あらまし
- 元旦の大地震から復旧・復興途上にあった石川県能登半島では、9月21日からの記録的豪雨により再び甚大な被害が起きました。8月には宮崎県日向灘の地震で初めて「南海トラフ地震臨時情報」が発表されるなど、2024年は災害への備えを強く意識する年となりました。
東京での発災を想定した取組みが求められる中、今号では、地域の最前線で活動する民生委員・児童委員による災害に備えた取組みの今を取り上げます。 - *民児協:民生委員・児童委員協議会の略
民生委員に期待される役割
東京の民生委員制度の原点は、1918(大正7)年の「救済委員」ですが、設置のきっかけは「大正6年の大津波」と呼ばれる高潮災害でした。被災した生活困窮世帯の実情調査や救済が目的で、その後も関東大震災をはじめ戦後のカスリーン台風やキティ台風等でも被災者支援に奔走するなど、これまでさまざまな災害と向き合ってきました。
災害対策基本法では、民生委員・児童委員(以下、民生委員)は「避難支援等関係者」の一員に位置づけられ、避難行動要支援者名簿(以下、名簿)の提供先となりました。内閣府と消防庁によると、名簿の作成状況は全国ですでに100%を達成。ただ、名簿の提供先に「民生委員」を挙げる都内の区市町村は90.3%に上るのに対し、自治会等への提供は低く、同様に、個別避難計画情報の提供先としても民生委員以外は5割台以下です(表)。
(表) 事前に名簿情報を提供する先/平常時から個別避難計画情報を提供する先
こうした状況は民生委員に負担が集中しかねず、委員が抱え込む恐れもあります。また、多くの地区で名簿掲載への同意取得に協力しており、それが「民生委員が避難支援に来てくれる」との誤解につながることも懸念されています。
災害に備える10か条
2011年の東日本大震災では安否確認や避難の呼びかけの活動中に56名の民生委員が犠牲になりました。2021年に九州地方を襲った豪雨災害では、「雨が怖いから来てほしい」との依頼に応じた委員が高齢者とともに亡くなったケースもあります。
全国民生委員児童委員連合会(全民児連)では、災害時における活動の考え方を「災害に備える民生委員・児童委員活動10か条」としてまとめています。「民生委員が助けに来てくれる」といった誤解を解消するためにも、今号では大きく3点を、地域住民を含む関係者の皆さんと共有したいと考えています。
*「災害に備える民生委員・児童委員活動10か条」(全民児連ホームページ内)
https://www2.shakyo.or.jp/zenminjiren/teigen/#link4
①自身と家族の安全確保が最優先
災害時の民生委員の役割は、自らの命をかけた救命・救助ではなく、被災後の長期的な生活再建に隣人として寄り添うことです。区市町村からの避難情報の発令有無によらず、安全に不安がある場面では活動しない。自身を守るためにも率先避難を心がける。この二つを基本としています。
②地域ぐるみの要援護者の支援体制づくりに協力
災害への備えは、民生委員等の一部の関係者だけが担うのではなく、地域全体の課題として、住民の安全に責務を有する区市町村をはじめ、地域住民を含む幅広い関係者が平時から力を合わせることが必要です。
③安全確保ができたら可能な範囲で要援護者支援に協力
発災後、活動上の安全が確保され、支援活動が可能となった際には、平常時に把握している情報をふまえて、支援が必要な人に適切に届くようつなぎ役を意識します。また、自身も被災者のため「民生委員だから頑張らなきゃ」と背負い込まず、無理のない活動を心がけることを大切にしています。
墨田区での地域連携の取組み
水害リスクをはじめ木造住宅密集地域などもある墨田区では、平常時からの地域連携に力を入れており、地域住民が災害時に助け合うしくみとして、町会や自治会の住民防災組織の中で要配慮者サポート隊(以下、サポート隊)を結成しています。
サポート隊の役割は、平常時は要配慮者個別避難支援プランの作成や防災訓練、災害時には避難誘導や生活支援などです。要配慮者情報の把握は、回覧板や口コミで行うサポート隊の周知に対して本人から申し出る方法と、民生委員が日頃の見守り活動で接する要配慮者に同意を取り、サポート隊へ情報共有する方法があります。
民生委員とサポート隊は連携し、要配慮者の安否確認や支援活動を行います。東日本大震災時には、区からの「65歳以上の高齢者の安否確認を」という要請に両者で協力して対応しました。民生委員だけでなく地域全体での要配慮者の把握を通じて支援の効率化を図っているそうです。
墨田区民児協としても、災害リスクや個人にできることを学び合う研修会を実施したり、円滑な初期対応のために全委員がA3サイズ1枚を折りたたんだ「災害時対応の心得」を携帯しています。地域住民ともに災害に対する意識を高め、地域で助け合うしくみを今後も広げていきたいとのことでした。
サポート隊による避難誘導訓練の様子
地域ぐるみの取組みに ~令和元年の台風をふまえ
令和元年は二つの大型台風が東京を直撃しました。
民生委員各々は気になる高齢者宅の訪問や電話による安否確認、避難所の運営協力など自主的に動いた一方で、組織的に活動を行った民児協は約3割に留まりました。また、多くの委員が、複数の対象者から「避難すべきか」「どこに避難すればよいか」などの相談を受けており、日頃の信頼関係が避難行動につながる非常に重要な存在になっていました。
この時、実際に「自力で避難できない方を誰が避難所まで送迎するか」という課題が表出。車椅子の利用者など、個々の状態に合わせた具体的な支援には、町会や自主防災組織といった近隣住民による支え合いの関係のみならず、社会福祉協議会や地域包括支援センター、介護サービス事業所、専門職等を含めた地域連携が必要です。災害という非常事態に効果的な支援を行えるよう、どの機関が誰を優先的に安否確認するのか、また「家にいたい」と避難を拒否されるケースなど、いざという時の対応について関係者間で話し合い、合意形成しておくことが求められます。
「暴風雨の中、見守り活動をすべきか判断に迷った」「家族から危険な時の活動について疑問が出た」など、民児協にも切実な声が寄せられました。民児協機能の早期回復はもとより活動方針の徹底、例えばさまざまな状況を想定した民生委員同士の連絡の取り方や委員一人ひとりの動き方など、民児協内で話し合いを重ね、災害時の活動方針および安全対策について、十分に理解しておくことが必須です。
避難に時間を要する人や災害情報をうまく受け取れない人などへの支援の実効性を高めるためには、こうした方々の特性に配慮した個別支援とともに、「地域ぐるみ」の防災・減災活動が欠かせません。地域においては、災害による直接的な被害や災害関連死を防ぐこと。民生委員においてはそのための協力に加え共助的な行動に伴う犠牲を出さないこと。何よりも地域が一丸となって取り組むことが大切になります。
被害を最小限に抑えられるように、そして被災された方々ができる限り安心と安全を確保し、日常に近い生活を取り戻し、その人らしい暮らしを送れるように、これからも地域の皆さんと一体となって取組みをすすめていきます。
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