一般社団法人POC(ポック) 代表理事 酒井 冴輝(さえき) さん
4人きょうだいの長男。聞こえない次男、三男とともに
国立市でろう者と聴者が交われる居場所づくりや
手話を広めるための活動を行っている。
個人ではYouTubeなどのSNS発信や
モデル活動を行っている。
あらまし
- 耳の聞こえない人の世界を理解してもらうために、さまざまな取組みを行ってきた酒井さん。これまでの活動と今後の目標や生き方について、お話を伺いました。
弟のおかれた環境から自然と自分のすすむ道を確信
ろう者の次男、三男は小学生の時、遠方のろう学校へ通学していました。クラスメイトは2人のときや5人のときなど人数がバラバラで、友人と交流する空間が少なく、自分と比べて世界が狭いのかもしれないと疑問を持つようになりました。学校が離れているので、放課後に友達と遊ぶ機会もありませんでした。
高校生の時、弟のおかれている環境と常に向き合ってきたことから、自然と「聞こえない人のサポートをしたい」と思い、大学ではろう学校の教諭をめざして勉学に励みました。しかし、大学を休学して行ったワーキングホリデーの最中に子どもの時に感じた限られた世界を思い出し、『学校という場ではなく、聞こえない人と聞こえる人が一緒に過ごせる「居場所」をつくることが自分のすすむ道』と確信しました。
YouTubeチャンネルが大好評になりクラウドファンディングで資金集めへ
居場所づくりをするにも「資金」が必要で、クラウドファンディングで資金を集めようと考えましたが、無名の自分が協力を仰ぐのは簡単なことではありません。そこで、自分たちの人間性、兄弟間のやり取り、自分たちがイケメンであること(笑)など、興味をもってもらえたらという思いでYouTubeでの発信をはじめました。2020年8月に開始し、翌年10月には3万人の登録に達しました。
その後、クラウドファンディングが無事に成功。「居場所」を立上げ、その後学習支援などオンラインを中心に活動していきました。いずれもろう者の大学生などが手話講師となったり、教材をつくるなど、働く場にもなっています。ろう者はアルバイトでさえ、なかなか雇用に結びつかない現状もあるのです。
現在は手話を使って飲食とコミュニケーションができる「BAR」を中心に、月1回開催しています。参加者は聴者7割、ろう者3割で遠方から来られる方も多いです。手話を知ってもらうだけでなく、聞こえない人がどんなことに困っているのかを感じ取れる場になっていたら。
また、2025年の11月末にはイベント「デフフェス」を計画しています。「LGBTQ+レインボープライド」と同じ規模感で、ろう者・手話を理解してもらえるようなフェスをめざします。また、終了したあとも持続可能なものにしたいです。
(11月30日開催「デフフェス」特設サイト)
自分のためにやってきたことを周りのためや社会のために繋げていきたい
聞こえる者同士、聞こえない者同士、自分と似ている人と一緒のほうが居心地がいいこともあります。次男はろうの社会の中で生きてきましたが、社会人になって、聴者の友達が増えました。世界が広がった実感を覚えたと言っているのを聞くと、もっとろう者の世界が広くなるようにサポートしたいと思いました。ろう者としての誇りを灯し、輝く姿を未来に描けるように、聴者も当事者の声に耳を澄まし、共に生きる方法を模索して、一人ひとりが輝ける未来をつくっていきたいです。「自分のためにやってきたことが、周りのためや社会のために繋がっていくこと=カッコ良く生きるということ」というモットーを大切に、聞こえる人と聞こえない人との間にあるバリアを壊して、聞こえない人だけをサポートするのではなく、お互いに交われる「居場所」をつくっていきたいです。