+laugh(アンドラフ)
障害の有無に関わらず、地域の中で多様な関係性が紡がれる場所
掲載日:2025年9月5日
2025年9月号 み~つけた

 

 

一人の市民として地域でつながる

大規模な団地が立ち並ぶ多摩ニュータウンの商店街の一角に、未就学の重症心身障害児や医療的ケア児の児童発達支援と、18歳以上の方の生活介護を行う多機能事業所「+laugh(アンドラフ)」があります。+laugh(アンドラフ)を運営する(一社)Lifeis代表理事の影近卓大(たくだい)さんは「日常生活の景色を多様にする」を法人のビジョンに掲げ、医療的ケアが必要な子どもも“対等な一人の市民”として地域の中でつながることで、多様な日常生活が送れるきっかけをつくりたいと考えました。「医療的ケア児や重症心身障害児は年々増えていますが、街であまり見かけないことに違和感を持っていて。地域の人たちと障害がある子たちとのタッチポイントが生まれる場所があればいいなと思いました」と話します。多摩ニュータウンを拠点に、2021年4月にオープンしました。

 

駄菓子がつなぐ日常の関係性

ユニークなのが、事業所内に「まちの駄菓子屋さん」と名付けた駄菓子販売スペースがあること。なぜ駄菓子屋なのか影近さんに伺うと、「駄菓子屋って社会を学べる一つの場所だと思っていて。おこづかいでどれだけお菓子が買えるか真剣に考えたり、マナーが悪いと店主に叱られたり。駄菓子は安価だから経済格差もあまり感じずにさまざまな年代が対等に楽しめます。そんなところに、社会との接点を持ちにくい子がいることができたら、もっといろいろな景色が生まれるんじゃないかと思いました。実際に始めてみると、障害がある方の社会での“関わりしろ”は、駄菓子販売を通じてたくさんあるんだと気づかされました」と話してくれました。

 

 

駄菓子販売は、生活介護の場となっていて、高校を卒業した方が袋詰めやシール貼り、レジ打ちなどを行い、売り上げの一部は工賃として支給されています。これは重症心身障害者向けの生活介護事業所では珍しいことだとか。アンドラフで介護福祉士として働く志田真由美さんは「生活介護を利用する方には自分の仕事として、できること、持っている力を発揮してもらっています。今では地域の皆さんも、障害のある人というより、駄菓子屋の店員さんとして見てくれているのではないでしょうか」と話します。多摩ニュータウンという土地柄、高齢者も多く住んでいて、「懐かしい」と駄菓子を買いに来てくれたり、初めてのおつかいがここの駄菓子屋だという子どももいたり。立ち上げ当初は手探りでしたが、今ではさまざまな年代の人たちがここを訪れ、駄菓子を通じた交流も生まれているそうです。

 

 

事業所はガラス張りで、小窓からは駄菓子屋の店番をする人が見えるようになっているなど、外からも中からも自然に人々の様子が目に留まるつくりになっています。オープンな雰囲気なので、団地内の商店街に入ると必然的に目に入ります。影近さんは「医療的ケア児が集まる事業所って、専門的で閉鎖的になりがちですが、“日常生活の延長線上”を意識したかったので、事業所の作り自体を開放的にしました」と話します。ふだん通る道や行く先で日常的に見かけると次第に気になってきて、「知りたい」と思うようになり、自然な交流やつながりが育まれていく。時間はかかるけれど、そんな関係性を大事にしたいという影近さんの想いが込められています。志田さんは「『ここを通るのをいつも楽しみにしているのよ』と声をかけてくれる人もいます。ひときわ嬉しかったのが、児童発達支援を卒業して小学校に入学する子どもたちへ、地域の子どもたちがお祝いの品をつくり、巣立ちを祝ってくれたこと。卒業する子どもの親御さんも『この子は地域の中でこんなに温かな時間を過ごしていたんだ』と実感されたようです。また、地域の皆さんにとってもここが“日常にある楽しい場所”になっていると実感しています」と笑顔で話してくれました。2階のフリースペースは地域の人たちにひらいています。フリースペースを利用した人たちがここに通う子どもの名前を覚えてくれたり、身体につなげる管を固定するテープに名前や絵を書いてくれたりと、自然に温かな交流が生まれています。

 

 

誰もが豊かな暮らしを創造できるまちへ

最後に影近さんは「今、私たちのような福祉事業所に求められているのは、事業所にいる時間だけ安全に過ごせればいいということではなく、障害がある人たちの暮らしがもっと豊かになる試みを考えていくことだと思っています。障害のある人が地域コミュニティから切り離されてしまうのは社会や地域の問題です。障害を理由に差別されたり排除されたりすることはあってはなりません。そういう思いをする人が少しでも減るように、これからも地域の皆さんとともに“福祉視点のまちづくり”を一緒にやっていけたら」と話します。 障害のあるなしに関わらず社会の一員として、豊かに生きていける地域をめざして。これからも+laugh(アンドラフ)は、この場を地域にひらき、人と人との出会いを紡いでいきます。

 

+laugh(アンドラフ)

  • 場所:多摩市諏訪5-6-3多摩ニュータウン諏訪102号 問合せ先:042-401-9865
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名称
+laugh(アンドラフ)
概要
+laugh(アンドラフ)
https://lifeis-llc.com/and_laugh/
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