
NPO法人 全国こども福祉センター 理事長
愛知文教女子短期大学 准教授 保育士・社会福祉士
荒井 和樹さん
著書に『子ども・若者が創るアウトリーチ』(2019, アイエス・エヌ)、
『能力社会から共同体自治へ』(2025, せせらぎ出版)がある。
あらまし
- 「これからを生きる次世代へ」と題してこれまで6回にわたり、子どもや若者の“生きる”に対して多様なアプローチで取り組む人に話を聞いてきた本連載。最終回となる今号では路上や公共空間で子どもや若者と“仲間”として出会い、ともに共同体を運営することからアウトリーチに取り組んできた荒井和樹さんを取材。子どもや若者が安心して生きられる地域社会とは。取組みからみえてきたことをお聞きしています。
福祉ではなく、路上やSNSを選択するこどもや若者たち
15年以上にわたって路上や公共空間を拠点とし、生きづらさや困難を抱える子ども・若者と関わってきた荒井さん。その背景には施設職員時代に出会った福祉や支援を選ばず、SNSや路上へと向かう子どもや若者の存在があります。大人に騙されたり、犯罪に巻き込まれたりする彼らを前に自分は何かできないのか ―。福祉や教育関係者によるアプローチもほとんどない当時、路上で子どもや若者に声をかけることから始めていったといいます。しかし、当初は周囲に理解してもらえず、一人で難しい時もあったそう。そんな時に荒井さんの力になってくれたのは、まさに声をかけた子どもや若者たちでした。出会った彼らと一緒に声かけをしたり、交流活動を企画したり。そうして仲間が増えていき、2012年のNPO法人全国こども福祉センター設立につながっていきます。
今では80名を超えるメンバーが活動に参加し、その8割は子どもや若者。声をかけられた人もいれば、ボランティア活動をしたくて来る学生も。ソーシャルワーカーや教育関係者もいて、多様な背景や動機を持つ人がそこで「仲間」として出会い、ともに何ができるかを考えて取り組む共同体に発展しています。子どもや若者はそうした多様な人との関わりのなかで福祉につながることもあるし、福祉以外の選択肢や可能性を知ることもあるといいます。これまで全国こども福祉センターでは2万人を超える若者に交流や活動機会を提供。団体として現在は助成金等を活動資金とせず、そこに居合わせた人たちの願いや考えを尊重する運営を大切にしています。

公共空間で出会い直した先にあるもの
公共空間に拠点を創る背景には、“子どもや若者が大切にしている場所で出会いたい”という思いとともに、公共空間が持つ“人と人とが出会い直せる可能性”があります。「人口が少ない町で育った自分にとって若者も含めて多くの人が街にいるのに全く会話をしない、助け合わないことに対して日々感じるものがありました。自然と人が集まる場所で地域福祉的な活動ができたら、福祉に否定的な彼らともつながることができるんじゃないか。肩書きも立場も背景も関係なく、そこで出会った人の表情や姿をみながら、信頼関係を育んだり。従来の福祉活動から脱却できる期待がそこにはありました」と荒井さん。支援のなかでの出会いは関係性が固定化されてしまうし、子どもや若者の尊厳を奪うことになるかもしれない。だからこそ、全国こども福祉センターでは公共空間で“仲間”として出会うことを大切にしてきました。
「仲間として出会うからこそ、そこに安心が生まれたり、その先に仲間のために何ができるかという思いが芽生えたり。もちろん揉め事もありますよ。でもそれは当たり前でみんな考えも価値観も、歩んできた道も違う。路上生活者のメンバーもいます。そうした多様な他者と子どもや若者が“仲間”として出会うことは、情報で得られない姿を知ることになるし、違いを許容していくことにつながるように思います。誰もが頼り頼られながら生きている。そのことをリアルに体感することが大切」と荒井さんは話します。
これからを生きる次世代へ
現代を生きる子どもや若者をとりまく厳しい社会。過度なルッキズムや偽りがネットには溢れ、個人を能力で評価する流れは加速し、個人主義や完璧主義で苦しむ人が増え、閉塞感や無能感が広がっています。そんな時代だからこそ私たちに求められているあり方を荒井さんは次のように考えています。「公共空間には、立場を固定せずに出会い直せる余白がある。人口が減少し個人に力が求められる時代だからこそ、他者も自分も大切にすることが大事。子どもや若者の周囲の大人や支援者も一人ひとりを無条件に受け止めてほしい。そこに理由はいらなくて、仲間だから助けるみたいな。そして子どもや若者はいろんな人を頼って、多様な人に出会い、多様な体験をしてほしい。みんな助けられながら生きているから。『自分がいなくても社会は変わらない』。そんな思いが生まれたら、一人、二人の仲間と小さな社会をつくってみて一歩踏み出してほしいな。個人ではなく、共同体でアプローチしていくことがまさに今私たちに求められているのでは」。
血縁や地縁が希薄化し、社会に広がる孤独や孤立。だからこそ、荒井さんが考えるように個人単位ではなく、居合わせた人で取り組んでいく。そんな小さな関わりを紡いでいくことが、子どもや若者が安心して生きられる地域社会につながるのではないでしょうか。








