東京都医療的ケア児支援センター、NPO法人ゆめのめ
医療的ケアの必要なすべての人が安心できる暮らしのために
掲載日:2025年2月5日
2025年1月号 NOW

あらまし

  • 「医療的ケア児支援法(※1)」が2021年9月に施行されてから約3年。医療的ケア児やその家族を取り巻く環境や支援体制はどのように変わってきたのか。今号では、2022年9月に開設された「東京都医療的ケア児支援センター」と、学校卒業後の居場所づくりに取り組む「NPO法人ゆめのめ」への取材を通して考えます。
  • (※1)「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の略称

 

 

日々相談を受け止め、地域づくりをサポートする
―東京都医療的ケア児支援センターの取組み

東京都医療的ケア児支援センターの相談員の皆さん
(左から)森越初美さん、岩﨑京子さん、小林杏子さん、川上咲さん

 

センターに寄せられている声

東京都医療的ケア児支援センターは、医療的ケア児支援法に基づき、2022年9月に区部と多摩地域に開設されました。医療的ケア児の家族からの問い合わせや、自治体や医療機関も含めた支援者からの相談を受けています。 

 

センター設置前は、医療的ケア児を育てる家族は、入園や就学、卒業後など生活が変わるタイミングごとに、自力で相談先を探していました。多摩地域相談員の小林杏子さんは「センターができたことにより、『どこに相談したらいいか分からない』という声を受け止める先が明確化されたことは設置の意義だと感じています」と話します。

 

2024年度にセンターに寄せられた相談件数は、区部で178件、多摩地域で164件。そのうち、区部では約半数が、多摩地区では約6割が、本人・家族に関する個別支援に向けた相談です。内容は「レスパイト先の情報を知りたい」「保育園の入園相談がうまくすすまない」「転居先の自治体の情報を教えてほしい」など、さまざまです。区部相談員の川上咲さんは「レスパイトや就園・就学時、卒業後など、医療的ケアがあることで受入れ先の選択肢が狭くなる課題は継続しています。ただ、以前よりも保育園などで医療的ケア児の受入れがすすむ中、『延長保育が利用できず困っている』など、受入れ後の次の課題も出てきているように感じています」と話します。

 

医療的ケアを知ってもらい、地域と一緒に考える

医療的ケア児支援法の施行によって、自治体での相談窓口の設置や、医療的ケア児等コーディネーター(※2)の配置もすすみ、「他区での取組みを知りたい」「医療的ケア児の受入れにあたり保育士や看護師向けの研修を案内してほしい」など、自治体からの相談も増えてきているといいます。

 

川上さんは「1人の医療的ケア児を受け入れるたびに経験が蓄積されていきます。財政状況や看護師の配置状況など自治体による違いはありますが、『できない』で終わるのではなく、『どうしたらできるようになるか』を自治体の担当者と一緒に考えていけたらいいと思っています」と言います。多摩地域相談員の森越初美さんも「医療的ケアについて分からないから受入れが怖いということもあると思います。自治体や地域と連携し、その地域での医療的ケア児と家族を支える基盤づくりのサポートをすることも私たちの役割なので、まずは医療的ケアを知ってもらうことから地道に取り組んでいます」と話します。

 

(※2)医療的ケア児等コーディネーター:医療的ケア児が必要とする保健、医療、福祉、教育等の他分野にまたがる支援の利用を調整し、総合的かつ包括的な支援の提供につなげるとともに、医療的ケア児に対する支援のための地域づくりを推進する役割を担う。相談支援専門員や保健師、看護師、自治体職員等が養成研修を受講する。

 

分野・領域の壁を越え、連携していく

医療的ケア児とその家族を取り巻く環境は少しずつ変わってきていますが、まだまだ多くの問題があります。医療的ケア児が成長し、成人を迎えた方の支援や、運動面での障害がない医療的ケア児に対する支援など、さまざまな制度の狭間の問題が生じています。

 

多摩地域相談員の岩﨑京子さんは「ほかにも、知的障害のある人が利用する障害者施設などでも医療的ケアが必要な人が増えています。医療的ケア児・者やその家族への支援は、医療・保育・障害などどこか一つの分野だけが頑張ればいいことではありません。センターや医療的ケア児等コーディネーターの認知度を高め、分野間の連携を深めるとともに、受入れへの不安を少しずつ取り除いていくことで、安心して暮らせる地域を増やしていけたらと思います」と、想いを話します。

 

 

 

