関係機関がそれぞれの目で被災者を見守り続ける

28年３月から大島社協が事務局を担って運営している「大島町被災者生活支援連絡会」は、①大島社協、②大島町民生児童委員協議会、③東京都大島支庁、④東京都島しょ保健所、⑤大島町役場（福祉けんこう課、子ども家庭支援センター、土砂災害復興推進室）がメンバーとなっています。被災者や被災地域の住民が安心して暮らせるよう、関係機関が定期的に集まり、お互いに把握している情報を共有します。前述の八木さんが、この連絡会の会長を務めています。

30年９月18日には第46回の連絡会が開かれ、その冒頭に会長の八木さんは、「平成30年北海道胆振東部地震」で地すべりを起こした山の報道写真が５年前の災害を思い出させることにふれ、被災者の気持ちに心を馳せました。連絡会では、被災者ごとに約400名分のデータベースを作成し、関係機関が把握した被災者の状況を共有できるようにしています。そのうち、被災により家族を亡くしたり、生活状況が大きく変化した高齢者、障害者、子どもについては毎回、一人ひとり重点的に情報交換を行っています。

大島被災者生活支援連絡会

藤田さんは「一定程度、安心して地域に任せられるようになったら重点のリストからは外していく。０人になってくれる日が来るとよいが、５年を経て、今は７人を重点的に支援している」と話します。追悼式の案内などを届けに訪問したり、街でみかけたときに声をかけたり。関係機関はそれぞれがさりげなく被災者の現在の状況を把握し、お互いにそれを連絡会で確認し合います。５年の歳月が経る中で、把握している状況を報告しあうときには、「お元気そうでしたが…、」という言葉が多くみられました。日々の暮らしの姿そのものに「元気」であっても、ずっと気にかけて関わっているからこそわかる「気になる様子」。連絡会では事務局の社協は自分が知っている情報を説明するというよりも、それぞれの機関が見聞きしていることを引き出すことに徹している様子がうかがえます。そして、さまざまに抱えている複雑な課題の根っこを知るからこそ寄り添う気持ちで見守り続ける目が長く関係している機関にはあります。「がんばりすぎなきゃいいんだけどね」。そんな言葉をお互いに確認するケースもあります。また、お互いに把握している状況を話しているうちに、「やはり気になるから、私、ちょっと訪問してきます」となるケースもありました。

高齢者、障害者が日々、人とつながることを大切に

大島社協が運営する「黒潮作業所」は、島内で唯一の精神障害者のための就労継続支援Ｂ型事業所です。20年以上前に家族会により設立され、現在は大島社協が運営しています。島で生まれ育った11人の利用者が通い、「パン作り」と「食事作り」の２つに分かれて活動しています。「パン作り」はこだわりの素材を使って丁寧に作っています。「食事作り」では、週に１回手作りのお弁当を北の山地区の高齢者世帯に届ける配食サービスも行っています。

住民が並んで買いに来るパン。それを利用者が誇りをもって作り、また、障害者が高齢者にお弁当を届け、「ありがとう」と言っていただける。そんな関係性を大切にしながら運営しています。

その黒潮作業所でも５年前の発災時には、元町から通っている利用者一人が被災しました。親が行方不明となり、本人も病院に搬送されました。また、発災の翌朝、作業所に出勤した職員のところへ泥まみれの利用者がやってきました。彼の場合、家のそばが被災して無事ではあったものの、落ち着いた場所にたどり着きたいという想いから、家から遠い作業所まで懸命に歩いてきました。

黒潮作業所のサービス管理責任者を務める下司恵子さんは「災害があってから、利用者たちには『落ち込み』があった。そうした中、「病院に搬送された仲間が帰ってくるのをみんなで待とう」と励まし、前向きな気持ちになれるように心がけた。発災当日は、作業所を休止せざるを得なかったが、翌日には再開した。やはり、障害のある利用者たちにとって、日中活動がなくなってしまうのはつらい」と指摘します。

大島社協事務所の前でふとん乾燥車に島の高齢者の布団を入れているのは、大島社協の宮川美波さん。社協として在宅福祉サービスを営む中でも、それはただサービスを提供するというよりも、孤立しがちな方が外からの関わりにつながる入口にもなります。５年前の災害直後も、こうした関わりがあったからこそ社協に「避難すべきかどうか」を尋ねてくるなど問い合わせがあり、そういった不安な気持ちに丁寧に答える宮川さんの姿がありました。