- 組織概要
◎調布市社会福祉協議会(以下、「調布市社協」)の若者のための総合相談窓口。「子どもの貧困や居場所のない子どもが多い状況に対応したい」「親や家庭もトータルに支えていくことが必要」という調布市の構想を受け、2015年度より市からの委託で事業開始。おおむね中学生以上の子ども若者およびその家族を対象に、「学習支援」「相談」「居場所」の3事業に一体的に取り組んでいる。
◎事業を担当する職員体制は、2024年9月時点で正規職員6人、嘱託職員4人、学習支援コーディネーター1人、相談支援コーディネーター1人。また、事業を支える学習支援ボランティア100~120人、居場所事業ボランティア5~6人。
あらまし
- 2023年度の文部科学省の調査では、不登校の状態にある小中学生は日本全国に34万6,482人いることが明らかになり、初めて30万人を超えました。今回は、生きづらさを抱える子ども・若者やその家族からの相談を受け止め、地域や他者とのつながりの中での体験機会づくりを通じた支援を行う調布市社会福祉協議会にお話をお聞きしました。
3つの事業を一体的に行うことで、「ここあ」がよりどころに
調布市子ども・若者総合支援事業「ここあ」(以下、「ここあ」)が実施する3つの事業は以下の通りです。市の事業設計の枠組みの中で、各事業の目的や対象者を定めて、取り組んでいます。
| 学習支援 | 対 象:児童扶養手当や就学援助などを受給しているひとり親家庭や困窮家庭などの中学生 内 容:学生ボランティアによる1対1の高校進学に向けた学習と、学習習慣を身につけるためのサポートを行う 実 施 日:月・水・金 18時~20時(週1回利用) |
| 相 談 | 対 象:おおむね中学生以上の子ども・若者およびその家族 内 容:学校や仕事、家庭生活などに関する相談を受け、状況の解決に必要な手立てを一緒に考える伴走型の支援や、他機関の紹介・情報提供などを行う 開所時間:平日10時~20時(木曜日のみ10時~17時) ※日時は個別の事情に応じて調整 |
| 居場所 | 対 象:おおむね15歳以上の子ども・若者 内 容:「ただ過ごすだけでいい」家以外の場所で、調理やスポーツなどのプログラムも行う 実 施 日:月・火・水・金 10時~18時 |
学習支援事業は、ひとり親家庭や困窮家庭などの中学生を対象にしています。週3回実施しており、毎回の利用者は30~40名です。学習支援ボランティアとして登録している大学生は、常に100~120名ほどいます。一人ひとりに向き合って丁寧に勉強を教えることや、身近なロールモデルを示せることから、中学生1人に対して1人の大学生が担当する体制にしており、事業開始当初からこの体制にこだわって実施しています。教員などの幅広い経験をもつ学習支援コーディネーターの助言の下、中学生一人ひとりの特性や学習進度、家庭環境や対応のしかたの留意点などをまとめた個別ファイルを作成しており、大学生は担当する中学生のファイルを読み込んだ上で、毎回の学習のサポートにあたっています。「ここあ」立ち上げから関わっている学習支援コーディネーターや大学生ボランティアの皆さんがいなかったら、丁寧な学習のサポートや進路相談は行えていなかったと思います。調布市社協が培ってきた、大学とのつながりやボランティアへの支援力があってこの体制が成り立っていると感じています。
相談事業では、学習支援のような経済的要件は設けず、おおむね中学生以上からの相談を受けており、10代後半から20代前半の本人やご家族からの相談が多いです。特に、最近は不登校に関する相談がかなり増えている印象があります。また、20代からの相談にはコロナ禍の影響を感じることが少なくありません。例えば、大学在学期間がコロナ禍ですべてリモート授業だったため、他者とコミュニケーションをとる機会やサークル活動等を経験できず、仲間がつくりづらいと聞きます。大学生が通えるような地域の居場所は意外に少なく、行き場のない若者が多いと感じます。
