社会福祉法人 六踏園 皐月(母子生活支援施設) 心理療法担当 浅香 嘉光さん
母子生活支援施設や働く職員の専門性をもっと知ってほしい
NEW 掲載日:2025年10月8日
2025年10月号 福祉のおしごと通信

社会福祉法人 六踏園
皐月(母子生活支援施設)
心理療法担当
浅香 嘉光さん

 

あらまし

  • 皐月(母子生活支援施設)で心理療法担当として働く浅香嘉光さんに、母子と接していて感じることや、施設で働く職員の専門性などについてお話いただきました。

 

親子関係に興味をもち心理の道へ

学生時代は、高校の教師になることが夢でした。実家が教会を営んでいて「人を助ける」を信条にしているのですが「これから先、助けるべきなのは人の心なのでは」と考え、大学では心理学を専攻しました。在学中、子どもへの虐待問題が世間で多く取りざたされるようになり、「虐待はなぜ起こるのか」「親子とは何か」と考え始めました。そこから親子関係や里親について興味を持ち、母子生活支援施設 皐月でアルバイトをすることにしました。そこで母子生活支援施設で働くことの面白さに目覚め、2015年に職員として入職して今に至ります。入職当初は指導員として、そして現在は常勤の心理療法担当として働いています。

 

心理療法担当とはいえ、施設内にはカウンセリングやグループワーク専任の心理士が別にいます。私に求められているのは、母親と子どもと、他の心理士や精神科医といった専門職との間を橋渡しする役割です。例えば、普段の何気ない会話や行動から、心理療法担当だからこそ見えてくる課題や視点などをケースカンファレンスなどで専門職と共有したり、専門職からの意見を実際の支援場面でどう生かすかを指導員や支援員と一緒に検討したりしています。また、ケースカンファレンスや各種会議ではファシリテーターや司会を担当することも多く、時には各種会議が円滑にすすむように、事前打ち合わせを提案することもあります。さまざまな専門職と利用者さんとの間を取り持つ“通訳”や、支援の道筋をつくる“枠づくり”の役割を期待されていると思いながら仕事に取り組んでいます。

 

施設で働く面白さと「男性像」への想い

皐月に入職して10年目になりますが、今でも学ぶことがたくさんあり、母子生活支援施設で働くことの面白さを実感しています。何より母親と子どもの“素の親子関係”を生活を通じて見ることができるのは、母子生活支援施設ならではです。「親子、家族とは何か」、「なぜ虐待が起きるのか」を知りたくてこの施設で働くことを決めた私にとって、とても貴重な環境です。

 

一方で、男性である私が母子生活支援施設にいる意味を考えることもあります。小学校低学年の男の子を抱っこする機会があり、「お父さんに抱っこされているみたい」と言われて、この言葉にどんな思いが込められているのかと思うと同時に、ここで働く男性職員は安心してもらうための力の使い方を求められているとも感じました。施設に助けを求める背景で多いのが父親による暴力です。母親や子どもの中には「男の人は怖い」というイメージをもつ方もいます。施設にいる間に、母親と子どもには「男の人は悪い人ばかりじゃない」「こんな男性もいるんだ」ということを実感してほしいですし、それを見せていくことを男性職員は求められているのだと思っています。

 

特に男の子は、ある年代になると母親とのコミュニケーションがとりにくくなり、父親のことを母親に話しにくくなることもあります。男性・父親にネガティブなイメージを抱いていると、自分に自信を持ちづらくなり、母親から聞く父親は悪く言われがちです。「父親=男性は憎むべき相手」という考え方に固執してしまったままだと悲しいなと思いますし、その子がいざ父親になった時に不安定になる事が想像されます。多様性が尊重されるの現代において、社会における性別による役割を語ることの難しさを理解しつつ、現場には必要な視点だと思うので、これからも考えていきたいと思っています。

 

専門性やスキルをもっと広めたい

昨年から、法人内の児童養護施設で月2回、居場所事業を始めました。そのほかに、里親さんや地域の方向けに心理カウンセリングを行ったり、学校の先生やスクールカウンセラーとも積極的に連携したりするなど、退所後に困ることがないように、地域の支援資源とちゃんとつなげて道筋を考えることも、施設の大きな役割だと思っています。

 

東社協では母子福祉部会の活動に参加し、他施設の職員の方とも関わる機会が多いです。そこでいつも話題になっているのが「職員の専門性」です。母子生活支援施設の専門性とは、それぞれの親子のあり方を尊重しつつ、寄り添いながら新しい生活に向けて伴走することではないかと思います。このスキルや専門性をもっと知ってほしいですし、違う分野にも広めていけたら早いうちに母子のSOSをキャッチでき、ケアの幅も広がるのではないでしょうか。母子生活支援施設で働く職員の専門性を他分野でさらに認知してもらうために、自分にできる事は何かを考え続けていきたいです。

取材先
名称
社会福祉法人 六踏園 皐月(母子生活支援施設) 心理療法担当 浅香 嘉光さん
概要
社会福祉法人 六踏園
https://chofugakuen.com/
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