医療部会 MSW分科会
ソーシャルインクルージョン~誰ひとり取り残さない社会をめざして~
NEW 掲載日:2025年11月7日
2025年11月 Focus on! 

 

今回は取組みの柱Ⅲ「暮らしの安心づくり」に位置づけられた取組みについて、東社協医療部会MSW分科会幹事会より寄稿いただきました。

 

あらまし

  • 東京都社会福祉協議会では、「令和7~11年度 東社協中期計画」において“協働”ですすめる5つの「取組みの柱」を設定しています。
    今号からのFocus onでは、それぞれの柱に沿って定めた令和7年度の重点取組みについてご紹介します。

 

無料低額診療事業のこれまで

「無料低額診療事業*1」とは、経済的な理由で医療を受けられない人を対象に、無料または低額な料金によって診療を行う事業です。ホームレス・人身売買被害者・DV被害者・在日外国人・震災被害者・刑余者などの社会的に援護が必要な方を対象とし、負担を軽減することで誰ひとり取り残さないように医療につなげることを目的としています。行政やNPO法人等の各種支援団体と連携し、主に健康面から基本的な生活の立て直しに向けた支援につなげています。東京都内では55の医療機関でこの事業を実施しており(2025年10月現在)、このうち30の医療機関が 東社協医療部会に所属し、福祉医療事業の充実に取り組んでいます。


*1 社会福祉法第2条第3項第9号に規定

 

『医療相談室』の現状

医療部会は、2002年ごろからホームレスに関する実態調査を実施したり、相談会を行ったりしてきました。2010年にはそれまでの取組みを引き継いだ『医療相談室』を設置し、相談を受けたら速やかにその方の現況や要望等を整理し、適切な医療を受けられる会員病院や診療所との受診調整を行っています。近年は活動範囲が広がり、多くの在日外国人の相談が支援団体から寄せられています。会員の医療機関が対応した実例をご紹介します。


在日外国人A:頭痛、腹痛、発熱に悩まされ、なんとか近くの医療機関にて自費受診したが原因は不明。更なる医療費が捻出できず支援団体に相談したところ、『医療相談室』につながった。受診調整ののち総合病院を受診し、マラリアであることが判明した。いまや日本では国内感染の報告がない症例だったが、すぐに感染症専門病院へ転送となり完治に至る。


在日外国人B・C:日本で働いてきた70代夫婦。収入があったうちはなんとか生活できていたが、高齢となり仕事ができなくなったこと、高齢の夫を支えていた主介護者である妻の視力低下により生活そのものを継続することが困難となる。支援団体が夫婦の状況を把握し『医療相談室』に相談、妻の総合病院への受診調整を図る。白内障手術を行った後は支援団体のサポートもあり母国に帰国し、生活保護に類する制度の利用、老人ホームへの入居に至ったとのこと。

 

『医療相談室』での外国人支援における課題と今後の展望

多くの外国人は、言語、文化、生活習慣の違いに加え、日本の複雑な在留資格制度や医療保険制度に関する知識も不足しがちで、必要な医療や福祉サービスから取り残されやすい状況に置かれています。2023年改正出入国管理及び難民認定法*2により難民認定制度の見直しと送還停止効の例外規定の創設が規定されるなど、在日外国人にとって在留資格や難民申請の運用に多大な影響も出ました。「制度の壁」「言葉の壁」「心の壁」と言われるように彼らが直面する課題は一つではなく、単一の制度やサービスでは解決できない複合的なものばかりであり、社会全体として包括的に支援していく必要があります。


『医療相談室』は支援システムの中で、各種支援団体との連携、情報の整理や共有、全体調整等の「ハブ」としての役割を今後も担っていきます。福祉・医療に携わるみなさんとつながりながら、ソーシャルインクルージョンが根付いた社会の実現に向けて取り組んでいきます。


*2 詳細は令和5年入管法等改正について(出入国在留管理庁HP)を参照

取材先
名称
医療部会 MSW分科会
タグ
関連特設ページ