卒業後も安心して通える居場所を
―NPO法人ゆめのめの取組み

        NPO法人ゆめのめの皆さん、前列右が大髙さん、後列右から2番目が平井さん

 

法人立ち上げの想い

NPO法人ゆめのめは日野市で、重症心身障害児・者および医療的ケア児・者を対象にサービスを提供しています。2019年に多機能型児童発達支援・放課後等デイサービス事業所の「デイケアルームフローラ」を、2022年には多機能型放課後等デイサービス・生活介護事業所の「日野坂CANPAS」を開設しました。


理事長の大髙美和さんは、ご自身も重症心身障害児を育てる親です。自分の子どもは保育園に預けることができましたが、同い年の医療的ケアがある子は入園できなかったという経験をし、大髙さんは「“こういう時代なのか”とショックでした。あの頃は、一種の罪悪感のようなものを抱きながら子どもを保育園に通わせていた気がします」と、振り返ります。


その後、障害児を育てる親のサークルに参加し、日野市内には医療的ケアが重い子どもが通うデイサービスはある一方、状態がさまざまな子たちが通える場所がないということを知りました。そして、ご縁やタイミングが重なり、NPO法人ゆめのめを設立。特別支援学校の先生や病院の看護師の方などの協力を得て、「デイケアルームフローラ」の開設に至りました。管理栄養士や調理師などの食支援の専門職を配置し、摂食嚥下障害のある子どもも食べられる給食を提供しているのが特徴です。

 

卒業後の居場所「日野坂CANPAS」の開設

開設してしばらくすると、大髙さんはもう一つの厳しい現実を目の当たりにします。「デイケアルームフローラ」に通う高校3年生の学校卒業後の居場所がない、すすむ先が選べないことです。大髙さんは「当時自分の子どもは小学生だったので、まだ先の話だと考えていましたが、こんなにすぐに行く場所がなくなることに絶望しました」と言います。特に、医療的ケアのある子は、看護師が常駐していないなどの理由で、高校卒業間近になっても日中の通いの場が決まっていないこともありました。これが強い動機となり、医療的ケアが必要でも卒業後も安心して過ごすことのできる定員5名の「日野坂CANPAS」を開設しました。開所時間は朝9時から夕方5時までです。

 

この頃は、生活介護事業所の開所時間が9,10時~14,15時までの場合が多かったと話す大髙さん。「保育園や学校、放課後等デイサービスに通って、親が正社員で働いていても、子どもが高校を卒業した途端に働き方を変えざるを得ず、自宅で親子だけで長い時間を過ごす生活に戻ってしまう。これが地域で安心して暮らすということなのか、疑問でした」と続けます。2022年当時は、小規模定員で長時間サービスを提供すると運営が苦しくなる制度設計でした。しかし、2024年度から、利用定員規模ごとに基本報酬が設定されたり、延長支援加算が見直されたりと、重症心身障害児や医療的ケア児の卒業後の居場所がなくなりやすいという課題が少しずつカバーされてきたと大髙さんは感じています。

 

「日野坂CANPAS」施設長の平井寛さんも卒業後の居場所について、「学校を卒業したらそれで終わりになってしまう。進路だけでなく、卒業後の生活をどうつくっていくかという視点で生徒一人ひとりと向き合い、次へバトンを渡すしくみでないといけない。教育分野だけではなく、関係機関が本人とともに将来の生活や望む暮らしを考えていく必要があります」と言います。

 

地域とのつながりをこれからも

「デイケアルームフローラ」の放課後等デイサービスでは家族支援として、社会福祉協議会や保育園、高齢者施設などさまざまな団体・人と地域交流の機会をつくっています。大髙さんは「小さいころから地域とつながって、子どもらしくみんなで育つ。ひっきりなしに地域の人がここを訪れる環境をつくることで、高校を卒業して『障害者』になった途端に地域とのつながりがなくなってしまわないよ、つながりを大事にこれからも楽しく取り組んでいきたいです」と、想いを話してくれました。

 

最後に平井さんは「年齢による壁に加え、障害の個別性による壁も大きいと思います。障害のある人の人生を区切って見るのではなく、一貫性を持って将来の生活を考えられるよう、また、それぞれの障害の状況に応じて、多分野が連携できる体制や制度のあり方がますます求められていくのではないでしょうか」と問いかけます。

取材先
名称
東京都医療的ケア児支援センター、NPO法人ゆめのめ
概要
東京都医療的ケア児支援センター
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/shougai/nichijo/s_shien/ikeajicenter

NPO法人ゆめのめ
https://www.yumenome.tokyo/
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