大島マリンズFC
大島土石流災害を経た子どもたち 島外との新たな交流が生んだもの
掲載日:2018年9月28日
東京都大島町/平成30年9月現在

災害だから頑張れではなく…

一方、マリンズの子どもたちは、この災害をきっかけとして島外との新しいつながりが生まれることもありました。

その最初の一つ。それは、発災から1か月後の11月16~17日にJリーグのFC東京が大島の復興支援として、藤倉学園の芝生広場で「サッカー交流会」を開いてくれたことでした。FC東京が「対象はだれでも良い」と言ってくれたので、マリンズの子どもたちに限らず、広く呼びかけて105人の子どもたちが交流会に参加しました。それまで外で体を動かすことができなかった子どもたちは、久しぶりに駆け回り、汗を流しました。

その後、子どもたちがFC東京の試合に招待され、そのときに調布市や三鷹市の子どもたちのチームと試合をすることができました。マリンズは島内で唯一のサッカーチームでした。そのため、年に一度の伊豆七島のアイランドリーグの試合以外にはひたすら練習だけを繰り返す日々でした。

島外のチームと対戦できること。それは、子どもたちにとって貴重な体験となりました。その後もサッカーというスポーツを縁に遠征試合に招いてもらう機会が続き、子どもたちは「試合があるから練習をする」といった「目標を持つ」ということを経験することができました。

 

チームには家を失った子もいれば、局地的に被害の大きかった災害だったため、広い島内で被災そのものを実感できない子どももいました。そうした中、島外からの温かい支援を受けた子どもたちに対して今津さんは「とにかく感謝の気持ちを忘れないように。君たちが笑顔になってくれることを望んで応援してくれている。だから、君たちが大人になったとき、君たちが人に同じようなことができるようになれることが、今支えてくれている方々に一番喜んでもらえることじゃないかな」と話しています。

また、逆に、島外のサッカーチームが大島へ来てくれるという機会もできました。今津さんたちは、大島でクワガタムシがたくさん採れることからその試合を「クワガタカップ」と名付け、参加した島外からのチームの子どもたちに大島のクワガタムシをプレゼントしました。大島の子どもたちが島外から来た子どもたちを案内して、クワガタムシがたくさん採れる場所を教えてあげると、島外の子どもに「すげえなあ」と言ってもらえます。自分たちの島を紹介し、同世代の島外の子どもたちがほめてくれることは大きな喜びです。

 

そうした経験を重ねる中、マリンズは27年、伊豆七島の少年サッカーチームによるアイランドリーグの大会で10数年ぶりに優勝することができました。いつの間にか、子どもたちが強くなっていました。その大会で今津さんは自分自身に作ったルールがありました。それは、子どもたちに対して「大島のために勝とう。大島のために頑張ろう」ということを決して言わないということ。

「災害だから」ではなく、子どもたちは自分なりの経験の中で成長しています。「日々が続いている」ということ。大人は子どもに「普通にかかわる」ことがやはり大切なのかもしれません。

「島外の子どもたちと仲良くなって、子どもたちは自分たちの世界が広がった。島で暮らしていたら覚えなかったような下品な言葉を知って使うようになる。それでいいんだとぼくは思う」。今津さんは笑顔でそう語りました。

大島マリンズFC監督 今津登識さん

 

取材先
名称
大島マリンズFC
概要
大島マリンズFC
タグ
関連特設ページ