相談には正規職員6人で対応しています。2023年度の新規相談件数は244件、継続件数は708件の計952件でした。相談件数は増え続け、職員一人ひとりの担当ケースが増えています。多くの場合、子ども本人と親のそれぞれとの面談が必要なため、一世帯当たりの面談数が多くなる傾向があります。また、相談は基本的に「ここあ」の事務所内で行っていますが、本人や家族が外出しづらい場合は自宅に伺うなど、事務所外で対応することも多くあります。性別に配慮した担当割りも必要なので、職員の担当ケースのバランス調整が難しいこともあります。
「ここあ」への相談には、家族がインターネットで検索してつながることが多いです。加えて、最近は教育機関や就職支援を行う地域若者サポートステーション、ハローワークからの紹介でつながることもあります。特に、教育機関や子どもの支援制度には、対象年齢の枠組みがあるため、その期限が近づく頃に、次のつなぎ先を探して相談が入ることが多くあります。例えば、17歳までの児童を対象にしている子ども家庭支援センターと、18歳以降の支援の継続のために連携することなどがあります。
居場所事業の対象を「おおむね15歳以上の子ども・若者」としているのは、義務教育終了後、高校を中退した子でも来られる場所であることを伝えるためです。この居場所をステップに、また学校に通ったり就労につながったりと、ここから再出発することが一つの理想なのかもしれませんが、「ここあ」は、教育を補完する場というよりは、「ただ過ごすだけでいい」という支援型の居場所としています。利用期間は3年間としていますが、中にはお試し的に、また断続的に、長期間利用する若者もいて、利用者が増えている状況です。
この3事業を一体的に行うことで、「ここあ」が地域のよりどころやプラットホームのような機能を発揮できていると思います。相談事業で関わっていた若者が、就職後に居場所に足を運んでくれてちょっとした悩みを聞いたり、トラブルが起きた時に再び相談につながったりすることもあります。
地域とのつながりの中でたくさんの体験をしてほしい
「ここあ」で関わる子ども・若者に共通して感じることは、自己肯定感が低いということです。対人的な特性や個性を持つ方も多いですが、接しているとみんなが優しい心を持っていて、必ず強みや得意なことがあると感じます。しかし、一人ひとりの特性が学校や社会、身近な親などから認知・理解されにくく、不登校やひきこもりになり、家族以外とのコミュニケーションやさまざまな社会体験が少ないまま歳を重ねている印象です。そのため、「ここあ」では、地域福祉コーディネーターなど、社協の持つ地域とのつながりを活かして、地域の中で体験機会の場をつくることを意識しています。
○「ここあ」で関わる子ども・若者と地域をつなげる支援の事例
| 絵が得意なAさん 高校を中退してから家にひきこもっていたAさん。本人とはやりとりできず、保護者からの相談を「ここあ」で受けていました。メールで細々とつながりを続けており、保護者がたまにAさんの様子やAさんが得意な絵を送ってくれていました。その絵がとても上手だったため、この力を活かせる場はないかと、職員が地域で居場所づくりに取り組む団体に相談すると、「“個展”ができるといいですね」と言ってくれたんです。Aさんにも伝えてみたところ、打ち合わせに参加してくれることになりました。これが家族以外の人と何年ぶりかに会話をする機会となりました。 |
| ゲームの達人Bさん 高齢のメンバーが中心の団体。「ゲームを用いた交流の場づくり」を企画し、ゲームに必要な機器は購入しましたが、やり方や機器の接続方法が分からず教えてほしいと、社協に相談がきました。「ここあ」を利用しているBさんがすぐに思い浮かび、手伝ってほしいと頼むと、ゲームの接続からやり方までを高齢の方々に教えてくれて、とても喜ばれました。この経験が自己肯定感の低かったBさんの自信につながり、今は就職に気持ちが向きつつあります。 |
このほかにも、地域の中で一人ひとりの力を活かせる場や機会がないかを考え、お祭りの手伝いやイラストの作成など、地域の方々の協力で、さまざまな場面をつくってきました。このような動きができるのも社協の強みではないでしょうか。地域福祉コーディネーターの各圏域での活動があるからこそ、日頃から地域の中で顔の見える関係性を築くことができ、思いを汲んでもらえ、それが子ども・若者の体験の場につながっています。
