特定非営利活動法人UPTREE
ビジネスケアラーを支えていくために
掲載日:2025年12月8日
2025年12月号 NOW

 

あらまし

  • 介護の需要が増す一方で生産年齢人口の減少による人材不足が避けられない状況において、仕事をしながら家族を介護する“ビジネスケアラー”への支援は喫緊の社会課題です。
    企業が、そしてわたしたち一人ひとりがこれからできることを2つの取組みから考えます。

 

10月のとある夜、渋谷にある商業施設で“介護者予備校”が開かれました。対象は介護を始めたばかりの人や介護未経験の人。なかには仕事終わりとみられる人もいて、30代から60代まで幅広い年代の参加者が家族信託や成年後見制度に関する弁護士からの話を真剣に聞いていました。主催は特定非営利活動法人UPTREEです。

 

「見聞きしたことがある」という経験を

「何も知らないまま介護をするというのは、泳ぎ方を知らなくて溺れている状態だといつも例えています。介護のスイミングスクールってないな、と思って、“介護者予備校”を始めたんです。介護し始めはいろいろ頑張っちゃうのですが、次第に余裕がなくなり、いつ終わるかわからない日々に疲れてきちゃいます。だからわたしたちは、いかに事前に介護について見聞きしたことがあるかが大切だと考えています。事前に知っておくことで、いざ介護に直面したときにどうしようかと悩む時間が短縮されます」とUPTREE代表理事の阿久津美栄子さんはいいます。


UPTREEは2012年から家族介護者支援(ケアラーサポート)やケアラーが集える場の提供を行ってきました。阿久津さんは、活動の始まりについて、「育児と介護のダブルケアをするなかで、自分自身をケアできず体調を崩してしまいました。当時を思い返すと、事前に介護について学ぶきっかけがなく知識がなかったことや介護サービスを使っても部分的にしかわからないことなどが浮き彫りに。これって誰でも陥ることだなと感じ、介護者の支援が必要なのではと思いました」と振り返ります。

 

経験談は“備え”の第一歩です

 

企業に期待したい支援とは

2019年頃からはビジネスケアラーの支援として企業内介護者カフェの運営を開始。実際に介護をしている人はもちろん、今後のためにと介護に関心のある人が参加した例もあるそうです。「介護の悩みの7割は、感情の整理がしきれないことに起因すると感じています。企業内カフェでは、同じ職場にいる者同士で悩みや不安を分かち合ったり、経験者から介護における工夫を学んだりすることができます。それにより『自分は一人じゃない』と思えて仕事にも介護にも向き合うことができ、結果的に離職防止にもつながっているのではないでしょうか」と阿久津さんはこれまでの取組みを整理します。社会的にもビジネスケアラーを支える重要性が着目され、事業主側でも制度を設けるなどの取組みにつながることが期待されています。


阿久津さんは、「制度をつくって終わりではなく仕事と介護のバランスをとることが大切だという組織文化が醸成されてほしい、それには経営層の意識改革が重要ではないか」と続けます。

 

気負わずに介護について話せるようになれたら

(株)セブン&アイ・ホールディングスは、社員からの声をもとに介護サロンを実施しています。その経緯について、人財本部人財共育部シニアオフィサーの髙木剛さんは次のように話します。「より働きやすい職場づくりをめざし全社的な取組みをすすめていくなかで、社員有志による分科会がいくつか立ち上がりました。そのうちのひとつが多様な働き方や勤務形態を考えていくことを狙いとした“Smile Support”で、2024年度より介護サロンを開始しました。社員の切実な声を聞ける場だと、この取組みの重要性を経営層にも理解していただいています」。

 

SmileSupportメンバー(左から福田さん・山口さん・

池田さん・池本さん・藤堂さん・中村さん)

 

介護サロンは現在月に1回、就業時間内に開催しています。Smile Supportのメンバーで介護サロンの運営を担う山口匠さんは、「現在介護をしている人、今後介護をするかもしれない人、介護が終わった人など参加者の背景はさまざまです。部下から介護に関する相談を受けたときのためにと、上司の立場で参加する人もいます。また対話を大切にするため、定員を6~8名程度に限定しています。個人が抱える悩みや近況をサロンの場で話してもらうことで、参加者同士の有益な情報交換はもちろん、本人にとっても状況の整理ができるようです」と話します。開催後のアンケートでは、『話しづらい介護の悩みや葛藤を聞けてよかった』『サードプレイス的な雰囲気でいい時間だった』などの声が寄せられています。ちなみにUPTREEの阿久津さんを招いて認知症について学ぶ会もあり、『専門家がいると安心します』という感想もあったそうです。「当初は制度の提案につなげることも考えていましたが、不安や悩みを話すだけでも心理的負担の軽減につながることがわかりました」と山口さんは振り返ります。

 

企業としても介護者を支えていけるように

「介護サロンの開催情報は社内全体に発信しています。しかし、それだけだとただ制度をつくったのと同じです。個別に声をかけると『実は気になっていて…』という人もいます」と話すのはSmileSupportメンバーでサロンを運営する池本佐恵子さんです。「まずは介護に関する制度やサービスを知ること。そしてそれらをどのように使うのか、自分や家族にとってよい選択なのか考え方を広げられたらいいなと思います。また、上司や同僚に言いづらいときの相談のしかたなど、経験者談を知ることで何となく感じる後ろめたさが軽減されている人もいます」と、介護サロンによる参加者への効果を話します。


次回以降も気軽に参加してもらえるよう、当日欠席された人には個別で連絡を入れているそう。顔がわかり信頼できる関係が職場で構築されることこそが、“介護をしながら仕事を続けられる”と思えるポイントなのかもしれません。このポイントについて、山口さんも「大企業だとより多くの社員に伝えようとセミナー形式の研修になりがちですが、小規模なサロンだからこそ参加者の安心感や理解につながっていると感じます。そして、経営層や人財本部からの後押しがあって続けられています」と話します。介護の話題は職場で出しづらいのが現状です。サロンを継続し、介護について気軽に相談できる場があることを広めていきたいとのことです。


単独世帯が増加していたり、地域との関係が希薄になり近くに頼れる人がいないという人も増えています。こうした状況をふまえ、池本さんは「介護を家族だけの問題とするのではなく、企業側もサポートをさらに推進することがますます重要になってきますね」といいます。

 

和やかな雰囲気のサロン

 

2025年4月1日に施行された改正育児・介護休業法*1では、労働者の介護離職防止のため、雇用環境の整備や制度の周知等が事業主に義務づけられました。経済産業省からは経営者向けガイドライン*2が公表されており、事業主による仕事と介護の両立支援の充実が期待されます。それとともに、一人ひとりがちょっとアンテナを立てることで自分らしい仕事と介護のバランスを見つけられるのかもしれません。

*1 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律(2024年法律第42号)
*2 仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン(経済産業省)

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特定非営利活動法人UPTREE
概要
特定非営利活動法人UPTREE
https://uptreex2.com/
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