特定非営利活動法人 日本ファーストエイドソサェティ
「酷暑時代」に福祉現場で働く人を守る熱中症対策
NEW 掲載日:2026年7月10日
2026年7月号 NOW

 

特定非営利活動法人 日本ファーストエイドソサェティ
代表 岡野谷純さん

 

あらまし

  • 近年、熱中症リスクはこれまで以上に高まっています。特に福祉現場では、利用者支援を優先する中で、職員自身の体調管理が後回しになりがちです。今回は、熱中症対策を「組織で取り組むべき課題」と捉え、福祉現場で実践できる対策や留意点を紹介します。

 

厳しさを増す日本の夏

近年、夏の暑さはこれまでの感覚では語れないものになり、天気予報では「危険な暑さ」と表される日もあります。2026年4月、気象庁は新しい予報用語として最高気温が40℃以上の日を「酷暑日(こくしょび)」と定めました。今や暑さは生活や働き方にも影響を及ぼす大きなリスクとなっています。こうした暑さの変化の中で、避けて通れないのが熱中症対策です。

 

今回、熱中症対策について、特定非営利活動法人日本ファーストエイドソサェティ(以下、JFAS) の岡野谷純さんにお話を伺いました。JFASは、応急手当や災害支援等に関する普及啓発・研修を行っていますが、熱中症についても、中学・高校や企業向け研修、親子向け講座など、対象に応じた研修を全国で実施しています。


岡野谷さんは、「特に日本は湿度が高く、気温だけでなく湿度への対策も重要」と話します。湿度が高いと汗が蒸発しにくく、身体に熱がこもりやすくなるためです。また、「特に都市部では日中アスファルトに蓄積された熱が夜間に放出されることで気温が下がりにくくなるなど、夜間も身体が十分に休まらない環境が生じています」と指摘します。


福祉現場と熱中症対策

こうした状況を踏まえ、2025年に労働安全衛生規則が改正され、一定の条件下で熱中症のおそれがある作業については、事業者による対策が義務化されました。背景にあるのは、「熱中症対策は個人の体調管理だけの問題でなく、組織で職員を守らなければならない」という考え方です。福祉現場でも、以下のような業務が熱中症リスクの高い場面として挙げられます。


福祉現場で熱中症リスクが高い場面(例)
◆訪問支援(屋外移動・自転車移動等)
◆屋外作業・外遊び
◆入浴介助(高温・高湿度環境)
◆厨房での調理
◆その他空調管理が難しい環境での支援・業務


加えて、常時マスク着用、利用者の体感に合わせた室温設定など、軽い熱負担が長時間続く環境も熱中症のリスクにつながると岡野谷さんは指摘します。

 

では、福祉現場ではどのような対策を立てるとよいのでしょうか。岡野谷さんは、特別な取組みを追加するというよりも、日常業務の流れの中に対策を組み込んでいくことが大切との考えを示します。

 

●岡野谷さんによるポイント2点!
「ついで補給」をルーティン化
例えば、水分補給を“各自で適宜行いましょう” ではなく、普段の業務手順書等に明確に組み込み、決まったタイミングで水分をとることを仕組み化していくとよいです。


◆利用者へ配茶したら自分も一口
◆入浴介助の前後に一口
◆記録前に一口


このような「ついでに飲む」をルーティン化することは非常に有効で、また少量をこまめに飲むことで無理なく水分補給を継続でき、熱中症予防には適しています。

 

職員同士で守り合う
あわせて、職員同士の声かけや観察も大切です。職場は常に忙しく、熱中症対策の必要性は分かっていても、つい後回しになってしまうこともあるでしょう。ただ、一人でも体調を崩すと、その影響は本人だけでは済みません。自分自身と仲間を守ることも利用者支援を続けるための大切な視点です。

 

