熊本県/平成30年3月現在
県や地方規模の広域ネットワークの重要性
設備に甚大な被害が発生した城南学園・第二城南学園ですが、第二城南学園の一部事業を仮事業所に一時的に移した以外、他の機能はすべて震災後も元の敷地内で事業を再開しています。施設全体を移転する話も出ましたが、検討の結果、見送っています。社会福祉法人慶信会事務局長の甲斐正法さんは、その理由について以下の点をあげます。
まず、城南学園の移転先の候補となった老人ホームの場所が、施設から約30km離れた場所であったことです。利用者には通院が必要な方もいて、現在地から離れると医療との連携が難しくなることが懸念されました。「いつも服用している薬が足りなくなるかもしれない」という不安も、大きな心理的負担になります。
また、遠方への移転は、職員の通勤も難しくなります。仮に使用する施設を多数に分散させた場合は勤務職員も増やさなくてはならず、現状の職員数では回せなくなることも移転しなかった理由の一つです。ボランティアなどによる職員派遣も意見が挙がりましたが、自閉症など対人関係に配慮が必要な利用者や、震災に伴う環境変化などにより昼間ためていたストレスが夜に出てしまう方のことを考えると依頼先が限られ、十分な職員数を確保できるかは不透明でした。
さらに、強度行動障害の方などは、生活環境が変わることで不安が大きくなることが予想されました。候補となった老人ホームもそうでしたが、利用者が安心して過ごせる個室を確保できる移転先は、あまりないのが現実でした。
甲斐さんは、「日中の居場所はまだ確保しやすいが、入所の移転は難しい。今回は無事だった設備を活用しつつ対応できたが、本当に離れなければならなくなったときに備えて、実際に移転して生活できる施設を『県内』という広いネットワークで検討しておくことが必要だと感じた」と話します。
甲斐さんは、今回の被災において、広域ネットワークにとても助けられたと言います。特にありがたかったのは、九州の障害者支援者たちが集まる研修会「九州ネットワークフォーラム」でできたつながりです。
城南学園の食料の備蓄は4月18日の朝までしかない状況でしたが、18日深夜2時、九州ネットワークフォーラムでつながりがあった福岡県や長崎県の障害者支援施設がいち早く物資を届けてくれました。佐賀県や鹿児島県などの施設をはじめとして、強度行動障害の研修を受けている支援員が応援に派遣され、専門的知識に基づく助言をもらうことができました。九州の知的障害者施設協会の対応も迅速でした。
異なる地域の人が関わりあうことになる広域のネットワークは、心情面でも大きな支えになりました。井上さんは、「地元の人たちだけで会うと、地震のことや『今後どうなるのだろう』という不安ばかり話してしまう。別の場所から来た方は『まあ、ちょっとお風呂でも入りに行きませんか?』など全く違う話を振ってくれるので、視点を変えることができた」と言います。甲斐さんは、「地域には『人の世話にはならない』という風土があったように思うが、今回大勢の方に助けられて、『人の支援は良いものだ』『人から助けられるのはありがたいことだ』と感じ、こうした風土が取り払われてきた気がする」と話します。
外部からの応援やボランティアについて、城南学園・第二城南学園では、少し時間をおいてから間接的な支援をお願いすることにしました。「知らない人」が入ってくることを利用者がどう感じるか考えてのことです。「まずは普段いる職員でできる範囲のことをやっていくことにした。少し落ち着いてから、瓦礫の撤去作業をボランティアの方に頼み、職員は利用者支援に専念するという割り振りにした。障害者支援の経験を持つ応援職員の方には、直接利用者と関わるのではなく、適宜助言をもらう間接的な支援を頼んだが、この形がやりやすかったと思う」と、井上さんはふり返ります。ただ、その分職員の負担は大きかったので、「もしものときに支援員と代われるボランティアがいるようにするには、同じ災害に巻き込まれないくらい少し離れた地域の施設などと、常日頃から交流することが望まれる」と甲斐さんは伝えます。
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