
社会福祉法人池上長寿園 大田区若年性認知症支援相談窓口
大田区若年性認知症支援コーディネーター 堀端 秀和さん
社会福祉法人東京コロニー 東京都大田福祉工場
障害福祉サービス統括部長 朴 沙羅さん
誰もが自分の気持ちを表現できる場づくり
(社福)池上長寿園では、2020 年から区の委託を受けて若年性認知症の方を対象に相談窓口を開設したり、通いの場や交流の場を創出したりと包括的な支援に取り組んできました。そうしたなかで、同じ区内にある(社福)東京コロニーが運営する障害福祉サービス多機能型施設の東京都大田福祉工場(以下、大田福祉工場)と連携して若年性認知症の方の「働く場」に取り組み始めたのは4年前からです。イラストレーターをされていた相談者の方がいて、大田福祉工場に相談して利用者と一緒に絵を描くことをはじめたことがきっかけです。若年性認知症とわかってからは絵に対しても自信がなくなってしまっていたのですが、時間を重ねていくうちにその人の表情がどんどん豊かになっていって。今でも絵の講師としてボランティアで関わるなど、つながりは続いています。
そんなふうに相談窓口から大田福祉工場につながって、働いたり、ボランティアとして関わる人もいたりして。2法人で協働しながらその人の働く場を一緒に考えるだけでなく、アート展やチャリティーバザー、マルシェなどの企画も現在は実施しています。若年性認知症の当事者の方や大田福祉工場の利用者の人が当日の運営スタッフをやりながら、地域住民と交流する機会にもつながっていて、「誰かの役に立ちたい」とか「働きたい」とか、「社会とつながりたい」とか、障害があっても誰もが自分の思いを表現することができる場づくりを多様な関係者とともに取り組んできました。

自分の役割や社会とのつながりを感じながら、少しずつ自信を取り戻していく
若年性認知症支援相談窓口には年間約1,900 件程度の相談が寄せられるのですが、その多くが40 ~ 50 代で在職中の人もいたり、就労意欲がある人もいたりして、福祉サービスの利用に抵抗がある人も少なくありません。仕事や生活の中で次第にできないことが増えていき自分自身も戸惑うなか、仕事を辞めざるを得なくなったり、周囲の見方も変化していったりで、窓口に来るまでにみなさん本当にいろんな葛藤や経験をされてきたんだと感じています。そうした相談に来る人たちがここに来るまでに背負ってきたものに対して敬意を払い、支援者目線ではなく同じ社会に生きる一人として向き合うことを意識しています。そして、いずれの方も「自分になんてできない」「迷惑をかけちゃう」というようにここにたどり着くまでに自信を失くされていて、自分の気持ちを表現することにブレーキをかけられています。だからこそ、それぞれが自分の役割や地域の一員であることを感じられる日々の声掛けや経験だったり、アートを通じて表現することや地域に開いた場の創出だったりが大切で。「やってみてよかった」「参加してよかった」といった成功体験を積み重ねていきながら、その過程で新たな一面にも出会ったりもして、少しずつ自信を取り戻してもらえることをめざしています。
当事者のことを知り続けること
これまで取り組んできてみて、その人のことを「知り続ける」ことが大切だと感じます。ご本人の思いや状況をはじめ、日々のさまざまな場面でみえてきたことをベースにしながら、どんなやり方だったらその思いを実現できるのか、どんな関係者とつながればその可能性を広げることができるのか、一緒に考えていく姿勢を心がけています。家族や支援者といった周囲が当事者を抜きに考えるのではなく、当事者の声を聞くことが大事であり、主体はあくまで当事者です。例えば、当事者会のみなさんが旅行を企画したら、私たちはそこに必要なサポートをするだけ。そのことを常に意識して動くようにしています。
何より、“無理をしない” ことが取組みを続けていくためには必要で。参加するみなさんもそうだし、担当する私たちも楽しめるくらいで取り組むことがいいんだろうと感じます。それぞれの法人が障害、高齢分野で取り組んできた強みを生かしながら、地域の民間団体や行政、住民など多様な人たちとつながってその時々に一緒にできることを考えていきたいです。担当が変わったら取組みが終わってしまっては意味がないので、無理をしすぎないで、ゆるくできることを続けていくことが今はとても大事ではと考えています。
その人の可能性をとにかく信じること
若年性認知症は年齢を理由に、本人を含めなかなかその変化に気づきにくいです。全国で若年性認知症当事者は約3万6千人とされていますが、潜在的には約8万~10万人ともいわれています。まだまだ専門の相談窓口や取組みも多くなく、支援が届きにくく、会社を離職したり、周囲との関係性が絶たれたりで社会的孤立に陥りやすい状況があります。そして「認知症」だからといって、介護保険サービスにつなげばいいというわけではありません。若年性認知症になってもその人自身が何か変化するということではありません。むしろ変わってしまったのはその周囲にいる家族だったり、支援者だったりで。「若年性認知症」を理由に、その人の声を聞くことやその人自身をみることをせずに自然と決めつけてしまうことは、その人が自分らしくいられる機会や可能性を奪うことにつながっているのではないでしょうか。
さまざまなかたちで場に参加したり、人や地域とつながったりすることを通じて、みなさんどんどん表情が明るくなり、自信を取り戻していく姿を何度も目にしてきました。
障害があってもなくても、誰もが表現することを諦めることなく、自分らしさを感じることができる社会には、“その人の声を大切にする”、“その人の可能性をとにかく信じる”、そんな一人ひとりの意識が大切であるといえます。
相談に来たご本人、そしてその家族が「ここに来てよかったな」と思ってもらえるように―。これからも2法人で協働し、取組みの可能性を広げていきたいです。
KEY ESSENCE by interviewer
- 1. 本人の声を何より大事にする姿勢
2. 自分自身を表現できたり、社会とのつながりを感じられる場の創出
3. 多様な関係者との協働による可能性や選択肢の広がり








