東社協女性支援部会
なぜ「女性」支援なのか、社会へ問い続ける
掲載日:2024年7月8日
2024年6月号 NOW

あらまし

  • 2024年4月1日に「困難な問題を抱える女性の支援に関する法律(以下、新法)」が施行されました。旧売春防止法の「保護・更生」の視点から脱却し、「人権の尊重・擁護」や「福祉の増進」「男女平等」が基本理念として明確化されたほか、民間団体との協働等が示されています。
    女性支援の枠組みが大きく動いた今、 東社協女性支援部会※1の施設長の皆さんにこれまでを振り返りながら女性支援についてお聞きしました。
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  • ※1 東社協女性支援部会
    福祉施設や事業者による業種別部会の一つ。東京都内の女性自立支援施設5施設で構成され、新法が制定された2022年度までは「婦人保護部会」の名で活動

 

東社協女性支援部会
(社福)ベテスダ奉仕女母の家 いずみ寮 横田 千代子さん
(社福)慈愛会 慈愛jiai 熊谷 真弓さん
(社福)救世軍社会事業団 救世軍新生寮 熊田 栄一さん、室 孝子さん
(社福)恩賜財団 東京都同胞援護会 自立ホームいこい 田代 秀之さん

 

新法が施行されるまで、長きにわたり公的な女性支援(婦人保護事業)の根拠であった旧売春防止法。売春のおそれのある女性を「要保護女子」と称し、保護や更生を目的に1956 年に制定されました。この法律の背景には、戦後の国民の窮状、国による慰安所設置が大きく関係しています。横田さんは、幼少期に米兵と歩く女性の姿を目にした一人。後に女性支援に関わり色々な情報に触れる中で、当時の状況を理解していったといいます。「終戦後、占領軍による性暴力から日本の女性を守る名目で国が設置した慰安所。当時最も貧しくて、生きるのに必死だった女性たちがそこを求めていきました。貧困状態にあった日本、決して裕福でなかった私の母も子どもを養う母として、その手段を選んでいたかもしれません。そういう意味で日本が犯してきた売春問題はとても罪深いと感じました」と話します。

 

そんな横田さんの意識は、施設で「売春婦」と呼ばれた女性たちと出会い、支援する中で強くなり、後の婦人保護部会の取組みの原動力にもなっていきます。「今でいう困難な課題を抱える、または困難な状況に社会的に置かれてきた中で生きるしかなかった女性たちを目の前に、なぜこの女性たちが『売春婦』と呼ばれ、差別的な眼差しで見られなければいけないのかと思いました。利用者の置かれた状況と制度の乖離、そして売春防止法が生んだ独特な偏見と差別を目の当たりにして、女性支援の枠組みそのものに強い問題意識を抱くようになりました」と振り返ります。

 

一歩ずつ積み重ねてきたもの

旧売春防止法を根拠に設置されていた婦人保護施設は、新法制定を機に、「女性自立支援施設」になっています。都内全5つの女性自立支援施設で構成される「女性支援部会(以下、部会)」はこれまでは婦人保護部会として、旧売春防止法に基づく女性支援の限界や時代に即した女性支援の枠組みの必要性について、早期から社会へ発信し続けてきました。2004年からは3年間にわたり「婦人保護施設あり方検討会」を設け、都内における女性支援の実態を明らかにするほか、冊子にまとめて実態を広く周知するなど、女性をとりまく社会構造上の課題を社会化することをめざしています。その後も、実態調査を続けながら、都内や全国の女性支援を担う関係者との意見交換を積み重ねてきた当部会。女性支援関係者をつなぐハブ的な役割も担ってきました。

 

熊田さんはこうした取組みを振り返り、“部会”について次のように話します。「都内5施設が集まっていることがソーシャルアクションのうねりになっていました。今回の新法も取組みが実ったものであると思うし、支援現場から社会へ声を上げていくきっかけとして、部会の存在はとても大きかったと感じます。やっと女性福祉も社会福祉としての緒に就いた。支援現場の私たちがどれだけ具現化していけるかが問われています」。続けて、熊谷さんは「部会で積み重ねてきたことが少しずつ目にみえるかたちになってきたといえます。私たちは売春防止法ができる前から、社会福祉事業をやるためにできた法人。都内5施設しかないけれど、社会福祉法人として自負を持って女性支援に取り組んできました」と話します。

 

部会では支援現場の課題意識や実態をさまざまなかたちで発信

 

つながりを大切に、支援を考えていく

新法が定義する支援の対象は、「性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性その他の様々な事情により日常生活又は社会生活を円滑に営む上で困難な問題を抱える女性(そのおそれのある女性を含む)」。年齢や抱える課題、現在に至る背景も異なる女性一人ひとりと向き合い、最適な支援を考えることが女性支援施設には求められています。

 

そうした支援現場に一層大切なこととして、“支援力の養成”と“横のつながり”を施設長の皆さんは挙げます。田代さんは「目の前にいる利用者から日々学んでいく姿勢が職員のスキルアップにつながると思います。一方で、これまでどんな歴史や背景を経て、今の女性支援があるのかを職員に伝えていく必要があります。職員の育成において部会が欠かせません」と話します。また、女性たちの背景や抱える問題は女性支援を担う者だけでなく、他分野にもつながることであり、支援を考える上で 東社協児童・女性福祉連絡会※2をはじめとした関係機関との連携が今後も重要だといいます。

 

※2 東社協児童・女性福祉連絡会
児童・女性福祉に関連する 東社協5部会が参加し、直面する課題について情報を共有し、種別間の連携を図ることを目的としている

 

社会の一人として、女性支援を問い続ける

旧売春防止法が制定されてから68年の月日が経ち、動き出した「女性」に特化した新たな支援の枠組み。長い歳月において女性が差別され、その人権が軽視されてきた社会があり、今もなお、性暴力や雇用格差、経済的困窮をはじめとした、「女性」であることで困難な課題に陥りやすい状況が私たちの社会に存在しています。室さんは、近年「トー横」をはじめとした若者が巻き込まれる性被害の増加に触れながら、「新法は、社会で起きていることを自分事として捉え、女性支援を考えていくことを私たちに求めているように思います。今の社会において、なぜ『女性』に対する支援が必要なのか。私たちは考え続け、社会へ伝えることが問われているのではないでしょうか」と繰り返します。

 

これまで女性支援の新たな枠組みの必要性を発信し続けてきた部会ですが、2024年度は新法の学習会や関係者との意見交換会など、女性支援の歴史を振り返りながら、これからの女性支援のあり方を考える取組みを予定しています。長きにわたり支援現場から声を上げ続けた横田さんは、「私の入職時、40年前を思い出します。新たな法律ができたことを一番に伝えたいのは、旧売春防止法の保護・更生の名の下に置かれ、差別の色濃い時代、施設で一緒に過ごしてきた古き仲間の利用者の方々です。これからの女性支援に向けてこれまでを振り返る作業が必要ですし、新法が急に生まれたのではなく、歴史が積み重ねられてできたということを私たちは社会へ伝えていかなければなりません」と、新法への想いを話してくれました。

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2022年の新法設立時に女性支援部会(当時は婦人保護部会)へ取材した記事は以下からお読みいただけます。

女性支援法が成立〜なぜ今、「女性」支援が必要なのか

 

新法や事業の詳細は厚労省ホームページに掲載されています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/index_00023.html

 

取材先
名称
東社協女性支援部会
概要
東社協女性支援部会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/bukai/josei.html
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