東京都・中野区社会福祉協議会
ひきこもり状態にある方や家族を支える~つながりを地域につくる取組みから~
掲載日:2019年8月13日
2019年8月号 NOW

 

あらまし

  • いま、ひきこもり状態にある方とその家族への支援が社会的にクローズアップされています。内閣府が実施した調査から、広義のひきこもりの方は推計で100万人以上(*)とされており、誰にとっても身近な問題です。ひきこもりのように、生きづらさや孤立を抱える方とその家族の支援には、それぞれの背景を理解し、安心できる居場所や社会的つながりを見出せるような関わりが必要だといわれています。今回は、東京都と地域での取組みの一例について、ご紹介します。
  • (*内閣府によると、広義のひきこもりの方の人数は、平成30年度に実施した「生活状況に関する調査」では満40歳から満64歳までが61.3万人、平成27年度に実施した「若者の生活に関する調査」では満15歳から満39歳までが54.1万人、と推計されている。)

 

~東京都の取組み~「東京都ひきこもりサポートネット」事業

厚生労働省では、ひきこもり状態にある方への支援策として、平成21年度に「ひきこもり対策推進事業」を創設しています。平成30年度からは生活困窮者自立支援制度との連携を強化するとともに、訪問支援の充実等を図るなど、より住民に身近な区市町村での支援の強化をめざした施策をすすめています。

 

東京都は、国の事業に先駆けて、平成16年11月からひきこもりの方への支援の取組みを開始しました。不登校等を理由とする若年層特有の課題と位置づけ、東京都圏域での一次相談窓口「東京都ひきこもりサポートネット」(以下、「サポートネット」)を青少年施策の一環として実施してきました。しかし近年、中高年層にもひきこもりの方が多くいることが広く認識されるようになってきました。本人の高年齢化、問題の長期化に伴い、家族の高齢化もすすみ、いわゆる「8050問題」や「親亡き後」の問題も深刻です。そのため東京都では、中高年層や家族も一体的に支援するよう、従来の青少年施策だけでなく、福祉を中心とした施策の枠組みへと転換することになりました。平成31年4月より、青少年・治安対策本部から、地域福祉活動の推進や生活困窮者自立支援事業等の所管課である福祉保健局生活福祉部地域福祉課にひきこもりの方への支援に関する事業を移管し、実施しています。

 

サポートネットでは、ひきこもりの本人や家族からの相談を電話、メール、家庭への訪問の3つの形で受けており、電話とメールについては匿名でも相談可としています。精神保健福祉士や臨床心理士、社会福祉士、ファイナンシャルプランナー等の相談員が、相談から丁寧に状況をつかむよう心がけ、適切な支援機関や団体につなげています。訪問相談では、居住地の区市町村で申込みを受け付け、サポートネットが家庭を訪問し、5回を目安に相談に応じています。これまで、訪問相談のみ34歳までの年齢制限を設けていましたが、今年6月より年齢制限を撤廃しています。

 

サポートネットには、平成30年度に、延べ約2千600件の相談がありました。相談者の割合は本人および親ともに全体の約40%となっています。また、年齢層は20代が最も多く約35%ですが、40代以上も20%弱と中高年層の割合も少なくないことが見受けられます。生活福祉部生活支援担当課長の宮澤一穂さんは、「一概に『ひきこもり』といってもさまざまな状況がある。相談を通じて、なかには障害や病気、虐待などの背景があるとわかる方もいる。また、ひきこもりのご本人だけでなくご家族への支援の必要性が感じられるケースもあり、一人ひとりに応じた対応が求められている」と話します。

 

東京都ひきこもりサポートネットリーフレットより

 

東京都での3つの施策の柱と地域への期待

東京都は、「相談事業」に加え、「都民向けシンポジウム」と「若者社会参加応援事業」の3つの柱で施策を展開しています。今年度のシンポジウムは、ひきこもりの早期支援と普及啓発をねらいとして6月に開催され、大きな反響がありました。今後は、若者への支援の充実に加え、中高年層や家族の支援についても施策拡充につなげていきたいと考えています。

 

