてほとんど語られなくなりました。しかし、特例貸付の担当では現在も、貸付を利用し、生活困窮状態が続く人からの相談を受け続けています。また、特例貸付により顕在化した地域の課題にどう取り組んでいくのか。今後再びコロナ禍のような事態が起こった際に、どうすべきなのかなど、多くの課題が残されています。

 

今回作成した報告書により、改めて特例貸付のことを思い出し、東社協をはじめ、それぞれの立場の今後の活動・検討に役立てられると良いと考えています。

取材先
名称
東京都社会福祉協議会
概要
東京都社会福祉協議会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/
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