(社福)広葉会 特別養護老人ホーム「リリー園」
地域の高齢者やその家族が安心して故郷で暮らし続けられるように、またあの場所で~避難指示を受けた特養の事業再開までの道のり~
掲載日:2018年6月29日
ブックレット番号:7 事例番号:76
福島県/平成30年3月現在

 

二次避難から仮設特養の検討、そして再開の決断

一次避難のときにいた29名の職員は、二次避難の頃には14名に減っていました。近くの避難所にいるものの1度も顔を見せなかった職員もいました。永山さんは、「ただ、来てくれた職員にありがとうと言うしかなかった」と話します。

他の施設へと引き継いだ二次避難先では44名の利用者が亡くなりました。ほとんどが避難した直後でした。普段施設で看取る2倍のはやさで利用者が亡くなっていきました。永山さんは、「避難の過酷さと環境の変化は、高齢者にとってかなりのストレスがあったのではないか」と指摘します。

 

「リリー園はこれからどうなる?」―みんなが不安でした。

郡内の特養は県内外での避難生活を送っていましたが、行政からの支援もあり、リリー園は主に公共用地で空いている土地を探して新しく仮設特養をつくってみようと考えました。しかし、候補の公用地は不整形であったり、仮設特養を建設するには大きな経費がかかり、それを賄う自主財源が必要だということが分かりました。永山さんは「広葉会は小さな社会福祉法人。断念するしかなかった」と話します。

 

平成25年5月、町では「楢葉町復興計画(第2次)」が策定されました。同年、「広葉会は、楢葉町と広野町の地域のためにつくった法人。できるなら、仮設ではなく前と同じ場所で再開したい」という永山さんの強い想いから、リリー園を再開するための検討が始まりました。

3年近い避難生活で、施設内は放電状態でした。それにより空調機能をはじめ、いたるところが壊れてかけていました。地震そのものによる被害というよりは、長く放置されていたことによる故障が目立ちました。そこで、まずは災害復旧費で建物の改修から始めることにしました。

しかし、再開をめざして動き出したものの、実際にいつ戻ることができるのか、具体的な見通しは立っていません。また、職員も減ってきていることから、再開規模は元の定員の半分である40名とすることにしました。これは楢葉町と広野町の特養利用希望者に対し不足している数でしたが、苦渋の決断でした。

 

平成26年3月、楢葉町では「楢葉町帰町計画」が策定されました。リリー園では、特殊浴槽などの大型物品の点検修理を行うとともに、施設内の清掃にとりかかりました。永山さんは「建物の中はとにかくぐちゃぐちゃ。外はジャングルのようだった」と言います。庭の草は伸びきり、人の背丈ほどになっていました。再開にあたり、利用者の肌に触れるものはすべて買い直さなければいけませんでした。しかし、現地で備品や消耗品を調達することは、まだまだ難しい状況でした。

 

長期間にわたる避難の間、誰の手も入らずすっかり伸びきった草木。

 

再開準備最終年次である平成27年。2つの問題に直面しました。

まず一つめは、避難が長期化し、復旧のめどが立たない施設の多くは職員を解雇する形をとっていましたが、リリー園は同じ場所での事業再開をめざし、職員を雇用し続けていました。しかし、就労不能損害賠償(※1)は平成27年2月に終了したため、翌月の3月から、リリー園再開の日まで職員を雇用し続けるためには、毎月の給与やボーナスを支給し続けなければなりませんでした。

永山さんは「東電にもかけあったが、結局平成27年の3月から平成28年の3月まで、職員に給与を支払い続けた。大変な出費だった。もし、職員を解雇すれば、職員は賠償をもらうことができたが、職員とリリー園のつながりはなくなってしまう。また、解雇は職員それぞれの退職金にも関わる。リリー園再開のために解雇はしない―。この決断がなければ今はないのだから、やむを得なかった」と話します。

 

二つめの課題は、再開にあたり、お願いしていた給食業者から「行けません」「ここではできません」と断られてしまったことです。その後、施設の食事提供実績のない民間業者に依頼しましたが「朝食の提供が大変だから」という理由で半年しかもたず、業者探しに苦労しました。新たな業者に依頼するも経費が高く、平成29年にはインターネットを使って公募してみましたが全く応募がなく、現在は特養での実績はないものの、民間企業への昼食提供をしていた団体にお願いしています。

 

食器なども含め、利用者の肌に直接触れるものはすべて買い替えなければならなかった。

 

 

 

  • (※1)就労不能損害賠償

  • 福島第一原発事故の影響で失業したり収入が減った住民に減収分を賠償するもの。事故発生時に生活の拠点または勤務先が避難指示区域内にあり、勤務先の廃業や長期避難などによって働くことが困難になった人が対象。

 

 

取材先
名称
(社福)広葉会 特別養護老人ホーム「リリー園」
概要
(社福)広葉会 特別養護老人ホーム「リリー園」
http://lily-en.com
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