熊本県/平成30年3月現在
仮事業所で活動を再開
発災から約1か月半後の6月1日。第二城南学園は生活介護事業と自立(生活)訓練事業を敷地外の仮事業所に移しました。就労継続支援B型事業所と就労移行支援事業は元の敷地内に残し、2か所に分かれて事業を再開しました。移転先は閉店したドラッグストアを借り、机やいす、仕切りを運び込み、作業スペースや更衣室を設けました。新しいスタートが切れたことは、第二城南学園だけでなく、城南学園を含めた法人全体にとっても、一歩前にすすめたことを実感できるきっかけになりました。
井上さんは、施設から離れられない心理的負担について言及します。「状況確認や復旧助成金の判定などのため、被災した建物は9月までの5か月間、当時の状態から手をつけられないままだった。壊れた建物を眺めながら生活をするのは非常に辛かった。特に、建物が全壊した城南学園B棟担当の職員の気持ちの落ち込みは大きかった」と話します。
ただ、仮事業所でもさまざまな課題が見えてきました。仮事業所はワンフロアのため、仕切りを使用していても音や声は筒抜けになってしまいます。場面の切り替えや個室スペースの確保に難しさを感じました。元の敷地内で事業を再開した就労継続支援B型事業所と就労移行支援事業との間では、移動の大変さや情報のタイムラグなどが生じました。
他にも、就労継続支援B型事業所では、下請け会社の営業再開に時間がかかっていたため、しばらく作業が入ってこない状況が続いたり、グループホームでは個室のないストレスも見られました。
仮事業所は、施設の復旧が終了する平成29年3月末まで使用し、4月からは元の敷地内に戻っています。
仮事業所の様子
左:自立訓練 右:更衣室
心の支えになった「笑い」の時間
震災によって一変したのは、日常生活だけではありません。運動会やお楽しみ会、収穫祭などの年間行事ができなくなってしまったのは、利用者にも職員にも残念なことでした。生活環境の復旧がすすんでも、災害による心の傷が癒えるのには時間がかかります。井上さんは、「利用者は1年くらい経ったころに不安定になる人が多かったように感じる。自閉症の方が理由なく大きな声を出したり手を上げたりしたこともあり、フラッシュバックが起きていたのだと思う。『怖い』と言葉にしなくても、小さな揺れに敏感になったり、ふとしたきっかけで思い出してしまうことが分かる」と言います。そして、「それは職員も同じ。自分も被災して不安や困難を抱える中、『利用者の命を預かっている』という強い責任感で働いていた支援員は皆、ぎりぎりのところで立っていた」と話します。
心の復興を支えてくれたのは、地域や全国のボランティアです。生花教室やパントマイム、落語など、楽しく笑って過ごせる時間は、そのひと時だけでも震災のことをすべて忘れられる貴重な時間でした。「ある程度落ち着いたら、エンターテインメントも必要。次の日から『前向きにすすんでいこう』という気持ちへの糧になった」と、井上さんは伝えます。
「スマイルハートフェス in 慶信会」
地域の住民や避難者も参加する復興祭の開催
法人では、サッカー日本代表のサポーターをしているボランティアの人たちからの申し出をきっかけに、復興祭「スマイルハートフェス in 慶信会」を震災後に開催しはじめました。平成28年11月に第1回を開催し、平成29年11月までに計3回実施することにしました。全国のサッカークラブのサポーターが各地の名産品を持ち寄り、ステージには熊本県のマスコットキャラクター「くまモン」も登場しました。城南学園・第二城南学園の近隣にある仮設住宅の住民も招き、地域のみんなで楽しい時間を共有しています。「ボランティアには多くの方が来てくれて、いろいろな出会いがあった。私たちや被災地のために、本当に『何かやろう』と考えている方がたくさんいることを実感した」と井上さんは話します。
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