みたか多世代のいえ
人生の最期まで、自分らしく過ごせるあたたかな家
NEW 掲載日:2026年1月9日
2026年1月号 み~つけた

 

 

高齢者の生きがいを育む「終の棲家」

三鷹市にある住宅型有料老人ホーム「みたか多世代のいえ」には、高齢者だけでなく若者や子育て世代も一緒に暮らしています。ここをつくったのは在宅医療や緩和ケアに15年以上関わる医師の村野賢一郎さんです。村野さんは訪問診療に携わる中で、うつ病や不安感などメンタルヘルスに課題がある高齢者が多いことを実感してきたといいます。実際の論文(※)でも、自宅介護の高齢者に精神疾患の有無を調査したところ8割ほどが該当し、そのほとんどが未治療であることが明らかになっています。

(※)出典:葛谷ほか:日本老年医学会誌2006 年 43 巻 4 号,P512-517.

 

高齢者に人生の最期まで自分らしく過ごしてもらうにはどうしたらいいか、村野さんは思いを巡らせました。「私の子どもがまだ赤ちゃんだった頃、一緒に道を歩いているとお年寄りによく話しかけられました。お年寄りのあのポジティブな感情や、子どもの力ってすごいなあと思っていて。お年寄りがお年寄りがポジティブな感情が持てて、一時的なものではなく日常的に続く環境って何だろうと考えた結果、幅広い世代が一緒に住む“家”をつくったらどうだろうと思ったのです」。想いに共感したシェアハウス運営会社とともに準備をすすめ、2025年6月に三鷹市に「みたか多世代のいえ」が完成しました。

 

3階建て全22室のうち、シニア向け居室が15部屋、シングル家庭向けが4部屋、単身向けが2部屋、数泊〜1か月といったショートステイや体験入居にも使えるモデルルームが1部屋あります。村野さんは「ここをつくる過程で、シングル家庭や社会的養護を必要とする人たちも応援したいと思い、それぞれの部屋を作り、家賃設定も低めにしました」と説明します。


1階の開放的な吹き抜けの空間には、天窓から陽の光が差し込み、「つながりの場」と呼ばれるホール、共有リビング、食堂が連なっています。「つながりの場」は地域の人たちにひらいています。介護保険を利用する人は75歳以上、医療が必要な方は原則年齢やADLのレベル問わず誰でも入居が可能です。面会時間も特段決まっておらず「入居者のご家族にも、“親の家”だと思っていつでも来てもらってかまいません」と村野さんは説明します。

 

何より大きな特徴が、在宅緩和ケアを専門とする医師である村野さんが大家兼、住人として共に暮らしていること。生活を一緒にしているからこそ小さな異変や不安に気づき、万が一の時にはすぐに対応できる安心感が最大の強みです。看護師や介護士も常駐し、24時間体制で見守ります。

 

もうひとつの特徴が、1階にある多世代コミュニティスペースです。シェアキッチンが設置され、カフェの営業や各種イベントなどに利用できます。窓を開放すれば縁側として使え、定期的にマルシェを開催するなど、地域にひらくための構造やしかけが施されています。また、多世代コミュニティスペースの一角にある「みんなの図書館とまりぎ」は、一人一箱のオーナー制の私設図書館です。図書館という場所を使って地域の人たちと居住者がつながることができるのは、めざしていた形の一つだと村野さんは話します。

 

 

キャッチフレーズにかけた想い

「みたか多世代のいえ」には、『私らしく、最期まで』というキャッチフレーズがあります。訪問診療および緩和ケア、双方の認定資格を持つ村野さんは、痛みや苦しみを少なくするだけが緩和ケアではなく、最期を迎えるその瞬間まで人間らしく、生きがいを感じてもらうことが緩和医療の本質だととらえ、現状の訪問診療体制だと利用者を点ではなく線で見られない歯がゆさをずっと感じてきたそうです。

 

ある末期がんの利用者のエピソードを静かに話してくれました。「ある時、遠方に住むその方のご家族から『最後の誕生日会をしたい』とお話がありました。それまでずっと昏睡状態が続き、せん妄もひどく暴れてしまう事も多かった方なのですが、その日のためにこまめにモニタリングしながら薬をコントロールした結果、奇跡的に意識が回復しました。無事に誕生会が開かれ、その翌日に静かに息を引き取りました。病院や老人ホームでは一人ひとりを細かく診ることはできませんし、訪問診療でも2週間に1回くらいのペースでしか医師は関わらない。でも、ここなら医師である私が身近にいて、本人や家族の意見を尊重しながら最期を迎えることができる。キャッチフレーズの通り、亡くなる瞬間までその方らしくいられるお手伝いができたのかなと実感した出来事でした」。

 

共に住むことで生まれる信頼関係と役割

多様な人たちが住む環境では、お互いが得るものがあるWin-Winの関係性や助け合いが生まれ始めています。「ある時、軽度の認知症の方が重度の認知症の方のお手伝いをしてくれたことがありました。また、認知症の方がシングル家庭の子どもの食事の介助をしてくれたり、あやしてくれたり。一人ひとり暮らしていた時にはなかった相互の助け合いの関係性が生まれています。日常生活を共に過ごすことでお互いに信頼関係が生まれ、ケアを提供されるだけではない、立場が変わればケアを提供できる側にもなり、その方の生きがいにつながっていくというのは、ここでしか生まれないことだと思います」と村野さんは想いを話してくれました。

 

オープンして約半年。今考えているのは「共通通貨」をさらに活用すること。たとえばここに住む若者がシニアの散歩の手伝いをすると「共通通貨」がもらえ、これを円で換算し、家賃や食事代に充当できるというもの。村野さんは「関係性促進の目的でつくったすでにあるしくみですが、さらに活用できたら面白いシナジーが生まれそうです」と最後に展望を明かします。

 

最期を迎えるその時まで自分らしく過ごせることをめざして。多様な人たちとの関係性を育む居場所であり、今までにない「新しい老人ホーム」として、地域に在り続けます。

 

取材先
名称
みたか多世代のいえ
概要
みたか多世代のいえ
https://tasedai.or.jp/
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