あらまし
- 病気や障害、介護などで外出が難しい人たちが、自分たちの“分身”として遠く離れた人と交流ができる遠隔操作ロボット「OriHime(オリヒメ)」。東京都教育庁地域教育支援部が実施する「インクルーシブな学び」プログラム事業の一つとして、「OriHime」を使ったプログラムがつくられています。2025年12月19日にこのプログラムを課題授業として企画した東京都立田園調布高等学校に取材しました。
外出や移動困難者の新しい社会参加のかたち『OriHime』とは
病気や障害などを理由に外出や移動が困難な人たちが、社会的孤立・孤独に陥らないために開発されたロボットが「OriHime」です。「OriHime」にはカメラ・マイク・スピーカーが搭載されていて、さまざまな角度に動かしたり喜怒哀楽が表現できたりします。学校や会社などといった離れた場所に「OriHime」を置くことで、その人の分身のように、あたかもそこに“居る”ようなコミュニケーションが可能になります。
このたび、東京都教育庁地域教育支援部が実施する「インクルーシブな学び」プログラム事業の一つである、「OriHime」を用いたプログラムが、課外授業として東京都立田園調布高等学校にて行われました。当日は、株式会社オリィ研究所からファシリテーター2名が来校し、総勢17名の高校生が参加しました。
東京都立田園調布高等学校校長の藤田豊さんは、このプログラムを学校の課外学習の一つとして企画した背景を次のように話します。「もともと、分身ロボットOriHimeは新聞などを通じて知っていました。地域教育支援部の『インクルーシブな学び』プログラム事業で、OriHimeロボットのパイロットさんのお話を伺いながら交流できることを知り、生徒に社会とのつながりとは何か知ってほしいと思い、申し込みました。特に、プログラミングが好きな生徒には、作ったシステムの先には人がいること、福祉に関心がある生徒には、新しい発想や技術を使うことで、社会課題の解消につながることを知ってほしい。さまざまな人の得意を掛け合わせると、その中にいる人の生活が変わることなどを感じてほしい」と話します。
「OriHime」を通信して当事者の声を知る
ワークショップは2部構成になっていて、第一部では、「OriHime」のロボットの説明や、開発者の株式会社オリィ研究所の吉藤オリィさんからのビデオメッセージを見ながら、分身ロボット「OriHime」ロボットについて紹介いただきました。次に大学院生の時に多発性硬化症を発症して車いす生活となった「まちゅん」さんに「Orihime」で遠隔操作をしながらご講演いただきました。「まちゅん」さんは多発性硬化症に加えコロナに罹患し、数か月間、寝たきり生活を送っていましたが、孤独感に悩みながらも社会での活躍を求め、働くことを決意。現在はオリィ研究所が展開する分身ロボットカフェで「OriHime」を使って働くかたわら、「OriHimeパイロット」として、病気や障害があってもあきらめない働き方を講演などで発信しています。講演では、ご自身の半生から「OriHime」を使って働くことになったきっかけや、働く上で立ちはだかった「物理的」「制度的」「文化的」「心理的」の4つの壁(バリア)についてご説明いただきました。参加した生徒たちは、病気や障害のあるなしにかかわらず、すべての人たちが社会で受け入れられ、包摂される「ソーシャルインクルージョン」について理解を深めました。

「まちゅん」さんの講演の模様
第2部ではグループに分かれてのディスカッションを行いました。まず「OriHime」の操作説明があり、タブレットで実際に動かしたりリアクションしたりしながら「おおー!」と目を輝かす生徒も。続いて、病気や障害、介護などさまざまな背景がある当事者4名が、各グループに設置された「OriHime」で通信し、自身の半生やロボットを使って働くことになったきっかけなどを話してくれました。
聴覚障害者の当事者に話を聞いたグループでは、「映画館で補聴器を付けて映画を見ていたら、補聴器の反響する音がうるさいと言われ、映画を最後まで楽しめなかった」という話がありました。生徒からは「身近な事なのに今まで何で気付かなかったんだろう」という声が多く聞かれました。障害のある人たちが日常的に対峙している社会のバリアについて、改めて考える機会になったようです。

グループワークの様子。「OriHimeパイロット」が入れ替わりで
各グループに配置された「OriHime」で通信し、それぞれの経験談を語る
また、車いすユーザーの話を聞いていたグループからは、「車いすに乗っていると目線が120センチくらいしかない。混雑している電車内では、車内放送や駅の看板が分かりにくい」という壁があることを知り、「車いすの目線の高さについて考えることはなかった」「気が付かないところでたくさんのバリアがあり、そのことについて考えなければいけないと思った」などの意見も聞かれ、車いすユーザーが感じるバリアについて真剣に耳を傾けていました。
第2部の締めくくりとして、各パイロットから聞いた話を参考に、社会にある4つの壁について付箋で分類しました。最後にグループで発表を行い、ワークショップが終了しました。

パイロット(当事者)から聞いた経験談を書いた付箋が、
4つのバリアのうちどれに当てはまるかを分類していく
藤田校長は、「普段何気なく生活をしていると、さまざまな立場の方がいらっしゃることに気が付かないことが多いと思います。今回の企画は、分身ロボット「OriHime」のパイロットさんからお話を伺う中で、社会のバリアに気づき、自分の行動や社会があり方について考えてもらう機会となったと思います。一歩踏み出して、企画に参加してくれたことを嬉しく思います。ぜひ今日吸収したことを自分の中で考え続け、周りの人たちにも広げていってほしいです」と最後に話します。
障害、病気などにとらわれず、すべての人たちが自分らしく生きることができる共生社会とは―――。それを実現させるためには、まず社会や自分の周りにある課題について“知ろうとすること”が重要です。今回のワークショップを通じて当事者が抱えるさまざまな課題について、生徒一人ひとりが主体的に考えるきっかけになったのではないでしょうか。
ワークショップに参加した生徒たちの声(一部抜粋)
- ・「知らない」が「知っている」になるだけで、見え方は大きく変わる。だから一歩踏み出してみることが大切。
・自分が当たり前だと思っていることを見つめなおして、新たな視点をもつことは、今回だけでなく、様々なことを知れるきっかけになる。
・身体障がいのある人や移動が難しい人にとって「働く」ということは、孤立せず様々な人とつながりを持ち、社会に参加している実感を得るものだと分かった。
・パイロットの方がおっしゃっていた、日常の中のバリアが自分の想像していた以上にたくさんあることに驚いた。
・もしも私たちが、事故や病気で身体が動かなくなってしまい、つらいことになっても、今回の分身ロボット「OriHime」のように、生きる希望はあると教えたい。
https://orylab.com/








