(社福)東京都社会福祉協議会保育部会保育士会
子どもたちのために保育士ができることは?
掲載日:2017年12月15日
ブックレット番号:1 事例番号:9
岩手県山田市、大槌町/平成24年3月現在

本郷千恵子 元東社協保育士会会長

(元厚生館保育園主任保育士)

 

東社協保育士会では震災後の4月12日に保育団体被災地支援募金に義援金を送りました。その後、会員の方からも「何かしたい」「できることがあれば」と言ってくださる方が増えてきて、義援金以外に東京から何かできることはないかと思いました。

 

被災地の団体に電話してみると「今のところ必要性はない」とのことでしたが、とにかく現地に足を運ばなければ何も始まらないと考えて、5月に私と保育士会事務局長の2名で岩手県山田町の保育所を訪ねました。現地に行ってみると、「保育士を少し休ませてあげたい」「この現状を皆さんに伝えてほしい」とのことでした。当時は保育所が避難所となったり、再開した園では保育士が全く休めずに被災した自分の家も片付けることができずにいました。

 

その後、6月に「短期間でも手伝ってほしい」という要望がありました。現地で支援活動をしている日本ユニセフ協会の方から「支援してくださるのは本当に助かる。役場も保育士がすぐにでも必要と募集したが、なかなかいない。保育士が疲れていては、子どもが安心できない。ぜひ応援していただいて、保育士さんが元気に向き合ってほしい。子どもたちのために保育士さんの支援が必要。費用は全面的に負担する」との話をいただきました。早速、同協会と業務委託契約を結び、7月から保育士の派遣を始めました。

 

岩手県内の5つの保育所に派遣

各回3~7日間程度で2人を派遣しました。7月は3園、8月からは5園(山田町の豊間根・わかき・山田中央・山田第一保育園、大槌町の大槌保育園)を支援しました。

 

山田町では、わかき保育園が津波で建物全てを失い、「わかき保育園」という表札だけが残り、かろうじてそこに保育所があったことだけがわかる状態で、あたりは瓦礫となっていました。地震の際には、近くのお寺に避難して園児にも保育士にも犠牲者は出ませんでした。その後は高台にある旅館だった厨房もある建物を借りて園を再開しています。園児は15人程度でしたが、保育に手一杯で送られてきた物資のダンボールも開けることもできず山積みの状態でした。

 

他の3園は腰の高さまで水に浸かり、4月上旬に再開しましたが、定員よりも20名超えて、4~5月は親を亡くした子どもたちは保育料無料で預かっていました。大槌保育園もプレハブ園舎で6月に再開しました。

 

子どもたちや保護者に必要な支援

被災地の保育所では、担任に限らず他の保育士も子どもや親の細部の様子を以前よりもよく見て、コミュニケーションをとり合っています。

 

当初、プレハブ園舎に慣れずに泣いて登園する子もいましたが、保育士が玄関にかわいい「アンパンマン」の看板を作って飾ってあげると、笑顔で登園するようになりました。

 

子どもたちは最初、静まりかえっていました。中には子どもらしくない表情がみられたり、ストレスやショックで立ち直るのに4~5か月かかった子どももいます。年長児は友だちが亡くなったことがわかっているので、はじめは周りに気を遣って話しませんでした。でも、行事などの機会を通じて、泣きながらでもじっくり保育士と話しているうちに、いろいろなことを話せるようにまでなってきました。

 

以前はあまり話しかけてこなかった保護者から「助けてくれてありがとう」と日々言われるようになり、行事なども積極的に手伝う姿がみられます。仮設住宅の壁が薄く、「『子どもの声がうるさい』といわれてストレスになる」と話す親もいました。子どももそれを気にしています。町では1千人以上の方が職を失っており、保護者の中には仕事が見つからない方がいます。

 

神経質になってしまった親が子どもの夜泣きで悩み、両親そろって園での様子を聞きに来て、担任だけでなく園長も入って丁寧に話をすると、安心して帰って行きました。このように、できるだけ会話を多くするような努力が現地で取り組まれています。

 

必要な支援を続けていきたい

これまでにのべ90人以上の保育士がボランティアに参加してくれました。園長先生や退職された園長先生も行ってくださいました。また、保育士を被災地の応援に送り出すために、園長先生が自ら代わりに保育に入っていただいた園もあると聞いており、感謝でいっぱいです。

 

「現地に立って考える」「現地に身を置く」ということが大切だと思います。行かれる方には、「東京の保育を持ち込まないように」と言って送り出しています。そして、現地の保育士ができるだけ子どもたちや保護者に向き合えるよう、私たちはいわゆる雑用を手助け、後方支援に回っています。大変な状況の中、指示を受けずとも何が手薄かわかるのは同じ保育士ならではと思います。

 

3月で派遣は終了しますが、私たちに何ができるのか、このつながりを大切に、今後も必要な支援を続けていきたいと考えています。

取材先
名称
(社福)東京都社会福祉協議会保育部会保育士会
概要
(社福)東京都社会福祉協議会保育部会保育士会
https://hoikushikai1.jimdo.com/
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