特に新人職員は、目の前の業務をこなすのに手一杯なため、「いつ行けばいいかわからない」、「自分だけ飲みに行きづらい」、「飲み物を取りに行くまでの移動時間がかかる」と思い、ついつい機を逃してしまうこともあります。だからこそ、先輩職員が「水、飲んだ?」「少し休もうか」と声をかけることも大切です。新人職員にとってもタイミングがつかめれば、その後は自然に慣習化され、さらに後輩が入ってきた際にも指導してあげられるようになります。

 

また、熱中症は突然倒れる病気ではなく、その前段階で身体や行動に変化が現れることが多いです。気分が悪くなる、吐くというのはかなり症状が進んだ状態です。その前に、少しイライラしている、口数が減る、反応や動きが遅くなるといった「いつもとちょっと違うな」という変化が出ることがあります。もちろん熱中症によるものだけとは限りませんが、そうした小さな変化に気づくことが大切です。

 

福祉職は日頃から利用者の小さな変化を観察し、支援につなげています。利用者さんに向けている観察の目を、一緒に働く仲間にも向けてもらえればと思います。

 

また、職場における熱中症対策が義務化されたことを踏まえ、岡野谷さんは福祉現場の責任者・管理者層に向けて、「対策をしていたかどうかが問われる時代になってきている」と呼びかけます。「対策を講じていた上で起きてしまったことと、必要な対応をしていなかったことでは意味合いが異なります。大切なのは、ルールを作って終わりにすることではなく、職場全体で共有し、みんなが共通認識を持って行動できる状態にしておくことです」

 

また、職員一人ひとりに安全管理の考え方を浸透させることも重要だと話します。「何か起きた時に管理者だけの問題として考えるのではなく、組織全体で守り合う意識を持つことが大切です。そのためにも、日頃から職員同士で声をかけ合い、体調変化に気づける環境をつくっていけるとベストですね」

 

福祉現場の皆さんへのメッセージ

岡野谷さんからは、「現場は忙しいので、気づかずに時間が過ぎていることもあると思います。でも、大切なのは水分補給などの対策をきちんと続けられる環境です。利用者支援と職員自身の体調管理を切り離すのではなく、先述したように業務の流れの中に組み込んでいくことで、継続しやすくなります。

 

また、『まだ大丈夫』、『迷惑をかけたくない』と頑張ってしまう職員も多いです。だからこそ「水飲んできます」「休んでおいで」と言える空気をつくることが大切です。お互いの小さな変化に気づき声をかけ合える職場は強いと思います」とメッセージをいただきました。

 

利用者を守り、支援を続けるためには、まず福祉現場で働く方々が安全に働き続けられることが大切です。今年の夏も厳しい暑さとなることが予想されています。利用者のためにも、自分自身のためにも、無理をせず、周囲と声をかけ合いながら乗り切っていきたいものです。

 

●岡野谷さんおすすめ 簡単にできる!熱中症予防対策
「手のひら冷却」
最近、注目されているのが「手のひらや手首を冷やす」方法です。
手のひらや前腕には、体温調節に関わる特殊な血管(AVA 血管) が多くあります。暑い時には血管が広がることで体の熱を外へ逃がしやすくなるため、水で冷やすことは、熱中症予防の一つとして役立つと考えられています。
なお、氷水などの冷たすぎる水ではなく、一般的な水道水で十分とのこと。


例えば…
 手洗いの際に手首まで流水を当てる
 ご利用者の手洗い介助時に自分も冷やす
  外から戻った際に、短時間でも流水で手を冷やす

 

などは、業務の流れの中でも無理なく取り入れやすい方法です。
今年の夏、日々の熱中症対策の一つとして、ぜひ実践してみてはいかがでしょうか。
※「手のひら冷却」は熱中症予防の一方法です。症状がみられる場合は、すぐに熱中症の応急手当を開始してください。

取材先
名称
特定非営利活動法人 日本ファーストエイドソサェティ
概要
特定非営利活動法人 日本ファーストエイドソサェティ
https://www.jfas.jp/
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