あらまし
- 東京都内62区市町村には9町村に11の島があります。そのひとつである三宅島は竹芝桟橋から客船で、または調布飛行場から飛行機で行くことができます。平成12年の三宅島噴火により全島避難指示が出たため、島民は4年以上にわたり島外への避難を余儀なくされました。長期間にわたる避難により生活基盤を三宅島以外に移した人々も多く、噴火前と比較し人口は減少しています。
- そのようななかで、住民のよりよい暮らしのために前向きに、ときにアグレッシブに進んでいく三宅島社協のお2人にお話を聞きました。―――共通するのは視野を広げることの大切さでした。
「できるだけ島に住み続けたい」を支えるために
まず話を聞いたのは福本有希子さん。都内社協の新任職員を対象とした研修(東社協地域福祉担当主催)への参加後に、社協入職後の仕事について教えてもらいました。
「三宅島に暮らす祖父母のために何かできたら」と思い約10年前に移住し、別法人で介護職として働き始めます。社協入職後は障がい者支援・生活福祉資金・地域福祉権利擁護事業などさまざまな業務に携わってきました。「どの業務を担っていても地域福祉につながっていると感じますし、地域にでると社協がどんなふうに思われているのかも知れます。そんななかで、自社協だけだとどうしても人数が限られているので、支援方法ひとつ相談するにしても考えに偏りがでてしまうなと感じることがあります。今日の研修もそうですが、他社協の職員と意見交換することでこんな考え方もあるのか!という気づきがあり、とても有益な時間でした。」と福本さんはいいます。
福本さんはさまざまな考え方を知ることで自分の視野を広げ、住民への新たな支援につなげていきたいと思っているとのことです。そうした「新たな支援」のひとつが、生きづらさを抱えている方に対して、本人の得意な作業や創作活動を行う機会や、制作物を販売し収入を得られる機会の創出です。さまざまな理由で外出や就労が難しい方、コミュニケーションが苦手だったり孤立感を感じていたりする方でも、思いを共有することでふっと気持ちが軽くなる、そんな場をつくりたいと思っています。
「支援によって、できるだけ島に居続けたいという住民の思いをかなえられるといいなと思っています。社協はその役割があるし、そのために柔軟な考え方ができるようになることが大切だなと思います。」と福本さんはいいます。
子どもたちの世界を広げるサポートをするために
「コロナ禍で一番変化があって成長したのが福祉教育だったなと思います。」と振り返るのは、次に話を伺った石塚未奈さんです。平成31年に会食会や多世代交流によるボランティア体験を考えていたところ、コロナ禍に入り企画が頓挫してしまいます。そんな折、東京ボランティア・市民活動センターが「夏のリモート・ボランティア」プログラムを実施しました。コロナ禍に加えて離島という立地でボランティアをする側も受け入れる側も少ないなか、リモートでボランティアができるなんて!と驚いたそうです。
これをきっかけに島外のボランティア団体とも連携し、リモートボランティアを推進していきます。具体的には、暑中見舞いを描いて高齢者施設に送ったり、“Miyakejima Rainbow Project”と題し小児難病の子どもとその家族の宿泊施設に設置するデコレーションを制作したりしました。実は取材日当日も、今後のリモートボランティアに協力してもらうために、調布市の障がい者施設へ訪問していたそうです。
また、ボランティアに限らず福祉教育への取組みを学校と連携して取り組んでいます。三宅高校では「人間と社会」の授業の一環で、買い物支援ボランティアや福祉用具の整備・清掃、夏体験ボランティアのスタッフ体験を行いました。三宅小学校・三宅中学校にも掛け合い、授業のコマをもらって福祉について講演をしたり高齢者疑似体験をしたりしました。
*ふくし実践事例ポータル「在宅やオンラインで施設のボランティア」
https://www.tvac.or.jp/special/rimobora/
「ボランティアをもっとやりたい!という子どもたちの声にいかに応えられるか?と考えながら、わたしたちが知ってほしいなと思うことも伝えていきたい。」と石塚さんはいいます。「例えば、高校進学時に島を出た場合も、それまでの学校の規模や人数との差に慣れずうまく友人をつくれない、なんていうことも聞きます。福祉教育を通していろんなことを知り、自分の世界を広げていってほしいですね。」という言葉に、これからの展望も広がっている様子を感じました。
第6次三宅村総合計画(R4~R13)の【基本方針3 安心して健やかに暮らせる地域づくり】においても、福祉意識の高揚や地域福祉の推進のため福祉ボランティア体験や福祉関連講座などの充実により社協を支援する旨記載されています。行政からの社協への期待も高いのだろうと思います。
社協を知ってもらう「ちいさな福祉まつり」
令和7年1月25日(土)、約5年ぶりに三宅島社協にて「ちいさな福祉まつり」が開催されました。三宅島産の赤芽芋を使用した“かあちゃん豚汁”はあまりの人気に午前中で売り切れてしまったそう!他にも地域活動支援センター「いぶき」の創作品(べんがら染めの作品、貝を使用したストラップ)や、都外から直送の野菜も販売されました。
人口2,196名(R7.3.1)の三宅村、来場者は約300名と大盛況だったようす。休止していた期間も島民から「やらないの?」と声をかけられることがあったそうで、待ち望まれた開催だったようです。
一時期は福祉啓発をねらいとして掲げ、福祉を知ってもらえる内容に特化したこともありましたが、そんな年の参加者数は伸びませんでした。今回は子ども向けのゲームコーナーを作り、家族で参加してもらえるお祭りにすることで、多世代で参加しやすいイベントになりました。「社協を知ってもらい、何かあったときに行こうと思ってもらえることが大切。社協の建物に入ってもらう体験自体がイベントの目的です。」とのことでした。
ちょっとしたエピローグ
三宅村の住民の思いを受け止め応えるために、そして社協とつながっていてもらうために、目の前の一人に向き合いながら地域づくりを進めるおふたり。「島内にあるものをどう活用できるか?」という視点と、「島外にあるものをどう活用するか?」という視点、両方あることがキーになっているのではないでしょうか。
おふたりとも三宅村に縁があり移住されたということで、島ならではのくらしの大変さや悩みもありながら、そのなかで工夫してくらしとしごとを紡いでいるようでした。
*東京都総務局「東京宝島」内の三宅島紹介ページ
https://www.t-treasureislands.metro.tokyo.lg.jp/know/miyake/index.html
(取材日:令和7年2月19日/2月26日)