そして、勉強や就職という軸ではなく、子ども・若者の今後の生活を考えていく「人生軸」での支援ができることも社協の特徴の一つです。学校生活や就労に送り出して終わるのではなく、「何かあったら戻ってきてもいいんだよ」と言ってくれる人・場所が、彼らにとって必要だと思います。「ここあ」を使って、さまざまな経験をしながら、生きていく自信をつけてほしいと心から感じています。
子ども・若者を“人生軸”で支えられる社会に
こうした子ども・若者一人ひとりに寄り添った「人生軸」での支援は、「ここあ」だけでは続けていくことはできません。出会いと話し合いを大切に、同じ気持ちでともに取り組んでくれる地域の人や団体とのつながりを今後も広げていきたいです。一緒に子ども・若者支援に取り組める人や団体が増えていくことで、対象年齢に縛られることなく、ゆるやかに継続した支援が可能になっていくと思います。

左から)坂本さん、橋本さん、高橋さん
「ここあ」で日々相談を受ける中では、中学校から高校、高校から大学など、切れ目があることによる課題を強く感じます。また、教育分野と福祉分野の縦割りの体制による課題も日々感じています。例えば、長期間ひきこもり状態で、アルバイトも含めて就労が難しい場合。そのきっかけは小中学校の頃にあることが多いはずなのに、その状況や課題を教育機関と共有することがなかなかできません。さらに最近では、中学校で不登校だった生徒がなんとか卒業した後、周囲に勧められて通信制高校にすすむことが増えています。通信制高校は選択肢の一つですが、自分で学習をすすめたり課題に取り組んだりなど、自己管理が求められます。それがうまくできず、同級生との関わりもないまま途中で退学してしまい、ひきこもり状態が悪化することもあります。通信制高校を卒業できたとしても、学校生活で他者や社会と関わる体験がほとんどない場合もあります。中学校から高校に進学する時に、高校卒業後の人生をどうしていくのかが置き去りにされている状況ともいえます。10代でどこにも所属のない「10代無業」の状況も増えており、義務教育終了後の15~18歳頃の問題、18歳以降の問題が多くあります。
「ここあ」が子ども・若者の総合的な支援事業を行う中で、実は「ここあ」の本来機能にはない就労支援も行う現状があります。若者が生活していくためには「働く」ことが不可欠であり、事業として位置づけてはいませんが就労の問題は切っても切り離せません。調布市内で若者の就労支援を行う「ちょうふ若者サポートステーション」と連携しながら、「ここあ」でも就労準備や就労体験を受け入れてくれる企業探しを行うことも増えており、限られた職員体制の中で、支援のゴールが設定しづらい難しさを感じています。
また、「ここあ」で支援している子ども・若者たちの持つ「個性」や「特性」が、日本では「障害」としてしか表現されず、家や学校などで生きづらさを感じながら生活し続けたことが、結果としてひきこもりなどにつながるのではないかと考えることもあります。一人ひとりを見て、枠にはめない社会にしていくには、福祉と教育や医療との連携を超え、より一体的に取り組めるようなしくみが必要ではないでしょうか。すぐに制度や社会のあり方を変えることは難しいですが、目の前にいる子ども・若者への支援を日々続けながら、こうしたメッセージも伝えていけたらと思っています。
ヒアリング実施概要
- 日 程:2024年9月12日(木) 場 所:調布市社会福祉協議会
お話を伺った方:事務局長 橋本 ゆかりさん、地域福祉推進課 課長 高橋 順子さん
調布市子ども・若者総合支援事業ここあ 係長 坂本 祐樹さん
※本稿は、令和7~11(2025~2029)年度東社協中期計画策定にあたってお話を伺った際のヒアリング記録です。
調布市子ども・若者総合支援事業ここあ
https://www.ccsw.or.jp/jigyou/kodomo/cocoa








