明治大学専門職大学院法務研究科教授/ 日比谷南法律事務所パートナー弁護士 平田 厚さん
(1)本人の自己決定に即した過不足ない支援を/(2)福祉の原点に立ち返りつつ、新しい時代の人格尊重原理を
掲載日:2024年8月30日
2024年7・8月号 福祉職が語る

 

明治大学専門職大学院法務研究科教授/

日比谷南法律事務所パートナー弁護士 平田 厚さん

プロフィール

  • 1985年3月東京大学経済学部卒業、1990年4月第二東京弁護士会登録、2004年4月明治大学法科大学院専任教授就任、2012年3月日比谷南法律事務所設立。東京都社会福祉協議会における権利擁護センターすてっぷ専門相談員、地域福祉権利擁護事業の契約締結審査会委員長等を歴任。

 

(1)本人の自己決定に即した過不足ない支援を

「権利擁護センターすてっぷ」と社会福祉基礎構造改革

私は、東京都社会福祉協議会が1991年に設置した、認知症高齢者(設置当時は痴呆性高齢者)・知的障害者・精神障害者のための「権利擁護センターすてっぷ」(以下、「すてっぷ」)に、1994年から法律専門相談員として活動に携わりました。まだ社会福祉基礎構造改革前で、福祉サービスの提供が措置によって行われていた時代です。

 

すてっぷの法律専門相談員のメンバーには、さまざまな経歴の弁護士が集まっており、福祉に関わってきたそれぞれの背景も全く異なり、そのため自由な議論が可能だったと思っています。

 

すてっぷは、社会福祉基礎構造改革を受けて、2001年5月に発展的解消をすることになりました。本当に発展的だったのかと問われると少し躊躇せざるを得ないのですが、地域福祉権利擁護事業(日常生活自立支援事業)と苦情解決制度の運営適正化委員会がスタートすることによって、すてっぷの機能をこの2つの制度に組み入れていったことになります。

 

私は、厚生労働省においてそれらの制度を創設する委員会の委員となり、制度を構築するにあたって、できる限り、すてっぷでの経験を活かしたつもりです。その後も、介護保険における福祉サービス契約のモデル契約書策定や不動産担保型生活福祉資金貸付制度構築などにおいても、すてっぷでの経験を活かしていけるよう努力したつもりです。

 

すてっぷで学ばせてもらったこと

私がすてっぷで学ばせてもらったことは、措置のもとでの福祉においては、必ずしも福祉サービスの相手の人格が尊重されていないということでした。もちろん、特定の職員さんが相手の人格を大切なものとして尊重している姿は見ていました。しかし、相手の人格の尊重が、制度的に保障されていないことが問題だと感じていたわけです。

 

当時は、判断能力が低下して困った人は、助けてもらっているのだから、それ以上は高望みであって、軽々しく人格の尊重などと言ってはならないという雰囲気があったように思います。故意に侵害しているつもりはなくても、支援する側の余裕がなくなってしまうと、つい相手の人格を侵害するような態度や言葉遣いが出てしまうのだということです。

 

それとは別にすてっぷで感じたこととしては、その正反対に、判断能力が低下している人は、ヴァルネラブルでピュアな(従属的立場におかれた純粋な)人たちであり、保護しなければならないという誤解がありすぎるということでした。特に知的障害のある人たちについて、「ヴァルネラブルでピュアな人たち」だから守ってあげなければならないということに違和感を感じました。

 

知的障害のある人にもいろいろな人格の人がいるはずで、知的障害のある人だから常にピュアだというのは違うのではないかということです。私は、知的障害のある人がいろいろなことを経験させてもらえないまま成長させられたがゆえにピュアに見えてしまうのではないかと思います。

 

したがって、私は、極端に言えば、知的障害のある人が、とんでもない失敗をしたり、もっともらしい嘘をついたり、小ずるいことをしてしまったりすることもあるよう、その人の人格がそれぞれの人に合う形で成長できるよう支援することが大事なのではないかと思います。

 

権利擁護とは

私にとっての権利擁護とは、「人格の尊重という理念のもと、その人の法的諸権利につき、その人の自己決定に即して、過不足なく支援すること」と考えています。支援者にだけ都合のよい支援では意味がありません。本人にとっての人格の尊重こそが大事だということです。

 

そのため、最近は、愚行権の保障と支援付自己決定の尊重を重視すべきではないかと考えています。2022年9月に障害者権利条約の対日審査の総括所見が採択されました。そこでは、「代行決定制度の廃止」「意思決定支援制度の確立」などが指摘されています。代行決定制度をすべて廃止してよいかは問題ですが、そのような視点が重要でしょう。

 

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明治大学専門職大学院法務研究科教授/ 日比谷南法律事務所パートナー弁護士 平田 厚さん
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