NPO法人自殺対策支援センターライフリンク 副代表 根岸 親さん
あらまし
- G7で唯一、10代の死因第1位が「自殺」である日本。2023年は513人の小中高生の命が自殺によって失われています。若者がさまざまな理由で追い込まれたとき、それでも「生きていてもいい」と思える社会には何が必要なのか。今回は、SNS相談やWeb空間を通じて、子ども・若者の「消えたい」「死にたい」という声に向き合うNPO法人自殺対策支援センターライフリンク(以下、ライフリンク)に取材しました。
誰もが自殺に追い込まれることのない「生き心地の良い社会」の実現を目的に、2004年に設立されたライフリンク。当初は自殺対策の枠組みづくりに向けた取組みが中心でした。相談事業を始めるきっかけは、2017年の座間9人殺害事件。SNSに投稿された行き場のない若者の「声」が利用され、命が相次いで奪われました。SNSを通じて若者が犯罪に巻き込まれることやネット心中につながる前に、その「声」を受け止めることができないかと、2018年に厚生労働省が自殺対策として初めてSNS相談事業を開始した際に、ライフリンクも「生きづらびっと」を始めています。
SNSを入り口に、つながりを生かした「生きる支援」を
「生きづらびっと」には毎月1万人前後から相談が寄せられ、そのうち20代以下が過半数を占めます。虐待やいじめ、進路、家族、仕事など若者が相談に至る背景はそれぞれですが、8割以上が自殺念慮を抱え、相談の受け皿不足の現状や、相談をためらう気持ちも共通してみられるといいます。副代表の根岸親さんは「相談を受ける側として、相談者の『死にたい』『消えたい』という気持ちに向き合うことに躊躇しないことを意識しています。そうした気持ちを解消する立場ではなく、気持ちを抱くこと自体を受け止め、想像力を持ちながら対話することを大切にしています。やりとりを介して相談者が気持ちを表出したり、自らと向き合ったりする中で、結果として生きる道を選択することにつながっていれば」と想いを明かします。
一時的に“かくれる”という選択
2024年3月からは、SNS相談に加え、生きづらさを抱える子どもや若者に向けて新たなWeb空間「かくれてしまえばいいのです」が設けられました。その背景には、これまでの取組みでは行き届いていない層の存在や、限られた体制下ではSNSに寄せられる相談すべてに対応できていない実情があります。“かくれが”がコンセプトの空間は、しんどい気持ちを抱えながら、安心できる場に一時的に避難することで、「生きていてもいいのかも」と思ってもらえることを意図しています。自分の気持ちと向き合う、やり過ごすことにつながるようなコンテンツが用意され、24時間匿名・無料で利用できます。安心・安全な場であるために、あえて利用者同士が交流できない設計や利用者による投稿型のコンテンツは運営元のライフリンクが内容を確認した上で公開するなど、仕様や運営面でのリスク管理が図られ、毎日5万前後のアクセスがあります。8月に実施した 利用者向けの任意のアンケートでは、Web空間に隠れたいと感じる理由について、「誰かに相談したいけど、相談窓口につながらない」「相談したくても、相談することに抵抗感がある」「以前相談したけど、もう相談したくない」といった声が全体的に多いといい、今回空間を設けた背景である「相談につながらない(つながれない)」という人たちにとっての受け皿の一つになっています。これまでを振り返り、根岸さんは「今は大丈夫な人でも、ふとしたきっかけで追い込まれてしまう現代。広い層に知ってもらうきっかけづくりが大切になってきます」と話します。
絵本作家のヨシタケシンスケさんの協力により生み出されたWeb 空間
「かくれてしまえばいいのです」
https://kakurega.lifelink.or.jp
それぞれの「しんどさ」を受け止められる社会へ
地域にまだまだ若者の居場所は少なく、家庭や学校以外に接点を生み出しにくい状況があります。根岸さんは、“かくれが”のような場が色々なかたちで増えていく必要性を挙げながら、「子どもや若者自身、周辺の大人が、一人ひとりの『しんどさ』を比べることのない眼差しを持つことが大切です。そうすることで、早い段階で誰かに話せるなど、子どもや若者を取り巻く環境が変わってくるのではないでしょうか」と最後に話してくれました。「しんどい」気持ちを抱えながらも、生きる道を選択できる社会には、私たち一人ひとりのあり方が問われています。
https://lifelink.or.jp/
Web空間「かくれてしまえばいいのです」
https://kakurega.lifelink.or.jp/