また宮澤さんは、身近な地域でのきめ細かい支援の充実に期待します。「相談することに拒否感があったり、ご家族から相談を受けてもご本人との信頼関係を構築するまでに時間がかかる場合がある。こうした場合、広域の支援策では対応が難しいが、地域では、ご本人やご家族に対し必要に応じて慎重に、時間をかけて直接関わることができる」と言います。加えて「一つの機関だけで問題を解決できるケースは少ない。ひきこもりの方への支援に関して、関係機関や地域団体等が連携し、ネットワークをつくっている地域もある。そうした体制があることで、ご本人とご家族を包括的に支援できる可能性が高まる」と話します。

 

また、住民へは、「悩みを抱えた当事者やご家族が身近にいたら、相談窓口があることを伝えたり、孤立しないようつながりをつくることが大きな助けになる」と早期の発見や支援につながる関わりを期待しています。

 

~中野区社会福祉協議会の取組み~「福祉何でも相談」で個人を支える

(右から)中野区社協 事務局次長 秋元健策さん、

同 地域活動推進課 福祉何でも相談主事 後藤将来さん、同課課長補佐 草野由佳さん

 

中野区社協では、16年前から、区内15の圏域ごとに「地域担当制」を敷き、担当職員が居場所づくりや地域活動の支援等をしています。活動を重ねるうち、住民から「気になる方」の相談を受けることが増えていきました。「事業や制度だけでは支援できない方や、制度の対象であってもSOSを出せない方がいることから、一人ひとりの状況に応じ、一歩踏み込んだ支援をする必要性を強く感じていた」と、中野区社協事務局次長の秋元健策さんは言います。

 

そんな折、平成26年度中に中年のひきこもりの方の相談を受け、1年以上に渡り支援しました。これがきっかけとなり、平成27年6月より、いわゆる「制度の狭間」の相談を受け、その方に応じて必要な支援を行う「福祉何でも相談」(以下、「何でも相談」)事業を開始しました。

 

「何でも相談」には、10~90代まで、幅広い年代の方からの相談があります。ひきこもりに関する相談は、平成27~29年度までの3年間に60件ありました。特に家族や支援者から、40、50代の男性に関する相談が多い状況です。相談員は、地域担当職員とともに自宅を訪問したり、時に適切な機関に同行し手続きを支援したり、人との関わりの中で生活できるよう地域住民につないだりと、一人ひとりに必要な支援を行っています。

 

「何でも相談」相談員で中野区社協主事の後藤将来さんは「これまで外部につながり先が持てずにいた方たちが、勇気をもって相談してくださる。『まず自分がつながる』という気持ちで受け止めている」と言います。

 

ひきこもりの方の居場所「カタルーベの会」

中野区社協が平成27年度に実施した民生児童委員等への調査により、区内にひきこもりの方が推計で167人いるとわかりました。そこで、この年の「第2回なかの地域福祉推進フォーラム」において中高年のひきこもりを考える分科会を実施したところ、参加した区民から「当事者が気軽に参加、相談できる居場所をつくりたい」という声が上がりました。

 

これを機に準備会が発足し、当事者団体の協力を得てひきこもりに関する学習や居場所の見学等を行い、平成29年4月にひきこもりの方の居場所「カタルーベの会」が立ち上がりました。

 

会は毎月1回開催し、毎回、元当事者も含むスタッフと参加者、10名強が参加しています。会のSNS等を見て他区市や他県からも参加があり、本人や家族が、社会や支援情報等とつながる場となっています。この活動からひきこもりの家族会「中野わの会」も立ち上がりました。

 

相談員で中野区社協地域活動推進課課長補佐の草野由佳さんは、「区内の新たな社会資源として、運営を継続的に支援するとともに関係機関への周知と連携をすすめたい。また今後はさらに、生きづらさを抱えるひきこもり等の当事者を住民が直接支えるしくみづくりに具体的に取り組みたい」と話しています。

取材先
名称
東京都・中野区社会福祉協議会
概要
東京都ひきこもりサポートネット
https://hikikomori-tokyo.jp/

中野区社会福祉協議会
https://www.nakanoshakyo.com/
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